夏休み

 2017年7月15日土曜日、救急へ向かったのは20時過ぎでした。夕食後、次男と遊んでいた三女が、痛い痛いと訴えてきたのでした。

「血が出てる!」

 右目の直ぐ横が切れていました。

 何で遊んでいたのか、台所から死角になる茶の間で仲良くしていたとばかり思っていたのに、まさかの怪我でした。目の付近となると、大丈夫休みが明けてからねなんて悠長なことは言っていられません。もしうっかり眼球に傷が付いていたら大変なことになります。大慌てで総合病院へ連絡し、救急へ駆け込みました。

 幸い傷が付いたのは目尻だけとのこと。ただ、痕は残ると言われました。実際、一年近く経った今もその傷跡は残っています。

 余裕がなく、小さい子供たちだけで遊ばせていたことが仇となってしまったのかも知れませんでした。


 その前の年は、次男が帰省中に額を切り、出血して救急車で運ばれました。

 その前の年は、次女がやけどで三ヶ月ほど皮膚科に毎週通院し、その少し前に三女も別のやけどをしてしまっていました。

 次女に捻挫をされた年もありました。

 子どもが多いと、怪我や病気は付きものです。毎年のように誰かがどこか怪我をして、通院していました。


 あまりにもいろんなことが続きすぎて、これを異常だとは思っていなかった気がします。

 未だもう少し体にも余裕がある。このぐらいなら乗り越えられる。そういう、根拠のない自信のようなものは常に持っていました。


 7月、殆ど学校に行かないまま、夏休みを迎えました。

 次女の部活は週に数回、午前中のみ。楽しみにしていた保育園でのボランティア活動もあったのですが、当然、起きることが出来ないので休みました。

 幼稚園児には夏休み中も弁当を持たせて預かりをお願いし、保育園児は通常通り、小学生の長男は学童を休ませて自宅で次女を起こすようお願いしました。

 家に誰かしらいるのならば、次女も起きるのではないか。長女も部活のない日は、次女を起こしてくれるのではないかと期待しました。

 中学校側とは、夏休み明けまで体調を戻すよう約束し、どうにか普通の生活を取り戻せないかと模索しました。


 しかし、いざ夏休みに入ってみると、長女は部活の大会で忙しく、泊まりの日程もあったため、次女に付きっきりということはなかったようでした。長男は宿題そっちのけで、一日中ゲームのことばかり。プールに行ったり、友だちと遊んだり、自由に過ごしていたようです。ただ、仕事に行くときは、お昼ご飯までは用意していかなかったので、昼になると、

「腹減った。なんか作って」

 と、寝ぼけ眼の次女にお願いして作って貰っていたようでした。

 夏野菜を収穫し、切って焼いて食べてみたり、かき氷を作って好き勝手頬張ってみたり。

 子供たちだけで、楽しむには楽しんでいたようです。

 宿題も、出来るところから少しずつと、1年生の復習の単元や、なんとなくわかりそうなところを中心に少しやっていたのを目にしました。しかし、2年生になり、まともに授業を受けていなかったため、明らかに勉強は遅れてしまっていると、本人も徐々には気付いていたようです。 


 次女の寝床は、夏休みに入ると本格的に1階へとシフトしました。

 エアコン等の関係で、居間から茶の間に場所を移し、完全に次女のスペースとして茶の間を使うようになりました。エアコンの風が逃げないよう、ロールカーテンで仕切ったり、扇風機をかけてやったり、とにかく暑さに弱い次女が動けなくならないようにと必死でした。

 硬いソファベッドの上で転がり、ほぼ一日をそこで過ごすようになった次女は、まるで寝たきりの老人のようでした。

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