まさかの奇跡

 9月15日土曜日と16日日曜日、中学校の新人戦に合わせ、三年生は実力テストがありました。

 両日とも午前中のみ、二日目にはテストの後、10月初めに行われる地区中学校音楽会のための合唱練習が入っていました。

 8時40分からの試験……。

 三年生になってからそれまで何度も行われてきた実力テスト、次女は起きられないのを理由に、一度も受けていませんでした。

 受験本番は、一日で全教科の試験を行わなければならず、そこに向かう体力が無ければ、まず受験は無理だろうと、再三言われてきていました。私も、どうにか実力テストを受けさせたい一心で、前日からそれはもう、口が酸っぱくなるほどに、

「明日は早く起きる日だよ。実力テストだよ」

 と言い続けました。

 前日まで体調が優れず、殆ど学校にも行けない日々が続いていたので、どうなるのか不安で不安で仕方ありません。

 更に、15日には地区のお祭りがあり、長男がパレードに午後から出るのを見たい、屋台で買い物もしたい、という具合に、やりたいことだけはポンポンと口から出てくるのです。

 そのためにも早起きさせなければと、とにかく気が気でなりませんでした。



 朝。

 まさかの事態が起きました。

 皆と同じ時間に、起き上がっていました。

 嘘だろと、誰もが思いました。

 小学生は午前、登校日だったので、一緒に支度をしました。

 いつもと違う。お祭りだから……? よくわかりませんが、とにかく驚きました。

 テストに間に合うように登校し、キッチリ三教科受けました。


 午後からはお祭り。あちこち歩き回り、写真を撮ったり、行列と一緒に歩いてみたり、食べ物を買いに行ったり。

 屋台には、昼からと夕方と、二回行っていました。


 お祭りでは、普段見かけることのない不登校の同級生も見かけました。それに、知的障害のある近所の男の子も、お母さんと一緒にお祭りに来ていました。

 お祭りの雰囲気の中では、誰も何の悩みも抱えていないように見えました。

 楽しそうに語らったり、遊んだり、食べたり。

 普段は色々な物を抱えて生きている人たちが、みんなみんな、楽しそうにしていました。


 いつもの年ならば、夜暗くなってからまた祭りの屋台を見に行くのですが、消防団で祭りの警備をしていた夫はグッタリしていましたし、翌日も実力テストがある日だったので、絶対に早く寝させなければと、下の子たちにも我慢して貰いました。

 一日だけなら、どうにかなったのかも知れない。けど、二日連続で起きなければいけない。

 二日間で五教科受けなければ、今の次女の実力が分からない。

 翌日が日曜だからとゆっくりはしていられません。緊張のまま、その日も布団に入りました。



 この頃からだったか、長男が思い立ったかのようにスマホゲーの「妖怪ウォッチぷにぷに」を再開しました。以前は家族皆でやっていたのですが、夫の課金が問題となり、課金を止めるよう忠告したところ、アカウントを削除してしまい、それ以来、みんなずらずらとやらなくなってしまったのでした。

 友だちと話しているウチにやりたくなった長男は、朝誰も起きない時間帯なら怒られることもないだろうと、4時頃に目覚ましをかけ、一人で早起きしてはプレイするようになりました。

 しかし、残念ながら我が家では、22時から4時半までの間Wi-Fiを切っているので、回線が復旧する4時半過ぎにならないとプレイは出来ません。それでも、使えるようになったら直ぐに始めようと、とんでもない時間に目覚ましをかけ、長男は一人でコソコソとプレイしていたのです。

 この日も、朝6時前に目を覚ました私は、寝室から一階のリビングへと向かいました。

 朝から好きなアニメをテレビで流しっぱなし、手にはiPad。長男がいつものように起きてゲームをしていました。

「おはよう。何時からやってんの。馬鹿じゃないの」

 長男にそう悪態をついた後、ふと、テレビ画面を見て驚きました。

 もう一人、起きていました。

 テレビにかじりついていたのは、次女でした。

「え……、ええっ……?! 起きてる……!」

 前日は、皆が起きてきたくらいにやっと身体を起こした程度だった次女が、普通に食卓に座ってテレビを見ながらお絵かきしていました。

 最早、何が起きているのか全然分かりません。

「4時に起きたよ」

 あっけらかんと言う次女に事情を聞くと、明け方ふと目覚め、このまま寝たら起きる自信がないからと、ずっと起きていたそうです。

 これには流石にみんな驚きました。

 一人ずつ起きてくる度に、

「次女起きてる!」

 と叫びました。

 テストもしっかり受け、合唱の練習も最後まで頑張りました。

 具合の悪い日は全然動けないのに、動ける日はとんでもなく動けることを喜ぶと共に、オンオフが激しすぎるというのも考えものだなと、力が抜けるようでした。

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