土曜の通院

「休みをいただきたいんですが」

 この一言を絞り出すのには、勇気が要りました。

 子どもが沢山居ること、思わぬ入院が28年度にあったこともあり、休める日数に限りがありました。

 更に、私が休むことで、シフトを組み直さなければならない日もあり、課長から、

「今年度休む予定がある日を全部書きだして。なるべく優先して休み入れるから」

 とお心遣いはいただいていました。

 しかし、思ったよりも全く良くならない起立性調節障害。通院に割く時間がどんどん増えていきます。

 元来気性の荒い課長は、だんだんご機嫌が斜めになり、

「お前一人を特別扱いできるわけじゃない」

「休ませることは休ませるけど、もう少しどうにかならないのか」

 と言われるようになっていきました。


 営業の私よりも事務をしている夫の方が休みやすいのではとも思いましたが、会議や出張、その他イベント準備だったりと、やはり上手くは行かないものです。曰く、「休んでも代わりに仕事をする人が居ないから、そのまま溜まってしまう」 とのこと。

 もっともだと思います。

 営業の場合は、休んでも代わりが居ます。そこは、職種的にもう、どうしようもない差異でした。


 どうにか二人で代わる代わる休んでは通院を繰り返しました。

 薬を貰いに行くだけの場合は、土曜日を小児科の通院に充てました。

 しかし、土曜日の診察は午前中のみです。次女が最も辛い時間です。

 朝どうにか起こして、着替えさせ、スマホで混み具合を確認しながら診察予約をします。車まで負ぶったり、運んだりしながら必死になって連れて行き、ようやく診察が始まる頃に、どうにか次女の体が起き始めます。食欲がないため、何も食べないまま小児科に向かうこともありました。

 起立性調節障害の診察は、午前が勝負だと思っていました。

 午後になると体調が回復するため、辛さを直接医師に伝えることが出来ないからです。

 歩くのもやっとという状態で行くのが一番良いのでしょうが、予約していっても、診察の頃には自分で歩けるようになっていて、また自分で症状を伝えることも出来るため、なかなかしんどさが伝わりません。

 例えばインフルエンザだったり、感染性胃腸炎だったり、明らかに見た目に症状の出る病気であれば、大変だと言うことは誰の目にもはっきり映るでしょう。激しく咳を繰り返す、熱が40度近い、嘔吐を繰り返す、下痢が止まらない、湿疹がある。そういう、わかりやすい病気ならば、医師でなくても辛いという判断が出来ます。

 しかしながら、起立性調節障害という病気に関しては、これが全くと言って良いほど当てはまりません。

 まず、具合が悪いのは午前中です。日によって午後からも具合が優れないことがありますが、一人で起き上がれないのは寝起きから数時間です。

 そして、腹痛と頭痛は慢性的にあります。お腹が緩いわけでも、どこかに異常があるわけでもありません。

 更に、不思議なことにこの起立性調節障害の子供たちは、殆どの場合、聞き分けが良く、頭も良い。苦しみが表情に現れない。本人がどんなに苦しくても、それを表情で読み取ることが先ず出来ないのです。


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 一般的に、起立性調節障害の子どもたちは、細やかな心配りができて、周囲の人たちにとても気を遣う性格傾向があります。この傾向は幼稚園や小学生のときから見られることが多く、先生たちにも「よくできる子」と評価されるようです。多くの保護者は「小さいときには、手を煩わすことは少なかったように思います」と話されます。

 また、学校などの集団生活においても自分の感情を抑制し、友だちに合わせて行動したり、周囲の期待に応えようとします。「ノー」と言えないタイプです。このような性格傾向を「過剰適応な性格」と呼ぶことがあります。このタイプは意思表示やわがままが少ないのですが、その分、慢性的なストレスを無意識に溜め込んでしまうといわれています。

※「起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応(田中英高/中央法規出版株式会社刊)」

  第3章起立性調節障害の子どもたちのSOSサインを見逃すな 

   起立性調節障害の子どもに見られる心の問題(63~64ページ)より抜粋


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 診察には時間がかかりました。他に具合の悪い子供たちが沢山待っていたため、小児科の先生はとうとう、

「午前中の診察の一番最後に予約を入れて。ゆっくり話すから」

 と言うようになりました。

 土曜の受付は12時まで。5分ほど前にネットで予約を入れ、そこから車で連れて行きます。診察が全部終わるまで待ち、最後の一人として呼ばれる頃には13時を過ぎていました。その頃には体調も戻ってきて、お腹も空き、ある程度自分で動けるようになります。

 話をする時間はたっぷりありましたが、切実な症状を見てもらうことはなかなか出来ませんでした。

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