滅びゆく世界と救済の勇者

@falldoubt

第1話プロローグ

 濃密な霧と夜よりも暗い闇が周囲を覆いつくす場所を5つの光の筋が照らし出す。


 「こちらチャーリー6。ポイントデルタに到着。今のところ異常はない。引き続き周囲を探索する」


 闇に響くのは人の声。何もない世界に5人の集団が現れる。5人は皆防護服を着ており、上下左右をヘッドライトで照らしながら注意深く観察して歩いている。


 「しかし……5年経っても草1本生えないとは。一体どうなってんだ」

 「ここが東京だったなんて……信じられるか?」

 「おい、無駄口は叩くな」


 5人の防護服たちはそれぞれ思うように周囲を探索し、改めて東京の現在を知る。

 何もないただひたすら黒い地面が砂漠のように広がり、かつての高々としたビルや人々の賑わいは見る影もない。

 足音だけが響き何の変化も発見もないまま距離と時間だけが無駄に過ぎていく。


 「この辺はもう何もないな……、こちらチャー……ッ!」


 その時だった。闇の世界だったはずの場所に突如直径5メートルはある光の繭が現れ、闇だった筈の場所を昼間のように照らし出す。

 

 「な、なんだこれは!」


 急激な変化に防護服ごしにもわかるほどの動揺が5人を襲う。

 目も開けられないほどの光が周囲の地面に防護服たちの影を作り、暗闇の世界に光がちりばめられる。


「こ、こちらチャーリー1、こちらチャーリー1! ポイントデルタにて謎の発光現象を確認。至急応援部隊を送ってくれ!」


 リーダー格風の防護服は焦ったような声で耳につけている無線機に向かって叫ぶ。

 今もなお光の繭は徐々にその明るさを増していき、太陽と見紛うほどの光が周囲を覆いつくしていく。

 

 「何がどうなってるんだ。この光は一体……」


 調光レンズ搭載のマスクは今や真っ黒に変わっておりそこに映る光は限界まで達したのか一度大きな輝きが放たれる。

 次第に弱くなっていく光はまるで切れかけの照明のようにチカチカと点滅を繰り返しながら収束していく。

 

 「おい! あの光、人の形になってないか?」


 収束してきた光は防護服が言ったようにゆっくりと人の形になっていき、現れたのは二人の少女。

 光が消え再び闇が支配する中に現出したのは淡い輝きに包まれた金と銀。

 一人は朝日に反射する雪のような銀髪を扇状に広げ、きめ細やかな肌に包まれた身体は黒々とした地面に侵されるように横たわっている。

 もう一人は黄金色の長髪を後ろに束ね、今に消えてしまいそうな白い肌はどこかのお嬢様を連想させる。

 金髪少女は15歳、白髪少女は10歳くらいだろうか。ほのかに膨らんだ胸は上下に揺れており先っぽには桜色に可愛らしいつぼみが見える。


 「お、女の子? どうなってんだ、一体!」


 すると上空から轟音と共に2機のオスプレイが下にいる防護服や少女たちをスポットライトのように照らしだし砂ぼこりが宙を舞う。

 

 「こちらデルタ00。チャーリー6はその場で待機しろ」

 「お、おい、デルタ部隊ってあの……」

 「マジじで存在したのか……」


 オスプレイ内部に取り付けられたスピーカーから聞こえてきたのは威圧的な声。有無を言わさぬその声は絶対的な支配力があり防護服たちは地面に縫い付けられたように動けなくなる。

 オスプレイはゆっくりと地面に吸い寄せられるように着陸すると中からガスマスクを着け銃を持った数人の男たちが隊列を組んで出てくる。その後ろからは金髪オールバックの男が黒スーツを身に着けて現れる。


 「チャーリー6、今すぐここにきて報告しろ」


 たばこを取り出しながらオールバックは状況の説明を求めるとすぐさまチャーリー6のリーダー格が報告する。


 「はっ! 10分前に突如謎の発光現象を確認。次第に収束すると同時に人の形に変化。結果、女の子が二人出現しました!」


オールバックは報告を聞くや否やすぐさま少女の方へ向かうとしゃがみ込みまじまじと顔を覗き込む。


 「こいつら……。姫さんはどう思います?」


 オールバックが見つめる先には同じくオスプレイから出てきたオレンジ色の和服を着た女性。よく見ると紅葉の刺繍が施されており場違いな雰囲気を醸し出している。

 日本人形のような黒い髪は腰で切り揃えられておりいわゆる黒髪ストレートだろう。何より特徴的なのはつややかに輝く翠の目。この目だけは日本人にしか見えない女性の姿を異質なものに変えている。


 「どうもなにもこの方たちはから来たのは明白でしょう。彼女らの保護を今すぐにお願いします。それと……佐々浪ささなみ様、女の子の身体を見すぎですよ」


 金髪オールバック改め佐々浪はどこか憂いのある顔で横たわっている少女たちを見つめている。


 「こいつら肌や髪が綺麗だな、育ちもいい。どこかの貴族様か………。可哀そうにな。こんなとこに来なければいい人生を送れたかもしれないのに」

 

 「……………。詳しい話は彼女らが目を覚ましてから聞きましょう」


 姫と呼ばれた女性は黒髪をひるがえし颯爽と中に戻ると数人の白衣を着た者たちが少女たちを担架で運び出そうとする。

 左々浪は運ばれていく少女たちを見つめながらふと呟く。


 「はぁ。一体後何人に来るんだよ……」


 短くなった煙草から揺らめく煙が空中に消えてなくなるまでそんなに時間は掛からなかった。

 

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