クラス異世界召喚物に備えて鞄に入れる物について(実践編)合宿六日目 ①
合宿6日目、珍しいことに僕が起きるより前に部長がすでに起きていた。
隅田さんも起きているようで、どうやら起きるのは僕が最後らしい。
どこか悔しさを感じながらも、僕も寝袋を這い出た。不用意に立ち上がって、小屋の屋根に頭を思いっきりぶつけるハメとなった。ホントこの小屋狭いな……。
外はぼたぼたと、雨は依然止む気配がない。風も強まってきているのか、木々がしなっていた。むしろ昨日より悪化してないか?
「おはよう後輩君。遅い目覚めだったわね」
『おはようございます。』
涙目で頭を抑える僕に二人が気づいて、挨拶をしてきた。
「……おはようごさいます。隅田ちゃんはともかく部長が早起きなんて珍しいですね。僕が寝坊したわけでもなさそうですし。」
「そのことなんだけど、まぁ朝色々とあったのよ。……そのね、結果的に言うと今日の昼に迎えの船が来ることになったわ。」
部長の言葉がすぐには理解できずに、瞬きすることに何回か。
「えっと。今日って合宿6日目であってますよね?」
「合ってるわよ。ただ、今台風が来てるみたいなの。それもデカイやつ。明日にはもう雨も風も相当強まって、波も高くなるから危ないそうよ。だから、合宿はもう終わりってことね。」
「まぁ物語の中ならまだしも、天候でイベント事が中止になるなんて、よくあることですよね。」
僕はそう口にした。
運動会だとか体育祭だとか。部活の試合だとか。僕は天候が悪くなるたびにイベント潰れろ潰れろって思っていたタイプの人間だったけど。
しかし今回だけは、なんだかモヤモヤとした気持ちなった。
多分、結構楽しんでいたんだと思う。
明日は何をするんだろうなー。何が起きるんだろうなーって期待していたんだと思う。しかし、もう終わりである。
『あともうすこしだったんですけどね。』
そうスマホに書き込んだ隅田さんの表情は髪で隠れてよくわからない。
ただ握り締めてプルプルと震える拳が彼女の感情を物語っていた。
「ま、頑張った方よ。素人の学生さん三人でここまでやれれば、きっと異世界に飛ばされたって大丈夫ね。」
淀んだ雰囲気を打ち払うように、ピシャリと手を叩いた。
「だって五日よ五日。引きこもりで体育会系でもない私たちが五日もサバイバルをエンジョイ気分で出来たんだから充分よね。正直三日も持たないんじゃないかって思ってたりもしてもの。だから……だから……。本当にもう少しだったのにね……。」
ハイテンションで話していた部長は最後に、下唇泣きそうな顔でぎゅっと噛んだ。
「……また来ましょうよ。これって異世界転移の予習なんでしょう?だから今回の反省なんかをまとめて、また前みたいに持っていくものを選別して。それで、今度は一週間合宿やり抜きましょうよ。」
『賛成です!やりましょう!もう一回!』
隅田さんがぴょんぴょんとその場で跳ねながら、ピーンと手を挙げた。
「ほら、隅田さんも乗り気みたいですし。本でも最初から上手くいく展開より、失敗を乗り越えてリベンジを果たす方がワクワクするじゃないですか。だから泣かないでくださいよ。」
「なななななな泣いてなんかないわよ。あ、雨よ雨!」
部長はゴシゴシと袖で目を擦った。その言い訳はこの小屋の中では通用しないだろう。
何せ簡易ながらしっかりと作られた小屋は、雨漏りなんて一箇所もしてないのだから。
部長の目に溜まった水は、確実に彼女の涙だった。しかも、鼻水ドゥルッドゥルだし。
部長はズズズズッと鼻をすすった。
隅田さんがスッっとハンカチを差し出した。そして部長は受け取ったハンカチを鼻水まみれにする。……多分ティッシュにした方が良かったと思う。
隅田さんは返された鼻水塗れのハンカチをばっちい物を持つように人差し指と親指で摘んで、ビニール袋の中にポイした。
「まぁ雨凄いですしね。」
「そうよ。雨よ!雨なのよ! だからこっち見るんじゃないわよ!」
部長の泣き顔を微笑ましく見守っていると、バシバシと強めのパンチが飛んできた。
僕を殴り終えた後もフーッフーーッと興奮したケモノのような形相と呼吸音をさせていたが、
「次までにちゃんとしたサバイバル知識を頭に詰め込んどきなさいよ!」
と言ってそっぽを向いて、ぽちぽちとスマホを弄り出した。
『来年が楽しみですね!』
と隅田さんが僕へ向けて笑みを浮かべた。
「どうかなぁ。案外もっと早く、冬休みとかにやりそうで怖いよ。」
『わたし寒いの好きですよ!』
なぜか隅田さんのテンションが上がった。体を上下に揺らしている。
「僕は室内で文明に飼いならされた、暑いのも寒いのも嫌いな軟弱者だからなぁ。」
『じゃあ合宿で暑さと寒さ嫌いを克服ですね!』
隅田さんがサムズアップをしてきたが、僕にはそんな向上心はないから。
「多分一生嫌いなままかな。やっぱエアコンって最高でしょ。でもそれでも……合宿は楽しみだね。」
『はい!!』
文面と共に隅田さんは大きく頷いた。彼女は度々、オーバーアクションで首を振っているが、骨とか大丈夫なのだろうかとすこし心配になった。
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