第102話 もう一人の救世主の降臨です。
「咲耶ちゃんが来たからにはもうスペフィシュの皆は心配いらないよっ☆彡」
イラッ。
なんなんだこの軽いノリは。
想像できないほどの年月を生き続けてきて、その世界においては神以上の力を持つとも言われているらしい世界樹様なのにこんなに軽くて良いのか?
俺は今までコノハのあのおかしな言動やぶっ飛んだ行動は、コノハ自体のキャパシティが足りないせいで幼児退行してるだけかと思っていたけど思い違いだったようだ。
あと、なんだかポーズとか色々微妙に古いのがコノハの中身がBBAだと知っている俺の神経を逆なでしてくるのだ。
「咲耶姫様……まさか、そんな」
山田さんが彼女を見て唖然としている。
咲耶姫のノリに呆れているというわけでは無く、本当に目の前で起こったことが信じられないといった顔だ。
というか、山田さんはあちらの世界で咲耶姫と『会話』をしていたはずなのに彼女がこんな軽いノリの世界樹だという事を知らないとは思えなかったが、もしかしてあちらの世界では猫をかぶっているのだろうか。
それともやはりコノハ自体のキャパシティが足りなくて落ち着いた大人の木之花咲耶姫までは召喚出来なかった?
俺としては是非そうであってもらいたい。
でないと色々と幻想がぶち殺されてしまう。
「あれれー山田クン、もしかして私の神々しさに見とれちゃった? それともこの美貌に惚れちゃった?」
空中に浮かんだままコノハの体がクネクネ
なんだかウインクまでし始めたが、もしかしてあれはセクシーポーズか何かなのだろうか。
しかし閉じてない方の目も半開き状態の明らかにウインクが苦手な人の顔になっているのが残念さしか感じさせない。
「いえ、そんなことは」
山田さんは完全にテンパっているようで咲耶姫の言葉に対してまともに返せていない。
いつもの山田さんならイケメンスマイルでサラリと上手に流すであろう彼女からのネタフリすらそれと気がついていない。
「あっ、これはその、咲耶姫様が神々しくないとか美しくないとかそういう意味では無くてですね」
そして更にドツボに。
これには軽く流してほしいネタを降った方の咲耶姫も目尻がひくひくしているじゃないか。
まぁ、しかし彼がこんなにわちゃわちゃしている姿なんてそうそう見れるものじゃないな。
スマホで動画撮影しておくべきだろうか。
なんだか種族が違うとか性的対象に見るなんておこがましくてとか言い出してる。
あの山田さんをここまで混乱させるなんて、さすが世界樹様だな。
「山田さん、落ち着いて深呼吸するですです。はい、ひっひっふー」
「ひっひっふー」
ダメだ、高橋さんもテンパってやがる。
そしてその元凶である咲耶姫はというと、何やらそんな二人を見て楽しそうだ。
「あー、咲耶姫様」
「なぁに田中くん。あなたも見とれてたのね☆彡」
「いや、本当にそれはないんで」
「ひどいっ」
この人、この世界にやって来た理由をもしかして綺麗さっぱり忘れてる?
やはりコノハのキャパシティじゃ色々抜け落ちた状態でしか顕現できないのだろうか。
「木之花咲耶姫様、お久しゅうございます」
俺が彼女に対してこれからどうするか考えていると藤原さんの声がした。
その声はなんだかこころなし震えているように聞こえる。
せっかく出会えた自分の世界の世界樹様がこんなのだったからかな?
さもありなん。
「あなたがこの里をまとめてくれている藤原ですね。コノハを通じて話は聞かせてもらったのじゃ」
咲耶姫はそう言うと藤原さんの元へゆっくりと飛翔し、彼の手を小さな手で握り優しく微笑んだ。
その姿は「ああ、女神さまっ!」と一瞬俺が思ってしまうほど美しく見え、先程までとはまるで別人のようだ。
もしかしたら本来の彼女はこちらの方なのかもしれない。
先程までのアホっぽさは場を和ませるための演技とか?
「お主らを世界間の衝突事故から守れなかった事、本当にすまなかった」
木之花咲耶姫のその言葉に藤原さんはその目から涙を一粒こぼした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さーて、時間もないことだし一気にお仕事しちゃうぞ!」
しんみりしかけた空気をぶち壊すように明るい声で突然咲耶姫はそう一声告げると藤原さんの手を離し、少しだけ彼から距離を取った。
「今からワシの加護をスペフィシュ住民にもう一度与えちゃうよ。 特に加護が消えてしまった人たちには強めにしちゃうから覚悟してね☆彡」
覚悟って、なんか危険なのか?
あとそのノリは止めないのね。
本当に力が抜けるな。
「ただし今から与える加護は一年位しか持たないと思うから山田クン、その間に帰郷する皆を私達の世界へ転移させちゃってね☆彡」
咲耶ちゃんがそっと目を閉じ両手を上に伸ばしながら山田さんに向けて言う。
流石に本体のない別世界で本来と同じような加護を与えることは無理なのか。
与えられた一年を長いと見るか短いと見るか。
突然声を掛けられた山田さんは一瞬驚いた顔をした後「はい、この生命に掛けましてもその仕事は私が責任を持って完遂いたします」と返答し、深々と頭を下げた。
「こちらの世界では私自身の力もかなり制限されちゃうからそれが限界なのよね」
咲耶ちゃんはそのまま上に伸ばした両手をぐるりと回すように下に向けた後「はあっ!」と気合を込めた声と同時に両手のひらを前に突き出した。
「それじゃ行くよっ!!」
次の瞬間、集会所の中を彼女の両手から溢れ出した光が満たす。
「おおっ!」
声にならないどよめきが場を支配する。
俺はあまりの眩しさに腕で目をかばうが、少しの間視力を奪われることになった。
「ああっ……加護が……」
藤原さんの戸惑いとも喜びともとれる声が聴こえる。
集会場の中にいた数人のスペフィシュ出身者の声も聞こえてくる。
どうやら加護は無事彼ら彼女らに与えられたようだ。
「ふぅ、疲れたー。ふぅーいい仕事したわぁ」
やっと視力が回復してきた俺の目に映ったのは、未だ自らのみに起こったことが信じられないような顔の藤原さんたちと、ひと仕事終えたおっさんみたいに額の汗を腕で拭うような仕草をしている咲耶姫の姿だった。
登場後のお間抜けな言動ですっかり疑ってしまっていたが、やはり彼女は偉大な世界樹様だったんだな。
そんな思いが浮かんできて、俺は彼女に対する気持ちを改めた。
もうロリBBAなんて言わないでおこう。
「木花咲耶姫様ありがとうございます」
「ありがとうございます」
藤原さんを皮切りに、彼女に加護を授けてもらった人たちは次々に咲耶姫に向かって深々と頭を下げお礼を告げた。
「はぁー、コノハちゃん凄いの」
ミユもなんだか尊敬の眼差しで
コノハが木之花咲耶姫になったことをイマイチ理解してないミユに「そいつコノハじゃなくてお前の母親なんだけどな」と教えてあげるべきだろうか。
あと俺もミユから尊敬の眼差しで見つめられたい……。
「お主らの世界の世界樹として当然のことをしたまでだよー」
咲耶姫は彼らにそう伝えると俺と山田さんの方を振り返る。
「ところでコノハを通じて聞かせてもらった二つの問題だけどぉ、これで一つ目の問題は解決って事でいいよね☆彡」
二つの問題。
一つは加護を失った人を元の世界にそのまま戻せない事。
もう一つは世界間の距離が遠すぎて転移装置では転移できない事。
「一つ目についてはスペフィシュ住民に咲耶姫様が加護を与えて回っていただけるという事でよろしいでしょうか?」
「うん、ユグドラシルカンパニーの皆がコノハをその者達の所まで連れて行ってくれれば加護をあたえてあげるよー」
「問題はスペフィシュ以外の世界の者たちの加護をどうするか。それについては解決策がまだありません」
たしかにスペフィシュの住人の加護問題は咲耶姫がいれば解決だ。
だけど他の世界の人々には彼女の加護は与えられない。
それどころか逆に毒でしかない可能性のほうが高いのだ。
「ふふん、それについては二番目の問題と一緒に解決できちゃうすごい方法があるんだよ。 聞きたい? ねぇ、聞きたい?」
コノハの顔をした咲耶ちゃんが、いつものコノハのようなドヤ顔ポーズをした後、俺と山田さんの顔を交互に覗き込みながらそんなことを言い出した。
イラッとしたものの彼女が本当にその解決方法を知っているとしたら聞かない選択肢はない。
山田さんや高橋さん、それに集会所に集まったすべての人達の目が咲耶姫の次の言葉が紡がれるのを固唾を呑んで見守っている。
「聞かせてください」
山田さんのその言葉に被せるように咲耶姫が突然声を上げた。
「ちょうどいいタイミングだね」
「?」
「時間ピッタリ」
咲耶姫は付けてもいないのに腕時計で時間を確認する真似をしてそんなことを呟いた。
いいタイミングって何が? 時間ピッタリって?
皆が注目する中、彼女は右手の人差し指を立てて天井をゆっくりと指差す。
「これがその解決策よ!」
ぎゅごごごごごご。
咲耶姫の声に合わせたようにその指差す天井が円を描くように歪み始める。
いや、天井が歪んでいるわけじゃない。
天井付近の空間が歪んでいるんだ。
「これは……転移門!?」
「何ぃ、知っているのか山田さん」
「ええ、これは転移装置で転移した先で起こる現象ですよ。つまり誰かがここに転移して……」
「とぅっ!」
山田さんが全て言い終わる前に天井近くに開いた転移門から一人の美しい女性が飛び降りてきた。
デニム生地のジーンズに、こんな時期だというのにTシャツ姿というラフな格好で現れた彼女は、床に降り立つと同時に、先程咲耶姫が登場した時と全く同じポーズを決めた。
「私、参上! キラッ☆彡」
木之花咲耶姫が言う、二つの問題を一気に解決する事ができる方法ってもしかしなくとも彼女が関係しているのだろう。
しかしそのポーズってもしかして異世界で流行ってるのか……?
あと彼女の場合、見かけ年齢的にも実年齢的にも流石にちょっと引くわー。
そんなことを考えながら俺は彼女に声をかける。
「吉田さん、お久しぶりです」
そう、突然転移門から現れたその人こそ、かつてこの世界に殴り込みに近い状態でやって来て、しばらくの間同じアパートに住んでいた『異世界の女神』であり、ミニ世界樹ティコライの『契約者』である吉田さんその人だったのだ。
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