第74話 音と刻む

自分次第で何にでも

なれると思っていた頃の

曲はどうにも切なくて

信じていた未来と

何にもなれなかった今が

どうしたって哀しくて


それなのになぜかその音は

今の私をあたためる

生まれたのはもう随分昔のこと

それでも記憶に刻まれた

音の羅列がこんなにも

何者でもない私を救う


このかじかんだ指先で

転がる音にそっと触れ

心の奥底に沈んでいる

私の深部を確かめて

確かに私を作り上げてきた

この音達に恥じぬよう

今ある全てを受け止めて

進み続けることを選ぶ


自分次第では何にでも

なれないと知ったけれど

今も昔も変わらない

この音楽に導かれ

私は私の道を行く

この足で、この身体で


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