サエバサバエのちょっとセキュアなお話、あるいは、呑み女子エンジニアのだらしない食卓

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第1話 セクハラまがいのセュリティ事案、あるいは、丸くないハイボールの濃いめと某コンビニ限定の辛旨味噌のチーズ入り限定カップ麺

 うちのサポート窓口に、とある個人事業主の顧客から「うちが提供する Web サービスを使おうとすると変な画面が出てきて利用できない」という問い合わせがあった。


 最初、うちのサイトがクラックされて何か埋め込まれたのかと肝を冷やしたけれどそういう形跡はなし。他の顧客からも特に何も言ってこない。どうやらこのお客様のところでだけ起こっている現象のようで、担当者一同胸をなでおろした。


 ただ、その顧客のところで問題が発生しているのは事実。放置はできない。


 電車で一時間程度のところの顧客で、あたしが担当者の一人だった上に名指しされたのもあって、上司の指示で即座に駆けつけることになった。こういうスピード感は大切よね。


 着いて早々、ブラウザを起動して状況を確認させてもらったんだけど。


 まず、ブラウザの初期画面がよく解らない海外のサイトになってる時点で怪しさ爆発。


 で、ブラウザが起動した直後に外国語の広告らしき画面がポップアップしてきた。しかも、閉じても閉じても無限に開いてきて、まともに操作できない。


 うん。確かに、『うちの会社が提供する Web サービスを使おうとすると変な画面が出てきて利用できない』という顧客の言葉は正しいわね。


 でも、これじゃうちがサービス提供してるサイトに入れないのは解るけど、それ以前に他のサイトも見れないわね。


 それにしても、無限に開いてくる広告の内容。どれもこれも際どいを通り越した肌色率を誇るナイスバディな女性の画像が付いてる。端的に言ってエロサイトの広告ね。


 こんな状況のところに、他の担当者は全員男性なのにわざわざ女性のあたしが名指しで呼ばれたことを深読みしそうになるけど、ま、あたしはこんなのは別に気にしないのでスルーするとして。


「最近、どこかのサイトとかからダウンロードしたソフトを入れませんでしたか?」


 冷静に確認すべきを確認すると、


「え? い、いや、それ、は……」


 あからさまに挙動不審になるお客様。


 ああ、これは黒ね。


 個人事業主で自宅兼事務所になってたりすると、業務用のパソコンとプライベート用のパソコンを分けずに使ってたりすることがあるけど、どうやらここもそんな感じみたいね。


 なので、プライベートなお宝動画を観ようとして画面の指示に促されるままダウンロードさせられたソフトをインストールしちゃったとかかしらね。


 インストールソフト一覧を確認すると、案の定、海外製のあからさまに怪しいソフトがいくつか入っていた。


「ああ、やっぱり、変なソフト入ってるんで、消しちゃいますね」


 それらしいソフトを片っ端から削除して、再起動。


 ブラウザを起動すると、もう広告は表示されなくなった。ついでに、怪しげなサイトになっていたブラウザの初期画面もデフォルトのものに戻して対処完了、っと。


「どうやら、海外のサイトで変なソフトにひっかかっちゃったみたいですね。全部消したので、これでもう大丈夫です。これからは、よく解らないソフトはインストールしないでくださいね」


 と、やんわりと注意して終わり、と思ったんだけど。


「でも、そういうのはウィルス対策ソフトで防げるんじゃないんですか?」


 不思議そうに聞いてくるお客様。


 なるほど、それで気にせず入れちゃったのか。ここは、もう少し掘り下げて注意しておいた方がいいわね。


 まず、インターネットを介するサービスを提供する身として、利用者のパソコンにウィルス対策ソフトを入れるなんて基本中の基本。特に、このお客様はパソコンに慣れておられなかったので、システム利用開始時にウィルス対策ソフトの導入も弊社で行っていたので、間違いなくこのパソコンは保護されている。


 だけど、ウィルス対策ソフトは万能じゃない。


「残念ながら、フリーウェアに広告を付けるのは違法ではありませんから、広告を表示するだけのソフトはウィルス対策ソフトでは対処できません。何か悪いことをしようとしたらウィルス対策ソフトに引っ掛かりますが、ただただ広告を表示するだけのソフトを自分でインストールしてしまった場合は、ウィルス対策ソフトに引っ掛かりません」


 今回問題となったのは、俗に『アドウェア』と呼ばれるソフト。


 『無料にする代わりに広告を表示する』というのは、ごくごく一般的なマーケティング手法。そこに違法性はない。


 その広告表示をウィルス対策ソフトが勝手に止めてしまっては、逆にウィルス対策ソフトを提供するメーカーがマーケティングの妨害として訴えられかねな

い。


 勿論、アドウェアには裏で情報を抜き取ったりするような悪意のある『マルウェア』に属するものも多数あるけど、幸いにも今回のソフトは純粋な広告表示だけのソフトだったので簡単に対処できたわ。裏返せば、そのせいで不幸にもウィルス対策ソフトをすり抜けた、ってことなんだけどね。


 実際、うちも対策ソフト入れてても同じ状況になったことがあるからね。経験が役立ってよかったわ。


 え? どういうサイトで引っ掛かったのかって? それは乙女の秘密なのでお答えできません。


 ともあれ、今回のケースの対策はとてもシンプル。


●出所の知れないフリーソフトは迂闊にインストールしない


 それだけ。


 あの手この手で入れさせようとしてくるから、慣れてない人にとっては言うは易し行うは難しだったりするのは重々と承知してるけど、でも、本当、これ。


 いかがわしいサイトなんかでは「動画が観たければこのソフトを入れろ!」みたいなケースもあるけど、疑ってかかるのがいいわね。


 できる限り、何かソフトのインストールを求められたら、どんなソフトか判断するためにそのソフトの名前でググってみるとか、そういった習慣を付けていくといいわ。


 丁寧にその旨を顧客へと伝え、注意を促して任務終了。


 気がつけば定時はとっくに過ぎていた。上司に電話で事後報告をし、直帰させてもらうことにしよう。


「さて、一仕事終えたし、くつろぎますかね」


 帰宅してお風呂に入ってさっぱりしたら、食事の時間。


 今日は予期しない出張が発生しちゃったから、移動で少々疲れ気味。夕食を作るのも面倒だから、簡単に済ませちゃおう。


 そういえば、前に近所のコンビニで確保してたのがあったわね。あれを開けちゃおう。


 関東に幾つか店舗のある激辛系のラーメンを再現した特定のコンビニ限定のカップ麺。その更に限定バージョンよ。


 デフォルトでは赤いパッケージが、限定はチーズ入りということで黄色いのがなんだかワクワクするわ。


 電子ケトルで湯をわかしつつ、喉の渇きを癒やそう。


 冷蔵庫の中にズラリと並ぶ瓶と缶の中から、黄金色の缶を選ぶ。黄系で揃える気分、ってとこかしら。


 比較的癖の少ない、日本人にも飲みやすい丸くない定番のウィスキーをベースとしたハイボール。濃いめなのが嬉しいわね。


 プルタブを空けて、ほのかに甘いウィスキーの香りを楽しみながら電子ケトルで湯を湧かし、適度な炭酸の爽やかさで喉を潤わせながらキッチンタイマーが五分を告げるのを待ち。


 カップの蓋に付けられた辛味オイルを全て投入してかき混ぜれば、完成、今日の晩御飯!


 あたしは、二本の空き缶を分別のためにコンビニの袋に入れて、カップ麺と新しい缶を食卓に並べる。


「いただきます!」


 湯気の立つあったかいカップを持ち上げ、お箸で掴み取った麺は太めで、カップ麺にしてはかなりしっかりした手応えがある。ずっしりした炭水化物の重みが、空腹に嬉しいわ。


 いざ、口へ運ぼうというところで、急に視界が白く!


「うっかりしてたわ……でも、こうして眼鏡が曇るのも、ラーメンを食べる楽しみよね」


 曇ったレンズ越しに掴んだ分はキッチリ口へと放り込む。これしきで戸惑うほどの眼鏡歴じゃないわ。


「熱っ……でも、うん、辛味は大分抑えめね」


 温度の刺激の後に、スープをしっかり含んだ麺の味わいが口内に広がったけど、ノーマルに比べるとかなり控えめな刺激。元々、辛味を抑えてまろやかにするためにチーズを投入するのが流行ったのを本家が取り込んだようなものだから、当然といえば当然かもしれないけどね。


 そこまで味わったところで、眼鏡を外して眼鏡拭きで曇りを拭き取る。そこそこ度のキツいレンズ越しに食卓のカップ麺の姿が歪んで見えるのもまた味わい。


 手を空けたついでに新しい缶を空けて一息。


 うん、辛味に華のあるハイボールの風味はいいわね。


 とはいえ、のんびりしてたら冷めちゃうし麺に戻らないとね。


 改めてカップの中を覗けば、インスタントにしては大ぶりなキャベツとキクラゲが目立つ。肉は控えめで豆腐も加わっての動物性・植物性両面でのタンパク源。これは、ヘルシーね。


 ハイボールもヘルシーなお酒だから、うん、今日の夕飯はとってもヘルシーってことね。


 なら、心置きなく食べちゃいましょう。


 お箸をカップにつっこんで具材を巻き込みながら麺を持ち上げる。


 相変わらずずっしり重いけど、大きく口を開けてそのまま頬張る。


 うん、硬めの麺の歯応えの中に、キクラゲのコリコリした食感が混ざってたのがなんだか楽しい。キャベツもまた違った食感で微かに甘い。むしろ、豆腐と肉がスープの旨みの中に埋もれて目立たないのも楽しい。


 繰り返し繰り返し、口に麺を運び、缶を傾け、麺を口に入れ。


 あっという間にカップの中身も缶も空になっていた。


 最後に食後の一缶を空け、食べ終わったカップと、五本の缶を別々のコンビニ袋に分別してお夕飯はお終い。


 ごちそうさまでした。

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