出発

 研修の準備をしている間にも、下の子たちは関係なく具合が悪くなるものでした。

 次男が9月5日火曜日から熱、当時保育園ではRSウイルス感染が流行していたらしいのですが、運良くそれではありませんでした。相変わらず病児保育にお願いして、朝一時間遅れで会社に駆け込む日々です。

 次女は昼過ぎに起きて、自分でご飯を作って食べる生活。学校には週に一度か二度、夕方送るのが精一杯です。

 地元の祭りが15日金曜日にあったのですが、13時からのパレードに参加する長男を一緒に見に行くことすら、次女には出来ませんでした。全部終わって、屋台を回ることはしましたが、パレード見られなくて残念だったねと写真や動画を撮って見せてやりました。

 小6の時、次女はパレードの先頭でした。一人だけ、目立つ格好いい衣装で、近所の人にも知り合いの方にも、「次女ちゃん可愛いね」と褒められ、とても嬉しかった思い出があります。お祭りは大好きで、いつも屋台を何度も巡ったり、パレードで頑張ったりしていたのです。それが、この年はパレードの時間、家で動けずにいたのでした。

 翌16日土曜日の保育園運動会も、午前中開催とあって、次女は留守番。とにかく行事の度に留守番することが増えていきました。


 夏から数ヶ月、一階で過ごしていた次女は、夜中長女の前で泣いていることがあったようです。

「やりたいのに、体が動かない。やる気がないわけじゃないのに、誰も分かってくれない」

 大体、こういうことが原因だったようでした。

 特に、他の家族は皆2階で寝ていたので、とてもさみしかったのだろうなと思います。ひと気のない1階で、一人さみしく過ごしていた次女にとって、夜中でも相手をしてくれるLINE友だちはかけがえのない存在だったのかも知れません。夜な夜な通話しては、何かしら相談に乗って貰っていたと、それはカウンセリングの先生にも話していたようでした。


 2017年9月18日、夕方のバスに乗って私は仙台へ向かいました。

 前日朝から夕方まで使って、せっせと私がいない間に食べられるおかずを作りました。ひじき煮や切り干し大根の炒め物、春雨と挽肉の炒め物、いかにんじん……細かくは覚えていませんが、6品ほど作り、タッパに入れておきました。

「必要なだけ皿に盛って温めれば食べられるからね。日持ちしそうなの作ったから、ご飯のときやお弁当のおかずに使ってね」

 娘達にも、夫にも、そう伝えました。

「もし、作り置きのおかずに飽きたら、惣菜の素を使って青椒肉絲作れるように、材料用意してあるからね。畑から野菜収穫するのも忘れないでね。水まき、宿題も、次女を学校に連れて行くのも」

 伝えることがあり過ぎて、とても心配でした。

 普段は手分けして送迎している三女と次男のことを、夫が朝それぞれ送らなければならないこと、そのためには早く次男を起こし、着替えさせてご飯を食べさせる必要があったことも、やはり心配でした。

 次男は甘えん坊で、今でも私が家事を終えるのを待ち、堪えきれず力尽きたように眠る子なのです。当時は完全にオムツが外れておらず、一人では何も出来ないアピールが可愛い年頃でした。

「ママがいなくても、ちゃんと寝るんだよ。ちゃんとパパやおねえちゃんのこと、聞くんだよ」

「うん。大丈夫。いってらっしゃい」

 三女も次男も、さみしいはずなのに、涙ひとつ見せず笑顔で送り出してくれました。

 とにかく、心配で心配でなりませんでした。

 私一人が研修に行くだけなのに、家族に物凄く負担がかかることはよく分かっていました。仕事なので行かなければならない、当たり前のことが、なかなかしんどいのです。

 仙台に到着し、駅地下で一人で食べたご飯は、あまり美味しくありませんでした。勿論、味は文句なし、良いものを使っていたのですが、一人で外で食べる習慣が一切ない私にとって、ご飯は味だけじゃない、それを食する環境が大切なのだなと身につまされる一幕でした。

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