第38話 親子のスキンシップは大事です。

「実はですね……」

「ボクが説明するよ!」

 真剣な顔で話し始めようとする山田さんを制して、突然吉田さんが割り込んで来た。

「簡単に言えばボクとスズキと田中くんの世界は世界樹がないからフラフラしちゃって他の世界とぶつかっちゃってね。

 迷惑だから世界樹のない世界に山田くんのところの世界樹を移植して、その根っこで世界がふらつくのを止めようとしてるんだよね」

「ええぇ」

 山田さんのここまでもったいぶった演出は何だったのか。


「んで、世界樹の根っこが世界のふらつきをとめるアンカーつまりいかりの役目を果たすんだよね?」

「え、ええ」

 山田さんが戸惑っている。

 俺も戸惑っている。

 ミユは俺の髪で遊んでいる。抜かないでね? 爺ちゃんの遺伝子を考えると将来が不安だから。


「でもまだボクの世界の世界樹もスズキの世界の世界樹もそこまで成長してないんだよね」

「そうなんですか?」

「ボクの世界もスズキの世界もここと比べて魔素がまだ残っているのももしかしたら原因なのかもしれないな」

「それの何が問題なんです? 魔素ってミニ世界樹の肥料みたいなもんなんでしょ?」

 俺が尋ねると山田さんが答えてくれた。

「一応はそうなのですが残っている魔素と新しい世界樹が生み出す魔素がコンフリクトを起こしてしまったようでして」

「魔素ってさ、もともとその世界に昔存在した別の世界樹が生み出した物なんだよね」

「え?」

「もちろんこの世界にも昔は世界樹があったんだよ」

 たしかに世界中に残る神話に世界樹やそれに類するものが出て来るけど実在したとかいわれても信じられない。


「田中さんの世界、つまりここの世界樹が失われたのは六千五百万年前くらいでしょうか。それに比べると吉田様やスズキ様の世界は先代の世界樹を失ってまだ十万年から二十万年ほどしか経っていませんので魔素が濃いのです」

「世界樹が失われるとゆっくりと世界から魔素がなくなっていくんだよね。ボクたち神もそのせいで転生出来なくて困ってたんだよ」

 転生と来たか。神なのに?


「そういうこともありまして吉田様はこの世界、田中さんの世界樹の育て方を知りたいと前々からワタナベに進言していたようでして」

「あいつ、なかなか許可が出ないとか今は転移装置の範囲外だとか言い訳してこの世界へ連れてきてくれなかったんだ」

「だからといって勝手に来るのはやめてくださいよ。最悪世界の外に放り出されて帰ってこられなくなるんですよ」

 山田さんが注意するがどこ吹く風である。

 どうして異世界の女神というのはどいつもこいつも女神っぽくないんだろうか。

「ところで吉田さんはいつその転移装置で帰れるようになるんですか?」

 なんだかもうさっさと帰ってもらいたい。

「そうですね、高橋さんが正確なタイミングを一生懸命計算しているようですが、およそ一ヶ月後だと聞いています」

「一ヶ月……」

 俺は肩のミユの頭をなでながら少し考える。


「せっかくだから田中くんがミユちゃんをどうやって育てているのかじっくりねっとり見させてもらおうかな?」

「吉田エッチなの」

「おやおや、エッチなことをしていたのはさっきの君たちの方じゃないかい?」

「あ、あれはただたんに体を拭いてやってただけじゃないか」

「親子なら当然の裸同士のスキンシップなの」

 ミユさん、そんな言葉どこで覚えたんですか? 高橋さんですか? 高橋さんですね? あとで説教決定だ。

 ついでに俺は裸じゃなかったからな。


「その話で思い出した。山田さん」

「はい、なんでしょう?」

「ミユって風呂に入れても大丈夫なの?」

 俺のその言葉にさっきまで冗談めかしてちゃかしていた吉田さんが一歩引いて俺を変態を見るような目で見ている。

 親子のスキンシップに文句でもあるのだろうか?

「そうですね、通常のお風呂なら問題ありませんよ」

「通常じゃないお風呂ってなんだよ」

「深海の間欠泉とか沸騰してるような源泉とか」

「入らねぇよ!」

 俺は山田さんにからかわれた事に気がついて少し顔を赤くする。

「ミユお父さんと一緒にお風呂入れるの?」

「ああ、これからは一緒に入れる」

 吉田さんが更に遠くなるが気にしない。


「おい、あれ大丈夫なのか?」

「もんだいありませんよ、親子ですし」

「いや、違うだろ……だがしかしああやってコミュニケーションをとるのも世界樹を育てるのに必要なことなのかもしれない」

「それはどうでしょう?」

 吉田さんと山田さんが俺の方を見てコソコソとなにやら喋っているが俺は風呂に入れると解って大喜びしているミユの相手をするだけで満足だ。

「と、とにかくアンカーの事は教えたからな!」

 そう言葉を残して吉田さんは部屋を出ていった。


「吉田さん今日も高橋さんの所に泊まるの?」

「高橋さんの部屋は寝る場所が殆ど無いのですが今日はそれで我慢してもらって、明日また大家さんに話をしてスズキ様の時と同じように101号室を一月ほど借りるつもりです」

「あの部屋まだあのあと誰も入居してないから大丈夫だと思うけど」

 俺は少しの間一緒にいた弟子の事を思い出していた。

「スズキさん元気にしてるかな。あとミニ世界樹は無事に育っているだろうか?」

「気になります?」

「弟子だからね」

「こんど本社に戻ることがありましたらスズキ様の世界の様子を聞いてきましょう」

 山田さんはそう言っていつもの手帳にペンを走らせた。


「山田さん、いつもその手帳に何を書いてんの?」

 おれはヒョイと覗き込むがエルフ語で書かれているらしくさっぱり読めなかった。

「企業機密です」

 俺が覗き込んでいることに気がついた山田さんはパタンと手帳を閉じるとそのまま懐へしまいこんだ。

 ちっ、今度チャンスがあったら翻訳呪文唱えてから見てやろう。

 俺はそう心に誓うのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る