歪み

 うちの三女は乾燥肌です。赤ちゃんの頃から皮膚科に通っているのですが、本当は定期的に来なさいと言われているのを、忙しいのを言い訳に行かずにいました。次女の具合が悪くなり、通院が負担になっていたから、というのは言い訳に過ぎません。乾燥の季節になってくると、保湿と薬の塗布が必要なことは、耳にたこができるほど皮膚科の先生に言われていたのです。

 梅雨に入り、汗の出る季節になってくると、首回り、関節、そして目の下が極度に乾燥してきます。皮膚がカサカサして、掻きむしって白くなり、あちこち血が出てきます。市販のローションも効かなくなり、これではダメだと皮膚科に行くと、

「だからね、この子は、保湿が必要なの。わかる?」

 クセのある先生にチクチク言われます。

 2017年の夏も、やはり例年と同じように乾燥が酷くなり、6月頃から皮膚科に通い始めたようでした。

 次女の小児科、三女の皮膚科、そして長男はアレルギー性鼻炎だと言われて耳鼻科にそれぞれかよわせることになりました。

 土曜日は夕方に子ども4人の習い事があり、その他地域の行事や学校行事等が入ると、夫婦二人で分担して連れて行っても、かなり大変だった覚えがあります。


 平日も勿論、忙しい日々は変わりませんでした。

 残業をして仕事から帰ってきて、途中で下の子三人を回収。雨の日はその合間に、高校まで長女を迎えに行きました。天気の良い日は帰宅後に野菜の収穫と水まきを子供たちに指示します。しかし、小学生の長男は大抵途中で飽きてしまい、私がそれらの作業をこなしながら、家の中の次女に、学校に行けるかどうか、行けるなら支度するようにと声をかけました。

 19時近くになってようやく出発、学校で話をして、戻ってくると19時半。そこから晩ご飯の支度を始めます。

 私がご飯を作っている間に、出来れば小さい子たちをお風呂に入れて欲しいのですが、やはり長男が風呂掃除を面倒くさがってやらない日があったので、夫が帰宅後風呂掃除をして、ご飯が終わってから入浴、と言う具合でした。

 以前は寝かしつけまで私がしていたのですが、次女を学校に送るようになってから、全ての時間が後ろにずれ込んでいきました。

 遅くとも22時までには就寝していたのが、それまでに家事が終わらないことが多くなっていきます。

 例えば、子どもの寝かしつけを先にして、その後起きて入浴したり家事をしたりする人も居るのでしょう。しかし、私はあまりにも疲れていて、一度横になったらもう、起きる自信は一切ありません。何もせずに朝を迎えることは目に見えていました。

 ですから、全ての家事をこなしてから入浴して寝るというスタイルを崩すわけにはいかなかったのです。

 夫は22時を過ぎると自室に引きこもってしまうので、「誰も寝させてくれない」と、未就学児が23時まで私の周りをウロウロするのはしょっちゅうでした。

 そうなってくると、誰が寝かしつけるか。小学生の長男か、或いは高校生の長女か。

「オレには出来ない。無理」

 5年生だった長男は、直ぐに言いました。

 第一、寝かしつけをお願いしたところで、遊び疲れて一番に寝るのは長男でした。

 家事を終えてやっと眠れると寝室に戻ったとき、まだオムツの外れない次男がお座りして待っていることもありました。そして、私が隣に横になると、安心したようにあっという間に寝付くのでした。

 高校生の長女が率先して寝かしつけをしてくれていたのですが、

「ママ眠るときに私起こして」

 勉強時間を削って寝かしつけまでしてくれて、かなり負担をかけてしまいました。起こしてやると、そこから少し勉強をして寝るようでした。長女の成績は悪い方ではありませんでしたが、なかなかよくはなりませんでした。


 本当は甘えたい年頃の三女と次男には、少しずつこの歪んだ生活の影響が出ていきました。

 三女は粗暴になり、直ぐに殴ったり蹴ったり、囓ったりするようになりました。特に長男の男性器を激しく蹴ることが多く、止めろと言っても言うことを聞かないことがありました。

 そして、平気で嘘をつくようになりました。自分がやったことでも兄のせい、弟のせいにして知らんぷりを決め込みます。おやつの数をごまかして隠します。

 次男はオムツが外れそうなのになかなか外れなくて苦労しました。そろそろ大丈夫、と思うと盛大におしっこを漏らしてしまい、その事実を隠しました。布パンツに漏らしても知らないフリをして遊んでいました。怒ったらお終いなので、何ごともなかったように始末しますが、一日で7~8回漏らすこともありました。

 夫がイライラしてお漏らしに対して怒ったことがありましたが、全く逆効果です。お漏らししたことを怒ってはならない、教えてくれてありがとうと言わなければならない。戒めのように自分に言い聞かせ、どうにかトイレトレーニングをさせていました。次年度からは幼稚園。絶対にオムツを外さなければならなかったのです。


 どうにか家の中を回している。と言うのが妥当だったのだと思います。


 毎日毎日、同じことの繰り返し。

 朝起こす。今日も皆眠い。次女は起きていない。弁当、ご飯、見送り、登園、学校への電話、仕事……。終わったら長女の位置を確認して、場合によっては迎え、下の子たちの迎え、帰宅、野菜、学校、晩ご飯、家事、明日の支度、入浴、就寝……。

 幼稚園からも、保育園からも電話が来ます。

「三女ちゃん、お尻から血が出たって」

 便秘で、大きな便が出て、切れてしまったようでした。

「次男君、熱出ました」


 そして極めつけは。

 親の見ていない隙に、三女が怪我をしました。右の目尻をブロックで切り、夜間救急に駆け込んだのです。

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