読書部の日常〜ポンコツ系美少女な部長とただ駄弁るだけの不毛なる学園生活〜

ジェロニモ

ある日の放課後

「なんか最近暑くなってきましたね。」


季節は春と夏の間頃。放課後、学校の美術準備室に、むわぁと蒸し暑さが充満していた。


僕は汗を滴(したた)らせながら、ノートで顔を扇ぐ。

目の前には、机に突っ伏して小型扇風機を自分の顔に向けている部長がいた。


「そーねー。」


なんの苦労もせずに部長の顔に風が送られ、時々プシュっとミストが噴射される。正直言うと羨ましい。


「……部長。ちょっとその扇風機貸してくださいよ。」


「えー嫌よ、暑いじゃない。なんの為にコレ持ってきたと思ってるの?バ〜カ〜な〜の〜〜〜?」


部長は扇風機を変声機がわりに使って、僕を煽っては一人でギャハギャハ笑ってる。


「この部屋窓とかないから暑くてしょうがないんですよ。」


そう。美術準備室には窓というものがない。扉の向こうでは美術部さん達が活動をしているのでドアを開けることもできない。おまけに少し埃っぽい。


「たしかに部室は欲しいわよね。なんで放課後の教室を使っちゃダメなのかが理解できない件について。」


部長は部室が欲しいという話に話題をシフトさせた。

どうやら扇風機を貸してくれる気はちゃんちゃら無いようだ。


「仕方ないんじゃ無いですか?この同好会って実質的に部じゃ無いですし、なんの功績をあげたわけでも無いですし。教室って一応みんなの物的なところがあるじゃ無いですか。」


僕たちの部、読書部はなんの功績もなければ顧問も居ない今年作りたての同好会・・・だ。

部員もぼくと部長の2人だけ。

活動内容は読書についてを駄弁るだけ。

文芸部のように小説を書く訳でもなければ書評もしない。

言うなればただのお喋り会だ。


「こら後輩君。同好会じゃなくて部よ部!全く何度言ったらわかるのよ。暑さで脳みそ煮詰まっちゃってるんじゃないの?」


部長は読書部を同好会と言うと頰を膨らませてプリプリ怒る。

彼女曰く「なんかかっこ悪いから嫌。」らしい。


正直僕的には同好会って響きの方が好きなので、いつもわざと同好会と呼んでいるのだけど、やっぱり部長は受け入れてくれない。


「もう同好会でいいじゃないですか。実際同好会ですし。」


「分かってないわねー。わたしはこの部の長。つまり権力者。

私がこの団体は読書部であるといえばそれは読書部になるのよ。

国の名前を決めるのは国を建てた権力者の権利でしょ?その決定に逆らうなんて下民の心構えが出来てないわね。」


「まぁ下民じゃないので。」


部長は少しジャイアンみたいなところがある。

少々独裁的というか、自分の部だから部のものは全部自分のもの。みたいなジャイアニズムがあるのだ。

かく言う僕も部長の所有物の一つにカウントされているらしい。


外見だけなら美少女の部長の所有物になるのは吝かではないのだけど、たった1人の部員を下民扱いはやめて欲しいものだ。

所有物だというなら大事にして欲しい。


「何が気に喰わないって、放課後にゲラゲラしょーもないことで騒いでるようなリア充(笑)共が教室を占領してるっていうのが腹立つのよ!

最悪教室を使えなくてもいいけど、あいつらが教室を占領してるのだけは許せない!」


部長はバンと机を叩いた。僕たちの活動が彼女の馬鹿にするそのしょーもない奴らと対して変わりない事に彼女は気づいているだろうか?


彼女はとても心が狭いのだ。常人の人の心が六畳くらいだとするならば、彼女の心は四畳半程度の広がりだ。

自分だけならば快適だけど、他人を受け入れるほどの余裕は皆無。そんな感じ。


「あー。いますねぇ。たしかにああいうのは耳障りですよね。僕が教室で本を読めないのは大抵ああいう輩のせいですから。

ほら、僕って一定以上の雑音があると本をに集中できないんですよね、って部長どうしました?」


部長は急に立ち上がるとヘンテコな感じにその場でぐるぐる回り出した。

手を洗った後水分を飛ばすみたいに手を振り回す。

なんだかロボットのように動きがぎこちなくて、その目には涙が溜まっていた。


はて。リア充達へのあまりの憎しみにおかしくなってしまったんだろうか?

部長は苦悶の表情で口を開いた。


「やばい。めっちゃ痛い。折れた、これ絶対折れてるわ……。」


どうやら机を叩いた反動に手が耐えられなかったらしい。なぜ加減をしないんだろう。

リア充への怒りを思いのままにぶつけてしまったのだろうか?どっちにしろ自業自得だった。


「大丈夫ですよ。折れてるって言って本当に折れてた奴なんて今まで見たことないですから。マジ死ぬ……って言う奴が死なないのとおんなじですよ。」


「いや待って後輩君。マジであり得ないくらい痛いから。今君が考えてる軽く五倍くらいは痛いからホントマジで。……ちょっと今日は部活中止にしましょう。私保健室行ってくるから。」


彼女はそう言って部屋を出ていった。部活が無くなるなら特にこんなサウナにいる意味もないので僕も早々に帰り支度を整えて外に出た。



後日、部長に大丈夫でしたかと聞いたら、「あー。うん。アレ。ちょっとアレがアレでアレっていうか、少し折れてたみたいですわー。」と目を泳がせた。


子供みたいな嘘に「大丈夫そうで良かったですね。」とホッとして見せると、部長は「違うからホントだから!」と何故か必死になって否定してきた。


そのまた次の日、部長は両手に包帯を巻いて登校してきた。それだけでも爆笑モノなのに、読書部の活動中露骨に「まだ手が痛いわー」アピールをしてきたので僕は笑いを堪えるのに必死だった。


それから三日ほどが過ぎた。部長は未だに包帯を巻いて登校している。


「あ。そういえば部長が保健室に行った後、保健室の先生に部長の容体どうでしたかって聴きに行ったんですよね。至って健康だったって言ってましたよ。」


その日の放課後、僕が思い出したかのようにそう告げた。

部長は戦隊モノの雑魚キャラみたいな奇声をあげて僕に飛びかかってきた。


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