第115話 夏樹と芽衣

 魔法少女バトル本戦三日目。本日は王立競技場でAブロックとDブロック、王都球場でBブロックとCブロックの対戦となる。

(ケン兄、今日は見に来てないのかな?)

 花梨はいつものように観客席の拳凰を探していたのだが、今日だけは様子が違う。普段ならば満員の観客の中にいても不思議と見つけられるのに、今日はその姿が見当たらなかったのである。

「えー、皆さんこんにちは。実況のタコワサです。本日は両会場の解説者を入れ替え、カクテルさんにこちらの会場にお越し頂きました」

「どうも、妖精騎士団のカクテルです。本日は宜しくお願いします」

 カクテルはにこやかな調子で挨拶。

 どうしても朝香の試合を生で見たかったカクテルはオーデンを接待し、妖精王権限で解説者を入れ替えて貰ったのである。

(さて、第一試合とかいう茶番にはさっさと終わってもらい、早く朝香の試合が見たいものです)

 Aブロック三回戦第一試合は、ショート同盟VSラブリープリンセス。既に一回負けている花梨達にとって、ここで勝てなければ決勝トーナメント出場は完全に無くなる。

 カクテルはあまりやる気が無さそうに、雑にサイコロを振る。出た目は三。ルールは二点先取である。

「それじゃここはショート同盟の切り込み隊長であるボクが行ってくるよ」

 先鋒としてステージに上がるのは夏樹である。対するラブリープリンセスからは、芽衣が出場。

「夏樹ちゃん……」

「こうして再び芽衣と戦うことになるとはね。昨日のことは感謝してるけど、それと勝負は別だよ!」

 昨晩、部屋を飛び出した芽衣はショート同盟の部屋を訪ね、らぶり姫の思惑について話した。その後ヴァンパイアロードと桜吹雪にも同じく伝え、お陰でAブロックの選手達は何事も無く試合を向かえることができたのである。

 謀略が不発に終わったらぶり姫は、ベンチで肘を突き不機嫌そうにしていた。

「天パーちゃんったら裏切ってくれちゃって。もう死ねばいいのに」

 芽衣がらぶり姫から暴言を吐かれるのは、今に始まったことではない。二人は同じ中学の漫画研究部で先輩後輩の関係である。元々らぶり姫は同部の紅一点であり、男子部員達からちやほやされていた。だがそこに新入生の芽衣が入部したことで紅一点の立場を失い、芽衣を恨んで嫌がらせをするようになったのである。

 たとえチームメイトから心無い言葉を投げかけられても、芽衣はチームのため戦い抜くことを心に決めていた。

「たとえ相手が夏樹ちゃんでも、私は負けないよ!」


 昨晩のこと。ラブリープリンセスの部屋に戻れない芽衣は、ショート同盟の部屋で一夜を過ごすこととなった。

「それで天パーちゃんなんてあだ名を付けられてね。男子も見てる前で酷いこと言われたり、パシリみたいに扱われたり……」

 溜め込んできた思いを吐露する芽衣。ショート同盟の四人は、身を入れてそれを聴いた。

「そんな人が魔法少女バトルに……」

「苦労されてきたんですね……」

「あの人が君に何かしようとしてきた時はあたし達が守るから、安心して!」

 心強い言葉をかけられて芽衣は少し安心したような顔をするが、また表情が曇る。

「よりにもよって天パーをからかうなんて酷すぎだと思わない? 小さい頃からずっと悩んでたことなのに……」

 まだ吐き足りないみたいで、芽衣は愚痴を再開する。

「挙句の果てに魔法少女の衣装まで羊だよ! 私の天パーを嘲笑うみたいに!」

「芽衣は自分の髪の毛、嫌い?」

 夏樹はそう言い出したかと思うと、何故かスマホを取り出し魔法少女に変身する。

「これはボクの考えなんだけど、魔法少女の衣装ってその子の魅力を引き出すようにできてると思うんだよね。例えばボクの場合はこの美脚!」

 脚を見せびらかすように、膝を曲げて腰上まで上げてみせる。

「お陰でこんなハイレグに網タイツなんてちょっぴりセクシーなのになっちゃった。恥ずかしさもなくはないけど、ボクの魅力を最大限に引き出す衣装なのは確かでしょ?」

 夏樹は脚を下ろすと、腰に手を当ててウィンク。

「魔法少女バトルのシステムが芽衣のふわふわの髪を魅力的だって思ったから、それが際立つ羊さん衣装になったんだと思うよ。芽衣はもっと自分に自信持とうよ。今日の試合でメイド服の人に勝ったの、かっこよかったよ」

 芽衣は暫くぽかんとした表情で聴いていたが、途中で何かを決意した表情に変わった。




 試合開始が告げられる。芽衣はウールを、夏樹はトランプを生成。

「フルハウス!」

 迫り来るウールをカードが切り裂き、そのまま芽衣本体へと追撃。防御用に張ったウールをも容易く切り裂き、芽衣のHPを削った。

「まだ終わらないよ! ワンペア! それにフォーカード!」

 カード手裏剣と同時に、炎が放たれる。

「ひゃあっ!」

 夏樹が炎で攻撃してきたことに、芽衣は狼狽する。一度引火した炎は一気にウールを包み込み、灰塵へと変える。そしてその隙間を縫って、カード手裏剣が芽衣に刺さったのである。

 初っ端から優勢に立つ夏樹と、防戦一方の芽衣。芽衣は涙目になりながらも、沢山のウールを生成する。

「どれだけウールを出しても、ボクのフォーカードの餌食だよ!」

 そう言う夏樹であるが、フォーカードなんてなかなか揃えられるものではない。宙を舞うトランプの中から、どうにか数字を合わせられるカードを探している様子だ。芽衣はその間にウールを伸ばし、背後から夏樹を狙う。

「おおっと!」

 サイドステップでウールから逃げながら、フォーカードを諦めてスリーカードで手放す。発光する強力なカード手裏剣が、芽衣へと飛んだ。

「自分に自信を持って……私は最後まで戦う!」

 いつになく強い口調で言った芽衣は、高圧縮したウールを一箇所に集め発光カード手裏剣を受け止める。圧縮されたウールが元に戻る衝撃で、発光カード手裏剣は発射された。その速度に対応できなかった夏樹の鳩尾を、発光カード手裏剣が容赦なく抉る。

「うげっ……」

 自身の攻撃を逆に喰らった夏樹は体をくの字に曲げて後退させられるも、かろうじてブレーキをかけて体勢を立て直し転倒は防いだ。

 芽衣は防御と反射に使ったウールをそのまま夏樹へと伸ばし、追撃を狙う。夏樹はこれが最終予選で使ったのと同じ、ウールで体を締め付ける攻撃だと読んだ。あの時はフルハウスで容易に脱出できたが、芽衣もあの時から大きくパワーアップしている。大量のウールによる質量攻撃が強力なのは、昨日の試合で証明済だ。

 自慢の美脚でステージ上を駆け巡って逃げながら、夏樹は一枚一枚カードを集めてゆく。ポーカーの役を揃えることによって発動する夏樹の技。芽衣はカードを揃えさせまいと、宙に浮いているカードをウールで飲み込んだ。

「げげっ!? ……なーんてね!」

 驚いたふりからの、華麗なウィンク。カードが失われたらすぐにシルクハットを翻し、その中から大量のカードを出現させた。

「これと……これ!」

 目を光らせてカードを選び取り、五枚のカードを手に揃える。

「そういえば最終予選では変態殺人鬼に邪魔されて完成しなかったんだよね……ロイヤルストレートフラッシュ!」

 ハートの10、ジャック、クイーン、キング、エース。それらを並べて見せびらかすように宙に放ち、声を張り上げて役の名を叫ぶ。発光する五枚のカードからは、ストレートの比ではない極太のビームが発射された。

「受け止めてみせる!」

 芽衣はこれに臆することなく、先程と同じように高圧縮したウールで防御。ウールの盾はしっかりとビームを受け止めた。芽衣は両腕を真っ直ぐ伸ばしてウールの盾に掌を向け、力一杯魔力を送る。

(少しでも気を抜けば押し負ける! だけどこれを跳ね返せれば……!)

 ビームのパワーに押され、芽衣は後ずさりした。気を抜かずとも、既に押し負けつつあるのだ。

(ロイヤルストレートフラッシュ……なんて威力!)

 ここまで二連敗している夏樹であるが、そのどちらの試合でもこの技を使っていなかった。もしもそれらの試合でこれを出せていたら、結果は変わっていた可能性もある。

 使うための準備が大変である故にそう易々と出せる技ではないが、ここぞという所で遂に完成である。

 必死に抵抗する芽衣であったが遂には力負けし、ウールの盾は貫かれる。ビームを全身に浴びた芽衣はひとたまりもなく変身解除させられた。

「勝者、二宮夏樹!」

 文字通り最後の切り札を使った夏樹は、肩を揺らして息を切らしながら自分の名が読み上げられるのを聴いた。

「か、勝った……」

 息を整えたところで、夏樹は芽衣に歩み寄る。

「いい勝負だったよ。ありがとう芽衣」

「こちらこそ、ありがとう」

 芽衣がバリアの中にいる以上握手はできないので、二人はバリア越しに掌を合わせた。


 ベンチに戻ってきた芽衣を、らぶり姫は侮蔑の目で見た。

「裏切った挙句負けてくるとかさぁ、本当ゴミだよねー」

 そうやって罵れば芽衣は泣きそうになるので、らぶり姫からしてみればいいストレス解消になるのだ。

 だが今日の芽衣はらぶり姫の予想に反して、目線を強めてらぶり姫を睨んだ。予想だにせぬ行動にらぶり姫がびくりとしたところで、芽衣は言う。

「私はこの試合にベストを尽くしたよ。だから悔いは無いから」

「ま、負けたくせに何を偉そうに! ていうか先輩に敬語使いなさいよ!」

 らぶり姫の言葉を無視して、芽衣はらぶり姫から一番離れた位置に腰を下ろす。

「後輩に逆襲されてやんの。ざまあみろだし」

 由奈が立ち上がり、ステージに向かう。

「個人成績三戦三敗とか冗談じゃないし、ここでうちが一勝しとくし」

 つい先程夏樹が三戦三敗を回避したばかりであり、由奈もそれに続こうと気合を入れる。対するショート同盟からは、蓮華が出場。

「チーム・ラブリープリンセス、菅由奈! チーム・ショート同盟、弥勒寺蓮華!」

(あいつは確か妖精界来る時の集合場所でうちらに絡んできた丸刈りの女だし。昨日の試合じゃ結構強く見えたけど……うちの実力なら勝てない相手じゃないし!)

 由奈は最初から槍を三本出し、全力をアピール。

 試合開始宣言と共に、蓮華は千手観音を召喚。由奈は床すれすれを飛行しながら一直線に突っ込み、出現したてで動けない千手観音に三本の槍を一気に突き立てた。

「トリプルトライデント!」

 フォークでパスタを絡め取るように、三叉の槍を錐揉み回転させ無数の手をへし折る。麗羅の戦い方に倣って、ビームを撃つ手を破壊したのだ。

 翼による飛翔を用いて戦う由奈からしてみれば、それに限らず麗羅の戦い方は優れた手本になる。得物は違えど自分なりにアレンジし、己が技として昇華させたのである。

 錫杖による反撃を避けつつ、由奈は両手に持った槍で千手観音を、尻尾に持った槍で蓮華本体を攻撃。

(速い……!)

 素早い突きの連続に翻弄される蓮華。錫杖を防御のために振るいつつ、千手観音の破壊されていない腕からビームを撃つ。

 苦し紛れに撃ったビームが、空中での動作性を高めるため大きく広げていた翼に命中した。

「だしっ!?」

 翼に穴が開いたことでバランスを崩した由奈だったが、尻尾の槍を扇風機のように回転させて浮力を増しバランスを取った。

 だがそこに、蓮華の更なる追撃。

「後光!!」

 蓮華と千手観音が同時に合掌すると、千手観音が眩い光を放つ。花梨が手術台のライトで麗羅の蝙蝠を消滅させたことに倣った、強力な目潰し。

「うげーっ!」

 由奈も麗羅と同じく、魔を祓う聖なる光には弱い。完全に視界を奪われ飛行もままならなくなったところで、待っていたのはビームの集中砲火。序盤は優勢かに見えた由奈であったが、蓋を開けてみればあっという間の敗北であった。

「勝者、弥勒寺蓮華!」

「ちょっとー! らぶり姫の出番はー!?」

 二点先取の二連敗となったことで出場すらなく終わった大将のらぶり姫は、悲しい叫びを響かせた。

「全戦全敗とかマジありえんしぃ……」

 バリアの中で、由奈はがっくりとうな垂れた。


 両選手がステージから降りた後、改めて八人全員がステージ上に整列。

「Aブロック三回戦第一試合の勝者は……チーム・ショート同盟!!」

 花火が上がり、勝利したチームの名が読み上げられる。

 がっちりと握手を交わす芽衣と夏樹の横で、ラブリープリンセスの他の三人は不機嫌な表情。

「夏樹ちゃんのお陰で私、自信が持てるようになったよ。本当にありがとう」

「これでもう怖い先輩も怖くないね! 元の世界に帰ってからも、頑張れ芽衣!」

 夏樹の激励に、芽衣は何度も頷いた。

(これで首の皮一枚繋がったか。後は姉ちゃん達次第だな)

 小梅は観戦席の歳三に視線を向けた。歳三も小梅と視線を合わせる。

(安心しなさい小梅。チーム・桜吹雪の勝利に死角は無いわ)

 歳三はステージへと向かうため席を立つ。チーム・桜吹雪の面々もそれに続いた。



<キャラクター紹介>

名前:杉森すぎもり亜里抄ありさ

性別:女

学年:高一

身長:167

3サイズ:88-61-84(Cカップ)

髪色:黒

髪色(変身後):銀

星座:山羊座

衣装:カジノのディーラー風

武器:コイン

魔法:コインの表が出たらビーム、裏が出たら自爆

趣味:ソーシャルゲーム

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る