第108話 本戦再開!
「大っっっっっっっっっっっ変長らくお待たせ致しました。これより魔法少女バトル本戦を、再開致します!!」
実況のクロワッサンの声が響く。一日延期の末に開催された、魔法少女バトル本戦二日目。今回拳凰とデスサイズが観戦に来たのは、第二会場の王都球場である。
「いやあ昨日はテロリストと死闘を繰り広げ、今日は解説のお仕事。まったく妖精騎士は激務でたまりませんよ」
解説席に座るのはカクテル。勿論彼は死闘など繰り広げてはおらず、行ったのは非戦闘員に対する一方的な惨殺である。
「幸次郎は昨日と同じ会場行ったんだっけ?」
観客席で拳凰がデスサイズに尋ねた。
「ああ、そうらしい」
「ほーん。おっ、例の痴女軍団が向こうでやるのか。幸次郎のヤツめ、自分だけいいもん見てくる気だな」
拳凰はフェアリーフォンで両会場の出場チームを確認しながら言った。
「まず本日最初の対戦カードは、こちら!」
実況の叫びと共に、巨大な魔導モニターにチーム・ヴァンパイアロードVSチーム・ショート同盟の文字が表示される。
「今回は初っ端からチビ助のチームか。相手は委員長達のチームだったな」
「ヴァンパイアロードのメンバーにも知り合いがいるんだったか?」
「ああ、あの眼鏡のとオレンジ髪の奴が学校の同級生だ」
「それはどっちを応援するか迷うんじゃないか?」
「いや? ショート同盟一択だろ。あいつら同じクラスってだけで特に俺と仲いいわけでもねーし」
両チームが整列したところで、カクテルがサイコロを投げる。出た目は四。対戦ルールは勝ち抜き戦である。
「今回は全員参加か。誰から行く?」
ショート同盟では小梅が音頭を取り、早速相談を始める。
「ボクが行っていい? 前回負けちゃったから、ここらでいいとこ見せときたいんだ」
名乗りを上げたのは夏樹である。
「うん、じゃあ任せた!」
小梅の返答に、花梨と蓮華も頷く。
「よーし、それじゃ勝ってくるからねー」
意気揚々とステージに上がる夏樹だったが、相手の姿を見て動揺。
「げげっ、あれは麗子ちゃん!?」
あちらからステージに上がるのは、チームリーダーの小鳥遊麗羅。アイドルとしての芸名は高橋麗子である。
「なんか一番強いのいきなり出てきちゃったんだけど~っ!」
早くも相手のオーラに気圧される夏樹であったが、既に交代は不可能。実況は選手の名前を読み上げ始めた。
「チーム・ヴァンパイアロード、小鳥遊麗羅!」
「みんなー、今日も応援よろしくー!」
麗羅はよく通る声で、観客席に話しかける。
「チーム・ショート同盟、二宮夏樹!」
「もうこうなったらやるしかない!」
顔を青くしていた夏樹だったが、覚悟を決めてシルクハットを掴み即座に攻撃に移れるよう構えた。
ヴァンパイアロード側のベンチでは、梓が夏樹の衣装を見て過去の試合のことを思い出していた。
「相手のマジシャン風の子、確か二次予選で戦ったことあるわ」
「強かった?」
「いいえあまり。その時は最強寺君もいたから三つ巴の形になったんだけど、出てきてすぐあの子が倒されたからあまりよく覚えていないの」
「ふーん。あの子一昨日の試合でも負けてたし、麗羅なら余裕で勝てるでしょ。むしろ弱い相手に麗羅のMP消費するくらいならあたしが出といた方がよかったんじゃない?」
「そんな自分が弱いみたいに……」
「いや、どう考えてもうちのチームで一番弱いのあたしだし」
智恵理は冗談めかして笑顔で言うものの、梓にはそれがかえって痛ましく見えた。
「それでは……試合開始!」
開始の合図と共に夏樹はシルクハットの内側を麗羅に向け、そこから大量のトランプを発射。対する麗羅は、マントを広げて蝙蝠の大群を召喚した。
初戦は弾幕同士のぶつかり合い。だが魔力の差で麗羅の蝙蝠が圧倒的有利。次々とカードを噛み砕き、夏樹本体へと迫る。
「光れ! フラッシュ!」
が、その時夏樹は同じマークのカード五枚を手に取り強い光を放った。光に当てられて蝙蝠は消滅。
「からのワンペア!」
そして空いた空間を通すように、二枚のカードを手裏剣のようにして投げた。麗羅は瞬時にジャンプして回避。マントを翼に変化させて空中に留まる。そして麗羅の右手に蝙蝠達が集まり、合体して一本の鞭になった。らぶり姫戦でも見せた伸縮自在の鞭で、空中から夏樹を狙い打つ。
だが夏樹は既に次の手を打っていた。大量のトランプの中から選びぬいた五枚のカードを、天に掲げる。五枚のカードは高速で回転しながら上昇し、竜巻へと変化。麗羅の攻撃を阻む盾となった。
「ストレートフラッシュ! ボクを甘く見ないことだね!」
夏樹は竜巻を移動させ、空中の麗羅へとそのまま攻撃に出る。麗羅は翼を広げて高速飛行し、竜巻に吸い込まれることなく横から通り抜けた。
「げげっ!」
あっさりと抜けられたことで、夏樹は顔を青くした。見た目は細くて脆そうなのに、吹き荒れる風をものともせず飛行できる強靭な翼である。
更に麗羅は鞭を振り上げて夏樹を引っ叩き、竜巻へと吹き飛ばす。
「うひぃーっ!」
悲鳴を上げながら竜巻に飲み込まれる夏樹。目を回しながら上空に巻き上げられ、落下。体を強く床に打ちつけた。奇しくも自分で出した攻撃を自分自身が喰らうのは、二次予選で拳凰にやられたことと同じであった。
まだHPが残っており変身解除はされていない夏樹は、起き上がろうとする。だが目を開けた途端、視界に入ったのは一斉にこちらに向かってくる蝙蝠の大群であった。弾丸の如く体当たりしてくる蝙蝠達に、成す術は無し。残りのHPを一気に削り取られ、変身解除させられた。
「勝者、小鳥遊麗羅!」
麗羅は優雅に着地し、また観客達に向けて手を振った。
「二宮選手も健闘しましたが、結果は小鳥遊選手の圧勝に終わりました。この試合、どう見ますカクテルさん」
「やはり前回大会のステータス引継ぎは非常に大きいと言えるでしょう。ヴァンパイアロードはこのまま四タテ狙ってるんじゃないでしょうかね」
真面目にそう解説するカクテルであったが、内心では。
(まったく冗談じゃありませんよ。このまま勝ち続けられたらまた朝香の出番が無くなってしまうではありませんか。私はこの大舞台で朝香が覚醒し大惨事が起こるのを見たいんですよ)
そんな非道極まりないことを考えていたのである。
夏樹は肩を落としてベンチに戻ってきた。
「ごめーん、また負けちゃったよー」
「ドンマイドンマイ、まだ巻き返せるよ!」
「ううー……」
小梅に励まされた夏樹は、つい小梅に抱きついた。
「次は私が行きます」
蓮華が立ち上がり、ステージへと向かう。
「宜しくお願いします」
「こちらこそ」
ステージに上がった蓮華は、麗羅の方を向いて丁寧にお辞儀。麗羅はそれに対してにこやかに返した。
「チーム・ヴァンパイアロード、小鳥遊麗羅!」
対戦ルールが勝ち抜き戦のため、麗羅は引き続きステージに立つ。
「チーム・ショート同盟、弥勒寺蓮華!」
こちらは髪の短い娘ばかりの集まったチーム・ショート同盟でもとりわけ異彩を放つ、殆ど坊主に近いベリーベリーショートの髪の美少女。彼女はお寺の娘で、衣装もミニスカ僧衣である。
「それでは……試合開始!」
蓮華は早速錫杖を床に突いて音を鳴らす。すると蓮華の背後から巨大な黄金の千手観音像が光と共に神々しく出現した。
「参ります……千手ビーム!」
千手観音の掌から、黄金の光線が照射。麗羅の操る蝙蝠達を打ち滅ぼしてゆく。
「やっぱりそうだ!」
ベンチの夏樹が声を上げた。
「あいつら光に弱いんだ! ボクのフラッシュでも簡単に消滅したし!」
「じゃあ蓮華さんはそれに気付いて……よーし、この勝負勝てるよ!」
ベンチからの声援を受けながら、蓮華は攻撃を続ける。蝙蝠を排除しながら麗羅本体への攻撃を狙うが、次から次へと現れる蝙蝠がビームを阻む。
「そろそろ私も反撃しようかな?」
麗羅は蝙蝠達に紛れて移動を開始。蓮華は移動方向に向けてビームを撃たせ近づけまいとしたが、麗羅はビームが当たる寸前に空中でブレーキをかけ回避。だがそれを読んで時間差で別の手から放たれたビームが、見事直撃した。
「やった!」
夏樹の歓喜の声。晴れた煙の中から、麗羅が姿を現した。マントを盾のようにして攻撃を防ごうとしたようだが、ビームは貫通しマントに穴が開いていた。
(魔を祓う聖なる光の魔法……私の弱点を的確に突いてきたってわけ)
一匹の蝙蝠がマントの穴に入ると、融合して穴を埋めた。蓮華は気を抜かず、次のビームを撃とうと構える。麗羅はすぐさま飛び立ち、上空へと向かった。撃たれたビームは体を回転させ、華麗に回避。そして蝙蝠達を二分させ、両サイドから攻撃に出た。
千手観音の手首を噛み砕き、ビームを撃つ手を一つ一つ封じてゆく蝙蝠達。更に鞭が伸びてきて、複数の手を一度に纏めて縛り上げ粉砕した。
「これでもうビームは撃てないでしょ?」
一旦鞭を引き戻し、再び伸ばす。蓮華は錫杖を構えて迎え撃つも、鞭は錫杖をへし折って蓮華の腹部を打つ。そしてそれでも勢いは止まらず、蓮華の身を千手観音に叩きつけた。千手観音は黄金の身を粉々に砕け散らせて消滅。蓮華も後ろの結界に背中を叩きつけられた。
「蓮華さん!」
花梨が心配の声を上げたのも束の間、蓮華は折れた錫杖を握りながらも結界を背に立っていた。
「へぇ、耐えるんだ」
一日目のらぶり姫戦同様に鞭の一撃で召喚獣ごと相手を打ち倒すつもりでいたが、蓮華はまだ変身解除されていない。
麗羅は再び鞭を引き戻し、とどめの一撃に向けて構える。だがそこで蓮華を庇うように、千手観音が再び召喚された。
「私の力はまだ残っています!」
強力な召喚獣である千手観音は召喚するだけで多くのMPを消費するが、蓮華の魔力ならば二度の召喚にも十分耐えられる。
鞭が振り下ろされるより先に千手観音のビームが発射。麗羅は攻撃の構えを解き、回避に集中した。
(あのビームは曲がれない。それに手は沢山あるけど一度に出せるビームの数は限られてるみたい。慣れれば避けるのは難しくない)
だが麗羅が再び鞭を振り上げた時、一本のビームが鞭を打ち抜いた。鞭は消滅し、衝撃で麗羅はよろめく。
(腕の中に隠した腕でビームを……素直に見えて意外と策も使うじゃん)
相手の必殺武器を除去したところで、蓮華はビームを撃つのを止めた。麗羅は首を傾げ様子を見る。蓮華は麗羅をまっすぐ見据えた。
(実力は彼女の方が一枚上手です。それでもチームの勝利のためには、なんとしても勝たなくては……)
蓮華は目を閉じ合掌。すると千手観音の放つ黄金の光が、より輝きを増した。
(何か仕掛けてくる!)
麗羅は瞬時に察した。蓮華の次の一手を封じようと蝙蝠を一斉に飛ばす。だが千手観音の放つ光は、それ自体が破邪の力を持つ。蝙蝠達は近づいただけで消滅し蓮華には届かなかった。
(く……だったら!)
相手は大技で来ると踏んだ麗羅。今度は蝙蝠を自分の周囲に集め防御に転じた。
暫く千手観音を発光させ続けたところで、蓮華は開眼。
「一斉砲撃・色即是空!」
高らかに技名を叫び、千手観音の全ての手から一斉にビームを発射する。一度に出せるビームの数は限られていると踏んでいた麗羅の度肝を抜く、起死回生の必殺技。
(今の残りMPでこの技を使えば、確実にMP切れで変身解除になります。それでも……たとえ引き分けになろうと彼女さえ倒せれば……)
眩い光が王都球場を包み込み、無数のビームが一斉に麗羅を撃ち抜いた。それと同時に、蓮華の変身は解ける。
誰もが注目する最中、煙が晴れると――そこに麗羅の姿は無かった。代わりに空中に浮かんでいたのは、漆黒の棺桶である。
「あ、あれは一体……」
バリアの中で蓮華が困惑する中、棺桶の蓋が少しずつ開く。それはまるで吸血鬼が眠りから目覚めるように、棺桶の中から麗羅が姿を現した。
「これが私の奥の手よ」
麗羅が完全に外に出ると、棺桶は崩れ落ちて消滅した。
召喚獣の蝙蝠を合体させて様々な形に変える魔法の防御型応用形態。それは蓮華の必殺技をも完全に防ぐ、鉄壁のシェルターである。
「勝者、小鳥遊麗羅!」
クロワッサンが勝者の名を宣言。観客席から大歓声が巻き起こった。
「相性の不利を覆し勝ちました小鳥遊選手。弥勒寺選手も善戦したものの一歩及ばず、無念のMP切れです」
「いやぁ、実に残念ですねぇ。彼女なら勝てるかと思っていたのですが」
カクテルは本音をポロリ。
「ごめんなさい……勝てませんでした」
蓮華はチームメイトに頭を下げて謝った。
「気にしないで。蓮華さんの戦い、凄くかっこよかったよ」
「そうそう。まだ二人残ってるんだから、勝負は最後までわからないよ!」
「ボクより全然いい勝負してたんだから、もっと自信持って」
皆に励まされた蓮華は、笑顔を見せてベンチに腰掛けた。
「次はどうする? あたしが行こうか?」
「私が行きたい。あの人に勝つための考えがあるの」
花梨は小梅の目を見て言う。
「よし、じゃあ任せた!」
「花梨さん、お願いします」
「相手は二連戦してるんだ。ボク達が弱らせた分有利だよ!」
三人からのエールに、花梨は真剣な表情で頷いた。
「チーム・ヴァンパイアロード、小鳥遊麗羅!」
花梨がステージに上がったところで、本日三度目となる麗羅の名前コール。
「チーム・ショート同盟、白藤花梨!」
「最終予選ではありがとうございました。宜しくお願いします」
蓮華に倣って、花梨もお辞儀。
「今回は対戦相手だね。こちらこそよろしく」
麗羅は楽しげに笑顔で手を振った。
<キャラクター紹介>
名前:トンコツ・エンケラドゥス
性別:男
年齢:享年40
身長:167
髪色:茶
星座:牡羊座
趣味:娘の虐待
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます