クラス異世界召喚物に備えて鞄に入れる物について(実践編)合宿3日目 ①

「生きるのに必要なものは何かしら?じゃあ隅田ちゃん、答えてみてちょうだい。」


朝、昨日と同じように叩き起こした部長が澄ました顔でそんなことを言い出した。


『食事だと思います。』

と、隅田さんはスマホの画面を部長に向けた。


「そうね!いい答えだわ!人間の三大欲求といえば食欲、睡眠欲、性欲よね。食べなきゃ死ぬし、寝なきゃ死ぬ。性欲は無くても生きられるかもしれないけれど、種を反映させるための人間の義務みたいなものだからトップ3にランクインして当然と言えるわね。」


 部長は火起こしに使った棒で、湿った砂浜に「しょくよく、すいみんよく、せいよく」と書いた。……そこは漢字でお願いしますよ。


 理由が漢字を書くのが面倒だったからなら良いのだが。小学生でも書けそうな漢字を知らないということは考えたくはない。


「で、生きるためなら性欲は後回しで良いわけだし、今の所睡眠だって蚊を除けば問題なし。」


 部長は蚊のくだりで唾を地面に吐き捨てた。相当イラついてらっしゃるようだ。


『奴らの明かりがなくなった途端に耳のそばでプーンと羽音をたててくる率は以上ですからね。完全に人間をおちょくってますよね。』


 隅田さんも力強いタッチでそう入力した。

 二人は虫ごときに怒り心頭らしい。いや、虫ごときに不快な思いをさせられることがムカつくのかもしれない。


「それよ!真っ暗闇の中音を頼りに耳らへんを平手で叩きまくるんだけど、何故かヤれないのよね。謎の回避性能を持ってるのよあいつら。」


 二人とも蚊への不満で盛り上がるが、僕には一切理解できない話である。相変わらず僕の虫刺されはゼロだった。


「んん。話が逸れたわね。つまりそう、私たちに必要なのは食料。そして中でも必要とされるのが水よ。」


 部長は地面に「水!」と大きく書いて、強調するようにぐるぐると円で囲む。


「人間、体重の60%以上が水分ってのはよく言いますもんね。なんとなく分かります。」


「しかも、体内の水分が20%無くなるぐらいで死ぬんだから、人間って案外低スペックよね。」


 部長は自らのスペックに不満げに口を尖らせた。人体のスペックをディスられても。部長は超人にでもなりたいんだろうか。


「人間何もしなくても呼吸してるだけで水分が外に出てくらしいし、夏だと更に減るらしいわ。20%なんてあっという間よ。ホント、ラクダさんほスペックを見習って欲しいわよね。」


「なんで唐突にラクダの話が出てくるんですか……。」

 ラクダさんはそんなに高スペックだとでも言うのか。なんだかあの間抜けそうな顔をしている奴らにスペックが負けているというのもなんだか納得がいかない気がする。


「そりゃあラクダさんがこと水分管理に関しては超高スペックだからよ。

まず人間って体内の水分が12%ぐらい失われ始めたらもう命の危機なの。でもラクダさんはなんとその倍以上の30%以上水分が無くなってもヘッチャラなのよ!凄くない?」


『ラクダさん凄いです!』


「そうでしょうそうでしょう。」

 

 隅田さんに自分の意見が肯定されたことで、部長はふふんと誇らしげに胸を張った。凄いのはラクダですよ。


「でもラクダさんのスペックはこんなもんじゃないわ。」


 調子づいた部長が上機嫌でラクダ話を続け始めた。この話続けるのか……。いや、正直ラクダについて気になってる自分もいるんだけども。


「まずラクダさんの鼻!」


 ラクダの鼻といえば、あの見ていて気が抜けるような顔面の一役を買っているパーツだと思う。


「さっき人は呼吸で水分を外に出しちゃってるって言ったじゃない? でもラクダさんはクソヒューマンとは一味違います。なんと鼻を閉じることができるから、息に含まれた水分を閉じ込めて、また体に吸収しちゃうの。」


 部長がついに人間をクソ呼ばわりし始めた。僕も人間よりは動物の方が好きだ。

 隅田さんもクソヒューマン呼ばわりに違和感はないらしく、興味深そうに部長の話に相槌を打っている。


「さーらーに! クソヒューマンはおしっこする時に沢山の水が必要なわけだけど、ラクダさんは全然必要としないの。」


『ラクダさんのおしっこは濃度が高いんですね!』


 唐突に二人が下の話で興奮しだした。いや、下品な話ではないということはわかっているのだけど、女の子二人がおしっこの話で盛り上がってるとなんかこう、聴いているこっちが恥ずかしくなってくる。

 僕はおしっこのくだりに参加することはできなかった。


「で、ラクダさんは一度に自分の体重と同じくらいの水を飲むのよ。水も大量に貯蔵できるしね。まぁ水を沢山飲むくらいなら、クソヒューマンにも無理をすれば出来るのかしらね?1リットル4キロくらいだから、私の体重の半分って考えると……11リットル。ワンチャンいけそうね。」


と部長は顎に手を当てて思案しだした。

 

 僕は部長の体重は44キロほどかと密かに脳内メモリに記録した。

 つーか11リットルはワンチャンねーよ無理だよ。馴染みがない量だから想像しづらいけど、多分2リットルペットボトル一気飲みするだけで腹がパンパンになるのに、その5倍以上だぞ……。


「ラクダの真似して一度に水の大量摂取やってみようとか思ってるならやめた方が良いですよ。人間っていうか、生物って血液中の水分が増えすぎると死にますから。」


「 ベベベベつにそんなバカげたことを考えてたわけないじゃない!って……え?死ぬの? 私死ぬの?」


 部長はどもって否定して、自分が死に至ることをしようとしていたのかと、顔がさーっと青くなった。涼しそうで羨ましい。

 夏に肝試しや怪談なんかが風物詩になっている理由がわかった気がした。


『あ。それって浸透圧でしたっけ?』


と、さすがこの中で唯一勉強ができる子。聡明な隅田さんはなぜ水を飲みまくると死ぬのか分かっていた様子である。


「浸透圧?なにそれ?」


 部長がポカンと口を開けて首を傾げた。


「いや、高1の生物でやったんじゃないですか?僕ついこの間習ったんですけど……。」


しかもふつうにテストにも出た単語だったし。


「ふーん? ま、学校での教育だけがすべてじゃないじゃない?」


 部長はキメ顔で前髪をサラリと払った。……その学校で習う浸透圧の存在を知らなかったせいで死ぬところだった奴がずいぶんな余裕である。


『要するに、半透膜って呼ばれる、ちっちゃーい分子なんかの粒しか通さない壁で挟まれて2つの濃度の違う液体がある時、濃度を一定にしようと濃度が薄い方の液体が、濃度の濃い液体の方に移動するんですけど、その移動する時の力のことを浸透圧って言うんです。』


 優しい隅田さんはアホな部長にもわかるように、猿に教えるレベルでわかりやすく説明してくれた。……僕もメモっとこ。


「へー。そうなの。単語の意味は分かったのだけども、なんでそれで死んじゃうわけ?」


『人間って普段は血液中の浸透圧と、そこを流れる赤血球っていう細胞の浸透圧がつりあってるんです。』


「せっけっきゅー?」


 コテンと部長は首を傾げた。おいマジか。部長があげた疑問の声に、僕は軽い恐怖を感じた。


「赤血球はあれですよ。ヘモグロビンとか入ってて、血液中で酸素運んだり、二酸化炭素を外に運んだりするやつですよ。いや赤血球は覚えてないとやばいですよ……。」


 我が校は一応割とレベルの高い進学校なのだが、この人はよく入学できたものだ。


「別にいいじゃないのよ今覚えたんだから!ちゃんと今覚えましたから!なんか悪い!?」


 部長は腕を組んで頰をふくらませて、噛み付いてきそうな勢いで僕に突っかかってきた。完全なる逆ギレだ。

 確かに「え?~知らないの?~知らないのはヤバいわー。」とか言われると腹立つけども。


「いえ別に。確かに人生で役にたつだろう可能性なんてのは0に近いですし。自分の体重と同じぐらいの水を飲もうとか考えなければ知らなくても問題ないと思いますよ。」


 僕の言葉に部長は「んぐ。」と声を詰まらせた。そして、すぐに「フン」と鼻を鳴らした。


「へーへー。わたしが悪うございました。さあ隅田ちゃん。続けてちょうだいな。」


 部長はふてくされたように唇を突き出して、地面の砂を足で蹴った。


『水を沢山飲むと血液の浸透圧が下がるんです。水って濃度0ですから。それで、浸透圧は低い方から高い方へ移動しますから、赤血球の中へと水がどんどん入っていって、最終的に赤血球が壊れちゃうんです。つまり水によって細胞が破壊されるんですね。これって命に関わることなんです。溶血っていう現象らしいですけど。なので、医療とかの注射する際なんかは浸透圧が変わらないように、濃度を調整した食塩水なんかを使うらしいですよ。』


「なんか水飲むのが怖くなるわね。やっぱり人間は脆すぎるわ……」


 部長は盛大にビビっているようだ。プルプルと震え出した。これで水を飲むのを怖がって脱水症状になられても困るなぁ。


 まぁ溶血が起こるくらい水を飲むとか普通に考えて拷問だろうから、普通はやらないだろけども。つまり今の部長は気にしすぎだということ。


「まぁ血液中の濃度は一定に保ちましょうってことですよ。海水をソモのまま飲んじゃあいけないのだって、海水の塩分濃度が高すぎて、血液の塩分濃度が上がりすぎるからなんですから。」


『ちょうど溶血の逆のケースですよね。脳は血液中の濃度を元に戻すために水を必要とするから、結局喉が乾いている時に濃度の高い液体を飲んでも意味がないというか、むしろ状況が悪化しますよね。』


 海水飲んで脱水症状になって死ぬとか、よく聴く話ではある。


「そうよね。何事も節度を持ってってことよね。うん。節度は大事。」


 部長は自分に言い聞かせるようにそう言って「スーハースーハー」と深呼吸を繰り返した。


「ふぅ。それにしてもあなたたちって意外と話のネタに出来るような話題を持ってるたのね。我が読書部なだけあるわ。」


 部長は得意げにウンウンと頷いた。なんだろう?「意外と」というのは、遠巻きに僕たちがコミュ障とでも言いたいのだろうか。……心外だと怒りたいけど事実だから否定できない。


「部長のラクダ知識や隅田さんの浸透圧の知識やら、本や論文読み漁ってると雑学だけは増えるんですよね。まぁそれらを話のネタにするような話し相手が皆無だから意味ないんですけどね。」

 話のネタはあるんだ。沢山頭の隅に死蔵している。ただ話しかけたり話しかけられたりしないだけで。

 まぁネタがあってもろくにコミュニケーションを取ることができないという可能性も十分にあるけども。


「そうよねー。別に本を読むのは自分の知識を増やす為だし、別に他人に話さなくたって良いんだけれどね。やっぱりほら、あるじゃない?本で仕入れた知識を他の人に教えたいーって気持ち。」


 確かにラクダのことを話している時の部長はやけに嬉しそうだった。

 僕にも確かにそういう欲求はある。


「ありますね。僕もコミュニケーションを取る方法の書いてある本を読んだって、特にその本で得た知識を自分で実践しようとは思わないんですけど、ただその知識自体をひけらかしたいという欲求は凄いあるんですよねぇ。不毛ですけど。」


 コミュニケーションを上手に取りたくて読んだ本なのに、最終的な目的はその知識を誰かに言いふらしたいということに変わってしまうのだ。

 その本で学んだコミュニケーションを上手く取るテクニックは、未だに実践したことがないし。僕一体なんの為にあの本を買ったんだろうか。


『占いやら手相の本を読むと、他人の手相とか盗み見て、あーこの人こんな手相なんだ。あー、なんか教えたいなー。ってうずうずしちゃったりしちゃいます。』


「わかるわー。私も自分で勝手にクラスのカップルの名前で相性診断とかして、相性最悪でやんのー! ってもう教えたくて教えたくて一日中注意力が散漫になったりしたもの。」


「あと、普段から何気なくやっている行動が健康に悪い、なんていう系の本を読むとまぁ人の行動が気になりますよね。それ、本当は体に良くないらしいよって教えて驚かせたいというか。やっぱり人間、知識を他者に見せつけたい顕示欲があるんですかね。」


「ま、そういうのって教えられる側だとうざいことこの上ないものなんだけどもね。」


 部長がうんざりしたような顔で言い捨てた。


『いかにも自慢気なしたり顔で言ってきますもんね。』


 隅田さんも部長と同意見らしい。そして僕も同意見。


 以前弟が風水にハマっていた時、「このベットの向きは風水的に良くないよー。この本棚も」なんて、僕の部屋にやってきて家具の配置にダメ出しをしてきた時は本当にキレそうだった。母は玄関のダメ出しをされて普通にキレてたし。


 今では弟は占いやら風水やらは卒業したらしいが、その時の話をすると弟は「ワァァァァァァ!」と絶叫する。いわゆる黒歴史といやつだろう。

 こんな風に、他人に知識をひけらかされるのは死ぬほどうざいけれど、それを分かっていてもやりたい自分も確かに居るのだ。


「教えてる人間って、教えられている人間よりも優位に立っている気になれるから、それでかしらね。優越感を味わいたいというか。やっぱりどんなに綺麗事を言っても人より上に立つって超気持ちいいじゃない?」


 部長が笑顔で超絶ゲスい発言をした。


 驚いたことに『ですよね!』と隅田さんも首を大きく縦に振った。

 そのやり取りに僕は恐怖する。思考がナチュラルに独裁者よりなんだよなぁこの二人。特に部長は僕のことをことあるごとに下僕扱いしたがるし、隅田さんも隅田さんでリア充だとかの下になるというのが耐え切れたいようだし。

 部長は上に立つ優越感を求めて、隅田さんは下に這いつくばる屈辱を味わいたくないからという点では違うけれど、二人ともトップに君臨したいというところでは同じなのだ。……向上心のあることで。


「あ、やっべ。結構時間経っちゃってるじゃない。んん。とりあえずえーっとどこまで話したかしら。ていうかラクダの話の前って何の話してたっけかしら? えーっとちょっと待ってね喉仏くらいまで出てるから。」


 部長はスマホを確認して、記憶を引っ張りだすようにこめかみをコンコンと拳でノックする。


「あ、そうそう。ラクダさんに比べて脆弱なクソヒューマンにとって水の確保はめっちゃ重要ってところからね!」


 部長は話の本題を思い出せたようで、「よっしゃい!」とスッキリしたような晴れ晴れしい表情でガッツポーズを決めた。

 そういえば本題はそんな感じだったかぁと僕も今聴いて思い出した。一体何分無駄話をしていたんだろうか。いや、楽しかったから無駄じゃあないけども、話が逸れていたことに違いはない。


「んっんー。じゃあ水道以外で水を確保する方法、じゃあ隅田ちゃん答えてみて。」


 部長は棒で隅田さんを指し、隅田さんはコクンと頷いてスマホを操作する。


『川と海、あとは木からや地面や空気中の水分からっていうのは聞いたことあります。』


と、書かれた隅田さんのスマホの画面を見て、こんなにも手段があるのかと僕は「へーっ」と素直に驚いた。

僕は川や海ぐらいしか思いつかなかったし。


「偉い!本当に素晴らしいわねぇ隅田ちゃんは。うーんよしよし。」


 部長はだらけきった顔と気色の悪いいつもより高めの声で、隅田さんを撫でくり回す。

 部長にとって隅田さんは懐いてきてお姉ちゃん扱いしてくれる近所の子供みたいな感じなのだろか。


 まぁこうしていると姉妹に見えなくもない。

 隅田さんの方が精神年齢的には上だと思うけども。


「それでー。それぞれ飲み水にする為のアプローチが違うわけなんですけども、川を探しに森の中に入るっていうのは遭難しそうだし、まずは無難に目の前に広がる大海原さんから水分補給する方法を試しましょ。」


 部長は隅田さんを後ろから抱きしめるようにして、思わず僕が羨ましくなるくらい過剰なスキンシップをしながらそう言った。ホント美少女になりてぇ。ほら、百合っていいじゃん。男女交際の数億倍は美しくてで尊いし。


「えーっとちょっと待ってね。海水を飲み水にする方法は……と。」


 部長が目を細めて手元のスマホを覗き込んだ。


「まさかとは思いますけど、ネットでカンニングとかしてるわけじゃないですよね。」


 自分でルールを作っておきながらと僕は非難する目で部長を見た。


「失礼ね。ちゃんと合宿に来る前にメモった内容よ。全く危機的状況にあってこそ、疑うことよりも信頼することが大事だというのに。」


 部長はやれやれと肩をすくめた。睡眠薬を飲まされた身としては疑ってかかって当然じゃあないだろうか。

 事実、合宿中、毎食出てくる食事は毎回何か入ってんじゃないだろうなと常に疑ってかかっているし。


「で。海水を飲み水にするには、さっき無駄話に出たみたいに、塩分なんかの不純物。取り除けいて濃度を下げれば良いわけだから。えー、まず鍋を用意します。」


 部長の声と同時に、隅田さんが鍋を掲げた。ホント仲良さげだなぁ。


「で、鍋になんかコップ的な器をセットして……」

 

 今度は、隅田さんがデフォルメされたウサギの描かれたコップを鍋の中に置いた。


「そこに海水をドバーッと入れます。この際コップに海水が入らないように、水かさはコップの高さより低くね。この後沸騰させるから、だいぶ少なくした方が良いのかしらね。」


 部長が自分のメモに首を傾げている間に、隅田さんはせっせと空になったペットボトルで海水を汲んできて、鍋に注いだ。なんともよく働く子である。

 少しは僕も手伝いたいのだが、手伝う隙がない。


「で、蓋をして海水を沸騰させていくんですって。あと、蓋の部分に濡れた布?やらなんやらを置いておくと良いみたい。」


と、部長がつっかえつっかえどこからか調べてきた情報を読み上げ終えると、「ふぅ」と満足そうに息を吐いた。


にしてもなるほど、


「要するに、一度水蒸気にして塩分なんかの不純物が取り除いて、その水蒸気を結露させてコップに溜めていくみたいね。」


 よくそんな方法を考えつくもんだなと僕は感心した。


 隅田さんも火以外の準備を終えて、


『やっぱり人間ってこういう小賢しさは動物の中で随一ですよね!』


と、貶しているのか褒めているのかわからない文面を見せてきた。

 口元が緩んでいるので、多分褒めてるんだと思う。いや嘲笑かもしれないけども。


「あー、うん。そうそうそんな感じの原理よ多分。」


 部長は抑揚のない、平べったい声で生返事をした。本当に分かってたんだろうか?まぁ、内容的には中学レベルの理科で十分に理解できる内容だし、分かっていたと信じたい。

 うん。部長曰く信頼は大事らしいしそうしよう。


「準備ありがとうねー隅田ちゃん。本当にあなたは働き者ねー。あなたは。」


 そう言って部長は再び隅田さんを撫でくりまわして、僕をチラチラと見た。


 ちょうど隅田さんばっかりに準備をさせてしまったという心苦しさを感じていた所を、更に抉るように露骨な「一方使えねーなぁおめーはよぉ。」というアピールをしてくるのはやめてもらえないだろうか。


「でね。海水を沸騰させるにはあっためないといけないじゃない? つまり熱源が必要じゃない? てことで火起こししましょっか。勿論人力で。」



「ああああああああ。」


 部長が笑顔で放った言葉に、僕の口から自然と叫び声が上がった。隅田さんは口を弛緩させ、腕をだらんと下げた。


ゼツボウノジカンガマタヤッテキタヨ!

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