えがおの実

カゲトモ

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「すかい~っ」

 ハンギングプランターのミリオンハートに霧吹きをしていると、商店街の方から名前を呼ぶ声が聞こえた。その正体はこちらに向かって走る小さな女の子だ。

「おー奈々子」

「なにしてるのぉ」

 足元で急停止すると、何事もなかったように話し出す。

 今ダッシュしてなかった? なんで息切れしてないの。この頃ってそんなに元気だったんだっけ? 大昔過ぎて分からないよ。

「水やり」

「ななちゃんもやりたいっ!」

 そう言って「はいっ!」と元気良く手を挙げて見せる。子供らしくて大変よろしい。

「はいよっ」

 奈々子に霧吹きを持たせて抱きかかえてやる。プランターは天井から吊るしてあるから奈々子を肩に乗せないと届かない。

「どうだ、できるか?」

「んっ、ななちゃん、できるっ」

 右肩に乗せた身体が小刻みに前後に揺れる。

 おうおう、上手い上手い。けどこっちにだけは吹かないでくれよ。

「できたか?」

「できたーっ!」

 両手を上げて満足そうな奈々子に、こっちも胸が満たされる。純粋無垢って言うのはどうしてこうもまわりに癒しの効果をもたらせるのだろう。保育園と介護施設が一緒になっているところはこのパワーを有効活用しているのだろう。きっとそこには幸せの空間が広がっている、なんてね。

「わぁ、すみませんっ」

 困ったような声に振り向くと、そこに居たのは奈々子の父である門脇君だった。

「あっ」

 こちらこそ、他所のお嬢さんを肩に乗せたりなんかして。

「ぱぱぁ」

 手を差し伸べた奈々子に門脇君も手を広げる。その表情は驚いたような困ったような顔だ。

「奈々子が水やりしたいって言って」

「ななちゃんできたよーっ」

「できたよ、じゃなくてっ。すみません、お仕事前なのに」

「いやいや、水やりしていただけだし気にしないで」

 それでも門脇君は何度も頭を下げる。親の責任、だなんて思わなくてもいいのに。

 奈々子はそんなことなんて少しも気にしない様に下ろそうとするパパの身体にしがみ付いている。

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