第111話 桜吹雪VSラブリープリンセス

 Aブロック二回戦第二試合。対戦カードはチーム・桜吹雪VSチーム・ラブリープリンセス。一回戦で黒星の付いたチーム同士の対戦であり、どちらにとっても負けられない試合となった。

 対戦ルールは、第一試合に続いて全員参加の勝ち抜き戦。先鋒としてステージに上がったのは、いずれも一回戦で控えに回されていた選手であった。

 桜吹雪からは、クラシックなメイド服を着てモップを手にした魔法少女、神楽ひよの。対するラブリープリンセスからは、羊のようなもこもこの衣装を着た魔法少女、白布芽衣が参戦。

「もこもこウール!」

 芽衣は大量のウールを生成して攻撃。だがひよのがモップでウールを擦ると、それは綺麗さっぱり消滅した。

「ま、魔法がかき消された!?」

「私のモップは何でも掃除できちゃう! たとえそれが魔法でも!」

 ひのよはモップを槍のようにして芽衣を狙う。芽衣は生成したウールを盾にするも、これまた容易く除去された。


「いいぞー! いけいけー!」

 小梅は大声でひよのを応援。その横で夏樹は若干苦い顔をしていた。

(小梅には悪いけど、芽衣にも頑張って欲しいんだよね)

 最終予選の一件で芽生えた友情。複雑な思いを抱きながら、夏樹は試合を観戦。モップで何度も突かれ窮地に陥る芽衣の姿を見ながら、心の中で応援した。

 一方で当の芽衣が思うのは、チームリーダーに対する恐怖感。

(ここで負けたら、また田中先輩にどやされる……)

 そう思った途端、芽衣の頭に作戦が浮かんだ。

「とどめっ!」

 一際強烈なモップの一撃を繰り出そうとしてくるひよの。だがその瞬間、ひよのは足下に仕掛けられたウールの塊に足をとられてずっこけた。

「ふぎゃっ!?」

 顔面を床に打ちつけ大きな隙を晒したひよのに、芽衣は大量のウールをぶつける。一見柔らかくて攻撃力は無さそうだが、質量で押し潰す攻撃は意外に強力。ひよのは起き上がるに起き上がれず、そのまま変身解除させられた。

「勝者、白布芽衣!」

「や、やった!」

 作戦成功に喜ぶ芽衣は控えめに小さくガッツポーズ。小梅が残念そうに声を漏らす傍ら、夏樹と花梨は顔を見合わせて微笑んだ。

「いやぁ、見事な逆転勝利でしたねカクテルさん」

「あーはいそうですね」

 前回の試合で萎えきったカクテルの、雑な返事。

「まったく、一体誰なのだよ彼に解説をやらせたのは」

 システムルームから観戦するホーレンソーも、これには苦言せざるを得なかった。


 桜吹雪のベンチでは、次に誰が出るかで相談が行われていた。

「どうすんだべか? おらが行くべか?」

「私は……もう少し後でいいかな」

 実里は出場、透子は後回しの意思を示す。そんな中、リーダーの歳三はすっと手を上げた。

「私が出るわ。神楽さん、貴方の仇は取ってくるから」

「おっ、お願いします!」

 歳三は立ち上がり、力強くもしなやかな歩き姿でステージへと足を進める。

「おーっと、チーム・桜吹雪、次鋒にはチームリーダーの悠木歳三選手が出るようです」

「今大会の勝ち抜き戦では、チームの主力を出し惜しみせず早期に出して連勝させる戦術が流行っているようですね。お陰で他の魔法少女の出番が食われているのは問題ですが……」

 愚痴を言える時だけは元気になるカクテル。クロワッサンは一度呆れ顔になったものの、気を取り直して実況を続けた。

「まずは一勝を取って優位に立ったかに見えたラブリープリンセスですが、これは一気に窮地に立たされました。この実力者をどうやって倒すか、戦術が試されます」

(うぐ……プレッシャーかかるなぁ……)

 実況に盛り立てられると、途端に芽衣は心苦しくなった。

 歳三がステージに立つだけで、会場の空気がひりつく。芽衣はますます気圧されていった。

「チーム・桜吹雪、悠木歳三! チーム・ラブリープリンセス、白布芽衣! それでは……試合開始!」

 開始と同時に響く地鳴り。やはり歳三が最初にとった行動は、武器となる花弁を供給する樹の生成。地響きと共に現れた桜の木に、満開の花が咲いた。

「いつ見ても威圧感あるな……姉ちゃんの桜」

 小梅はそんなことを呟く。花梨は何度も頷いた。最終予選ではユニコーンの森に生い茂る木々を媒介に桜並木を作り出し、その威圧感は一本桜の比ではなかった。

 樹の生成にできる隙を狙って、芽衣はもこもこウールで先制攻撃。だがすぐに飛んできた花弁がウールを包み込み、一瞬の下に消し去った。

(また消された!)

 二回連続で無効化系の魔法と対戦。しかも今度は遠隔で無効化できる上に相手の身体の動きまで封じられる、ひよののほぼ上位互換。ひよのに勝ったからといって同じ感覚で勝てるとは到底思えなかった。

 芽衣が呆気に取られている間にも、桜の木からは多数の花弁が舞い散る。芽衣が気付いた時には、既に自分は取り囲まれていた。

(あ、やられる)

 花弁の刃が一斉に襲い掛かり、あっという間にHPを削り取る。文字通りの桜吹雪が去ると、そこにはバリアに包まれた芽衣が残されていた。

「勝者、悠木歳三!」

 有無を言わせぬ瞬殺。ひよの戦で体力を削られていたとはいえ、芽衣は殆ど何もできぬままの敗北であった。

「あーあ、やっぱ天パーちゃんはダメねー」

 ベンチのらぶり姫は、そんな心無い一言。

「てかあの敵無茶苦茶強くないかし? 大したことないとか言ったの誰だし」

「は? らぶり姫の悪口? てかあいつ雑魚でしょ? メガネに負けたサルに負けた奴が強いわけないじゃない。天パーちゃんが弱すぎるだけなんだけど」

 らぶり姫は全く臆することなく言い放つ。ちなみにメガネは梓、サルは小梅のことである。

(この緊張感が全く通じないのはある意味才能ね……)

 一人チームメイトから距離を置いている憲子は、そんなことを思った。

「そんじゃ次そこの人よろしくー。あんたの即死技であんな奴ぶっ殺しちゃって」

 と、そこでらぶり姫が憲子を指名。憲子は何も言わず立ち上がり、ステージに向かった。

「チーム・桜吹雪、悠木歳三! チーム・ラブリープリンセス、景山憲子! それでは……試合開始!」

 憲子は駆け出し、必殺ロックブーテの舞を仕掛けるべく接近する。だが歳三が扇で空を扇ぐと、花弁を纏ったつむじ風が歳三の周囲を取り囲んだ。

 桜花龍によって作られた竜巻ほどの力は無いが、これでも近接タイプとの戦闘における防御力は十分。花弁に触れれば力が抜ける以上、憲子は歳三にこれ以上近づけないのだ。

 条件さえ満たせばどんな状況でも確実に変身解除させられる憲子の魔法が脅威であることは、歳三もよく理解している。だが所詮は初見殺しに過ぎないことは看破できていた。事前に智恵理が犠牲になってくれたお陰で、こうして対策を取ることができたのである。

「く……どうしたら……」

 これを突破することができずもたつく憲子。それを好機とばかりに、つむじ風から一部の花弁が分離し憲子へと付着した。

「あっ……」

 気付いた時は既に遅し。憲子は体から力が抜け、床に膝をついた。そして動けなくなった憲子へと、風に乗った桜吹雪が襲い掛かる。

 一陣の風が通り過ぎた後、残されたのはバリアに包まれた憲子であった。

「勝者、悠木歳三!」

 智恵理戦での勝利から一転、何もできずに倒された憲子。これにはらぶり姫も苛立ちを募らせていた。

「ちょっと、ふざけてんの!?」

 らぶり姫の怒りを無視して、憲子は無言でベンチに腰掛ける。

「何か言いなさいよ!」

 そう言われても憲子は無視。雰囲気の悪さに芽衣は縮こまった。

「じゃあ次は由奈ちゃんね。前の二人みたいな負け方したらぶっ殺すから」

「は? 警察呼ぶからやってみろし」

 悪態ぶつけ合いながらも、由奈はステージに上がる。

「チーム・桜吹雪、悠木歳三! チーム・ラブリープリンセス、菅由奈! それでは……試合開始!」

 歳三はまた扇でつむじ風を起こし、防壁とした。

「そんなのうちの槍でぶち抜いてやるし!」

 由奈は力一杯振りかぶって槍を投げる。だが槍は風の防壁に触れた途端、花弁が纏わり付いて消滅した。

「ちっ、厄介な魔法だし」

 槍を再生成した由奈は歳三の様子を観察。その間にも歳三は、憲子にやったように花弁をこちらに飛ばしてくる。由奈は槍をバトンのように回転させて風を起こし、向かってくる花弁を吹き飛ばした。

「槍で直接触れなければ防げるし!」

 更にそこから翼を広げて飛び立つ。槍を回しながら飛ぶ姿は、さながらヘリコプター。空中で由奈は槍を三本に増やし、両手と尻尾に持つ。

「やっぱ真上ががら空きだし!」

 まさしく台風の目の如し、上からならばつむじ風の中へ容易く侵入可能だ。意気揚々と突撃する由奈であったが、歳三は全く動じていない。

 尻尾に持った槍の先端を歳三に向け、急降下しながらの急襲。だが途端、風が止んだ。風に巻かれていた花弁は一斉に散らばる。

「だし!?」

 物量に物を言わせた弾幕の如き乱撃を、由奈は捌ききれず。気付いた時には花弁まみれで地に伏せられていた。

(か、体が動かないし……)

 歳三は口元を扇で隠しながら、目を細めて見下ろしてくる。あとは煮るなり焼くなり、どうとでもとどめを刺せる状況。歳三は巨大な花弁の塊を空中から落とし、由奈を押し潰した。

「勝者、悠木歳三!」

 怒涛の三連勝に、会場は沸き立つ。

「ここまで三戦全て圧勝。ラブリープリンセスは遂に最後の一人となりました。果たして田中選手は、悠木選手の快進撃にブレーキをかけられるのでしょうか」

 らぶり姫は不機嫌そうに頬を膨らませながらステージに上がる。

「ほんっとどいつもこいつも足手纏いでやんなっちゃう。このチームらぶり姫一人でもってるようなもんじゃない」

「チーム・桜吹雪、悠木歳三! チーム・ラブリープリンセス、田中らぶり姫! それでは……試合開始!」

 らぶり姫は早速両手を空に掲げる。

「おいでませ! あざとさの神アザトース様!」

 一回戦同様、禍々しい召喚獣が頭上に現れ咆哮を上げた。

(ああいうクソ真面目女にあざとい言動とかできるわけないし、アザトース様を乗っ取られる心配も無し! この勝負貰った!)

 ここまで歳三の圧倒的な強さを見ているにも関わらず、らぶり姫は全く危機感が無い。

「えへへー、アザトース様ぁ、あの木燃やしちゃって」

 猫撫で声でぶりっ子ポーズをとりながら、アザトース様に指示を出す。アザトース様は再び咆哮を上げ、大量の牙が生えた口から強烈なビームを発射。花弁を焼き払いながら突き進むビームは、歳三の背後に立つ桜の木に見事命中。爆音と共に桜の木は炎上、黒い炎に包まれた。

「これでもう花弁は増やせないでしょ? さっすがらぶり姫、強くてカワイイ」

 美しく咲き誇っていた桜の木は、無残な燃えカスに成り果てた。今日の試合で初めて、歳三は苦い顔をする。

「アザトース様ぁ、もっともっとオ・ネ・ガ・イ」

 体をくねくね動かし、ひたすらぶりっ子。これを恥ずかしげもなく行えるのが、らぶり姫がらぶり姫たる所以。アザトース様は残った花弁も焼き尽くさんとばかりに、広範囲に拡散するビームを発射。歳三はそれを目視で回避する。

「逃げても無駄なんだから! らぶり姫は最強の魔法少女なのよ!」

 そんな発言は無視しつつ、歳三は反撃の機会を窺っていた。

 回避を続ける傍ら、まだ燃やされていない花弁を扇によって起こした風でかき集める。そしてある程度集まったところで大きく扇ぎ、大量の花弁を派手に撒き散らした。

「無駄よ! そんなもの目晦ましにもならないわ!」

 強気で豪語するらぶり姫。アザトース様は再び拡散ビームを放ち、花弁を焼き尽くしてゆく。

「このまま本体もブチ抜いちゃってよアザトース様ぁ」

 ノリノリでアザトース様を見るらぶり姫であったが、その時異変が起こった。アザトース様は苦しそうな声を上げ、轟音と共に地上に落下したのである。

「ア、アザトース様!?」

 よくよく見れば、アザトース様の背中には桜の花弁。

「ま、まさか!」

 愕然とするらぶり姫。派手に花弁を撒き散らしたのは、相手の意識を向けさせるための囮。本命の攻撃は、背後からさりげなく付着させる花弁だったのだ。

 そしてその花弁はアザトース様だけならず、らぶり姫にも。

「あ……」

 それに気付いたらぶり姫は、顔を青くしながら地に膝をついた。そしてその目に映るのは、地響きを立てて再び聳え立つ桜の木。

「喰らいなさい、桜花龍!」

 全ての花が一斉に木から離れ、巨大な龍の姿を形成。大口を開けてアザトース様を丸呑みにした。

「うそーん!」

 龍の腹の中で消化されるかの如く、アザトース様は消滅。

 そして忘れてはならない、桜花龍は二段構えの攻撃であることを。龍は竜巻へと姿を変え、らぶり姫を空高く巻き上げた。

「ぎょえええぇぇぇーーーーっ!」

 絶叫と共に空中で変身解除させられたらぶり姫は、バリアに包まれて落下。

「勝者、悠木歳三! そしてこの試合……チーム・桜吹雪の勝利!!」

 チーム・桜吹雪の三人が揃ってベンチから立ち上がり万歳。歳三は軽く舞って見せた後ステージを降りた。

「何という強さ! 見事な四人抜き達成です!」


「やっぱ姉ちゃんは凄い……よくあんなのに勝てたな、あたし」

 歳三の圧倒的な強さを見せ付けられて、小梅は震えていた。

 そして明日、チーム・桜吹雪と対戦するチーム・ヴァンパイアロードもまた衝撃を受けていた。

「ね、ねえ梓、あの人ちょっと強すぎじゃない? 明日あんなのと戦うんだよねあたし達」

 智恵理の尋ねに、梓は答えない。

「で、でも梓なら大丈夫だよね? 勝てるよね?」

「……どうかしら」

 確かに梓は歳三に勝った小梅に勝利している。だがだからといって歳三にも勝てるとは限らない。

 昨日一日特訓に費やした梓は見ていた。歳三もまた同じく猛特訓していたことを。今の歳三は、小梅戦の時より遥かに強くなっている。

 勿論チームとして勝てるかどうかという点でも厳しい相手だが、何より梓を心配させたのが朝香の存在である。あれほどの相手と戦えば、確実に朝香は覚醒状態となるだろう。

「明日の試合は最大の正念場になるわね……」

 梓のその言葉に、智恵理は唾を飲んだ。



<キャラクター紹介>

名前:神楽かぐらひよの

性別:女

学年:中三

身長:157

3サイズ:86-62-87(Dカップ)

髪色:茶

髪色(変身後):赤紫

星座:蠍座

衣装:メイド服

武器:モップ

魔法:何でも掃除できる

趣味:掃除

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