第113話 もう一つの大会
試合観戦を終えた拳凰は、早速王都球場のシステムルームを訪ねた。
「おうマッチョジジイ、修行つけてくれるんだろ。だったらさっさと行こうぜ」
騎士団の面々が揃って拳凰を見る中、ビフテキはふっと笑った。
「左様でしたな。ムニエル様、それでは私めはこの方の修行をおつけしにケルベルス山に参ります。本日午後からの公務の付き添いはハンバーグに任せましょう」
「ムニエル様。このハンバーグ、誠心誠意お供致します」
ハンバーグが畏まる姿を拳凰は何度見ても慣れず、吹き出しそうになるのを堪えた。
「それでは参りましょうか拳凰様」
ビフテキは拳凰と共に転移の魔法陣に入り、その場から姿を消した。
拳凰の目に映る景色は、最早見慣れたケルベルス山に変わった。
「それでは始めましょうか。私がハンバーグを鍛えた時と同じ修行をさせてさしあげましょう」
ビフテキは上着を一枚脱ぐ。
「ああ、そいつは有り難いが、その前に話すことがあんだろ」
拳凰は一歩踏み込み、ビフテキに近寄った。
「単刀直入に訊くぜ。妖精王オーデンは俺の親父なのか?」
王都オリンポス、カクテルの研究所。オーデンはラタトゥイユを連れ、この場を訪れていた。
「さてカクテルよ、我に何を見せてくれるのだね?」
「陛下に楽しんで頂けることは約束致しますよ。まだ開発中のものですが、他でもない陛下のために特別に公開致します」
魔法により厳重にロックの掛けられた扉の前に、カクテルは立つ。
「では暗証番号と私の魔力認証を……」
カクテルが番号を入力しようとしたところで、オーデンが扉に触れた。途端全てのロックが解除され、扉は開いた。
「これは失礼致しました。陛下のお力があれば解錠など不要でしたね」
扉の先は下り階段。三人は地下へと足を進める。
階段の先にあったものは、小さな闘技場であった。
「それではこれより、人間界最強犯罪者決定戦を行います!」
カクテルは闘技場に出るなり、マイクを持って叫ぶ。魔法少女バトルの時よりも、遥かに高いテンションで。
「一回戦第一試合の出場選手をご紹介致しましょう。まずはアメリカ代表、三十三人殺害した銃乱射魔、コロース・ブッコロース!」
ゲートから入場してきたのは、マシンガンを両手に持った男。鼻息荒く目を血走らせ、見るからに正気ではない雰囲気。
「対するは日本代表、日本最強の不良グループを率いた男、尾部津屑道&その手下達!」
もう一方のゲートから入場したのは、中学時代の拳凰に敗れて逮捕され、出所後再び拳凰に敗れまた逮捕されたあの尾部津屑道。更にその手下も全員付いてきている。
「彼らは数の暴力も強さの一部と判断し、手下も一緒に参戦です」
突然こんな所に連れ出された尾部津と手下達は、何やら戸惑っている様子であった。
「それではここでこの大会の概要について説明致しましょう。この大会の出場者は、私がミスターNAZOの候補として人間界の刑務所から連れてきた凶悪犯です。彼らはサトゥガイ・コロッセオがミスターNAZOに正式採用されたことで不要となり飼い殺されていたのですが、陛下に心行くまで楽しんでいただくためこの場で再利用することと致しました。バトルのルールは簡単。相手を殺せば勝ちです」
カクテルが説明をしている間にも、ブッコロースは試合開始が今か今かと待ち侘びてフーフー言っている。
「早く戦いたがっている方もいるようなので、そろそろ始めましょう。それでは……試合開始!」
開始が宣言されると、ブッコロースはしっちゃかめっちゃかに銃を乱射し始めた。狙って撃っているわけではないため命中率は低いが、尾部津の手下達は人数が多い分何人かは被弾する。
「ひいいっ、あいつマジで殺す気だ!」
「嫌だーっ、死にたくないーっ!」
こちらから攻めていくわけでもなく、ただ悲鳴を上げて逃げ惑う尾部津の手下達。だがこの狭い闘技場では、逃げ場などそうそうあるものではない。
「ぎゃああああああ!!!」
絶叫と共に一人、また一人と絶命してゆく不良達。敵を残虐に殺すことを厭わないラタトゥイユですら目を背けるほどの惨状を、カクテルとオーデンは笑って見下ろしていた。
「如何です陛下、なかなか楽しい催しでしょう」
「ふむ、流石はカクテルだ。良いものを考える」
そして気付いた時、血の海と化した闘技場に立っていたのはブッコロースと尾部津の二人だけとなっていた。
(ど、どうしてこんなことになったんだ。刑務所から出してもらえると言われたから付いてきたのに、結局こっちでも檻の中に入れられるし、やっと出してもらえると思ったらこんな……)
目に涙を浮かべ、失禁と共に腰を抜かす尾部津。完全に戦意を喪失した彼に、ブッコロースは笑いながら迫る。
「ブッコロオオオオオオ!!」
そして残る弾を全部使う勢いで、猛烈な連射。尾部津を蜂の巣へと変えた。
「尾部津一味、全員死亡――よってこの試合、コロース・ブッコロース選手の勝利です!」
カクテルが高らかに勝者の名を叫ぶ。
「さて、第二試合に入る前に死体を片付けておきましょう」
勝利したブッコロースがゲートから退場した後、床が開いて尾部津達の死体は奈落の底へと落下していった。
カクテルはポケットから一枚の紙を取り出し、オーデンに手渡す。
「さて陛下、こちらが今大会出場選手のリストです。どうです、どれも恐ろしい人間ばかりでしょう」
そこには選手の名前と顔写真と、そして罪状が全て書かれていた。尾部津一味などこの中では一番の小物に過ぎず、残りの面子の罪状には常人なら目を背けたくなるほどの凄惨なことしか書かれていない。
これで陛下は大層楽しんでくれるだろうと踏んでいたカクテルであったが、不思議とオーデンは不満げな様子。
「……女囚がおらんではないか。どうせならば女同士に殺し合いをさせればよいものを」
リストを見ながら、オーデンはそんなことを呟いた。
「これはとんだ失礼を……」
カクテルは顔を背け苦笑い。
「元々最終予選でミスターNAZOとして使うことを想定して連れてきた囚人達です故、男囚しか連れてきておりませんでした。ですが陛下に朗報がございます。この大会は、次回の魔法少女バトルの対戦システムの試金石として行っているもの。次回の魔法少女バトルでは何の罪も無い可憐な少女達が、このように血肉を撒き散らして殺し合うのです」
「ほう……それは実に楽しみだ」
仮面を被っていても声色でわかる、今日一番オーデンの機嫌が良くなった瞬間だった。
それを察知したカクテルも、合わせるようにクックと笑う。
「陛下は誠に……人間の女性がお嫌いですねぇ」
ホテルの自室に戻ったショート同盟の面々は、すっかり気を落としていた。
「はぁ~……あっつ!」
小梅は汗だくのTシャツを脱ぎ捨て、上半身スポーツブラ一枚になる。
「いつまでも凹んでたってしょうがない! 作戦会議しよ作戦会議!」
力強くベッドに腰を下ろし、気合を籠めて小梅が言う。
「あたし達が決勝トーナメントに行くには明日ラブリープリンセスに勝つのは当然として、それと桜吹雪がヴァンパイアロードに勝ってくれないといけない。そうして勝利数が並んだところで、二勝一敗の三チームによる決戦試合。あたし達は改めてヴァンパイアロードと桜吹雪に勝たなきゃならないわけだ」
「相当厳しい条件ですね……」
それだけ今回の一敗は大きいのである。
「二位まで通過できるルールならよかったんだけどなー」
途方も無い気がして、夏樹はベッドに大の字で寝転がった。
「それで桜吹雪とヴァンパイアロードの対戦カード、どう見る?」
「歳三さんが圧倒的に強いのはわかるけど、後の三人は心もとないように思う。圧倒的に強い選手が少なくとも二人いるヴァンパイアロードに分があるかなあ」
「ちょっと待って、桜吹雪のエロい触手使う人も結構強かったよ!」
花梨の意見を聞いた夏樹が起き上がり、反論する。
「エロい触手って……確かにあの人は夏樹ちゃんに勝ってたし、ヴァンパイアロードにも勝ち目はあるかも」
「問題は実力未知数なレインコートの小学生か。弱いから控えに回されてるのか、超強い秘密兵器なのか……」
「あの、もう一方の試合について考えるのも大事ですけど、それよりも私達の試合のことを考えるべきでは」
すっかり話題の流れがもう一方の試合に傾いていたので、蓮華が軌道修正を促す。
「ボク達の最後の相手はラブリープリンセス。ここまで全敗してるチームだけど……」
「油断はできないよね。あのアザトース様とかいう召喚獣はパワーあるし、どんなにHPが残ってても確実に変身解除させられる魔法を使う人もいる。これまでの相手が強すぎただけで、あいつら自体は弱いチームじゃないと思うよ」
小梅が答えた。
「それに芽衣も……」
最終予選で行動を共にし友情の芽生えた夏樹と芽衣。明日の試合で二人がぶつかり合う可能性は、十分にあり得る話だ。
(芽衣、あのチームで居心地悪そうだったな。先輩に無理矢理チームに入れられたって言ってたけど、もしかしてその先輩にいじめられてたりしないかな)
ショート同盟と同じく本日敗れたラブリープリンセスの部屋では、例によって空気が淀んでいた。
「あーあ、二連敗とか最悪ー」
らぶり姫はベッドに仰向けに寝転がり、足をバタバタさせる。
「私、明日の試合には出るつもり無いからね」
普段仲間と滅多に会話をしない憲子が、珍しく自分から話を振る。
「どうせ勝っても決勝トーナメントには行けないんだし、やる意味無い消化試合でしょ」
そう言いながら、結局いつものように一人離れた位置でスマホをいじり始めた。
「うちは勝ちたいし。全戦全敗で終わるとかありえないし」
「いいこと言うじゃん由奈ちゃん。珍しくらぶり姫と意見が合ったね」
らぶり姫は由奈の方を見て微笑む。
「ていうからぶり姫に考えあるんだけどー、明日他のチーム全員に下剤盛らない? 他の奴ら全員観客の前でウンコブリブリで恥かかせてさー、ついでにらぶり姫達が不戦勝しちゃうの。もしかしたら全員そのまま棄権してらぶり姫達が決勝トーナメント進出できちゃうかも」
一体どこから突っ込めばいいのかと、他の三人は顔が引き攣っていた。
「いやお前ひでーこと考えるし。てか下剤なんかどこで手に入れるつもりだし」
「そりゃあこの世界でもどっかに売ってるでしょ。魔法のかかった超強力な下剤がさぁ」
「せっかく貰った金そんなもんに使いたくねーし。やりたいならお前一人でやれし」
由奈には突き放され、憲子もガン無視を決め込む。そこでらぶり姫が目をつけたのは、やはり芽衣であった。
「天パーちゃんはらぶり姫の意見に賛成だよね。ド貧乳アイドルやお高く留まってる着物女がー、大観衆の前でウンコ漏らして恥かくとこ見たいよね」
「私は……見たくないです」
芽衣は縮こまりながらも、小声ではっきりと否定を口にした。
「ちょっと天パーちゃん、先輩に逆らう気?」
睨みを利かせて迫ると、芽衣は目に涙を浮かべだした。
「泣いてんだけど。ひっで」
由奈は芽衣に同情はせど、らぶり姫の脅迫を止めようとまではしない。憲子はやはりガン無視である。
そして芽衣は、何を思ったか部屋を飛び出した。
「あ、逃げたし」
「鍵閉めよ鍵。戻ってきても入れてあーげない」
人間界最強犯罪者決定戦では、トーナメントが進み遂に決勝戦が行われていた。
両者とも戦闘力、凶悪性共にトップクラスの殺人鬼。そしてその勝利者は――
「ブッコロオオオオオオ!!」
敵の首を頭上に掲げ、ブッコロースが雄叫びを上げる。
「これにて決着! 優勝はコロース・ブッコロースです!!」
「ブッコロオオオオオオ!!」
それは勝利の喜びか、ただ狂っているだけか、ブッコロースが再び叫ぶ。
「そしてここでスペシャルエキシビションマッチ、人間界最強犯罪者VS妖精界最強犯罪者を開催致します。それではご紹介致しましょう。元妖精騎士にして、自称神。フォアグラさんの入場です!!」
ゲートが開く。そこから闘技場に入場したのは、あの教祖フォアグラである。
フォアグラは無言で足を進め、ブッコロースと向き合った。
「それでは……試合開始!」
「ブッコロオオオオオオ!!」
試合開始を言い終えるより先に、ブッコロースが先制攻撃の超乱射。だがその弾丸は、気体化したフォアグラの身体をすり抜けていった。そしてフォアグラは霧散して消える。
戸惑うブッコロースであったが、自身の身の異変に気付いた時、既に決着はついていた。ブッコロースは内側からバラバラに引き裂かれ、見るも無惨な肉片と化したのである。
「勝者、フォアグラ選手ー!!」
カクテルが叫ぶも、フォアグラはそれに何の反応もすることなく引き返し、開いたゲートから退場していった。
「如何でしたか陛下。楽しんで頂けましたでしょうか」
「良いサプライズだなカクテルよ。フォアグラ……奴が貴様の傀儡に成り果てるとは。心がすっとするようで気分がいい」
「ご満足頂けたようで何よりです」
「ところでカクテルよ、もう一戦エキシビションマッチだ。我も一暴れしたくなったのでな。先程のフォアグラ、もう一度こちらに連れて参れ」
「……申し訳ございません陛下。フォアグラにはまだ利用価値があります故」
カクテルは平伏せんとばかりに謝る。
「ですがこのようなものは如何でしょう」
が、すぐに代案を提示。フェアリーフォンを操作すると、闘技場の中央に魔法陣が現れた。その中からは、複数の人影。
「ほう、これはこれで良しとしてやろう」
「有り難きお言葉です」
オーデンは観客席から飛び降り、血の海に降り立つ。対戦相手として送られてきた者達は、尾部津一味と同じようにただただ戸惑うのみであった。
<キャラクター紹介>
名前:
性別:女
学年:中二
身長:150
3サイズ:80-56-83(Cカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):プリン色
星座:蠍座
衣装:プリンアラモード風ドレス
武器:スプーン
魔法:巨大プリンを生成する
趣味:プリンを食べる
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