第73話 鉄壁スカートを死守せよ

 魔法少女バトル本戦ルールの一つである、二対二のタッグマッチ。一対一で戦う他のルールとは大きく異なる対戦形式である。そして一度負けても他の仲間に託すことはできず、一回の試合で決着がつく。それ故に選手選びは最も慎重にやらねばならないルールなのである。

 織江の卑劣な作戦により、圧倒的不利な状況で試合を始めさせられたチーム・格闘少女。その状況を打破すべく、真っ先に動き出したのは玲であった。

 織江が右肘に貼り付けられた玲の紐パンに手を伸ばす前に、指先から小さな火の玉を発射。見事それを紐パンに命中させた。

「あちゃーっ!」

 涙目になりながら慌ててパンツから手を離す織江。焼けたパンツは灰となり崩れ落ちる。手をパンツに触れさせなければ、自分が操られることはない。これが玲の作戦だった。

 手にはめ込んだ巨大なドリルを回転させて突っ込んでくる若葉を躱しつつ、玲は再び指先に火を灯す。今度の狙いは左太股に貼られたシンプルな白無地のパンツ。鉄砲の如くまっすぐ狙い撃ち、それも触れられぬよう焼いた。

「よし、これでもうあいつの魔法は俺達に通じない! まずはドリルの方を倒すぞ!」

 玲がそう言って振り返った瞬間、突如寿々菜の拳が玲の頬を掠めた。間一髪で躱した玲だったが、動揺は隠せない。

「す、すみません玲さん……」

 寿々菜のブルマは足下まで下ろされ、シンプルな白無地のパンツが露になっている。玲が織江の方を見ると、先程焼いたパンツは二枚ともちゃんと焼失している。しかし織江は左太股ではなく左胸に触れており、その頭には白無地のパンツを被っていた。

「残念だったね。それは別の白パンツだよ」

 玲は最初に目に入った白無地を寿々菜のパンツだと思って焼き、他の白無地に目が行かなかった。ごくありふれた白無地のパンツ。それ故に似たデザインのパンツを織江は複数コピーしていたのである。

 先手を取って敵の魔法を完璧に封じたつもりでいた玲は、逆に出鼻を挫かれた形となった。前からは若葉のドリルが、後ろからは寿々菜の拳が襲い来る。玲は身体能力に物を言わせたジャンプで避けると、操られるがままドリルに真っ直ぐ突っ込んでいく寿々菜を羽交い絞めにしてドリルを避けさせた。

「ちっ、世話の焼ける」

 寿々菜の肘が顔面に迫っていたため、玲は寿々菜を投げ飛ばす。

「悪い寿々菜」

「い、いえ……」

 だが寿々菜が操られえている状態がこれで解けるわけではない。一刻も早くこの三対一と言える状況をどうにかしなければならない。玲の表情には焦りが見えていた。

 魔法を解く方法はわかっている。織江が頭に被っている寿々菜のパンツを燃やせばいいのだ。だが若葉と寿々菜の二人を相手にしつつ織江を攻撃するのは容易いことではない。どうにか隙を見ては最初と同じように指から放つ火の玉で狙い撃つも、次の瞬間織江と寿々菜の位置が入れ替わった。

「何度も同じ手が通用すると思わないことだね!」

 玲の背後で織江は鼻高々に言う。玲の意識が織江の方に向いたところで、前方の寿々菜が火の玉を受けながらも構わず殴りかかってきた。

「許せよ寿々菜!」

 玲はずり下ろされたブルマで動きが不自由になっている寿々菜の足を払って転ばせる。横から力任せに突っ込んできた若葉には、ドリルに触れぬようしなやかに立ち回り本体だけを狙ってハイキック。

 若葉はパワーこそあるが動きは単調で、何も考えず突っ込んでくる猪突猛進タイプ。玲の実力ならば見切るのは容易いことだ。

 顔面を蹴られ怯んだ若葉に更なる追撃。炎を纏った拳で鋼のストレート。吹っ飛んだ若葉は織江の方へと飛んでゆく。

「ちょ、こっち来んなー!」

 焦って避けたところで、頭に被ったパンツ目掛けて飛んでくる火の玉。若葉を避けることに集中していた織江はそちらに意識が行かず、見事頭に火がついた。

「ぎょえっ!? 火! 火ーっ!!!」

 両腕をばたばたさせて慌てふためく織江。コピーされた寿々菜のパンツもようやく焼け落ち、寿々菜は自由の身となる。玲が追撃しようと織江に接近する間に、寿々菜は急いでブルマを穿き体勢を立て直す。起き上がった若葉は、隙を晒す寿々菜へと狙いを定めた。

「よし、まずは弱そうなお前から倒してやる!」

 一方織江は、玲から逃げ回りつつ魔法を発動させる機会を窺う。だが手を叩いた瞬間に火の玉を当てられて潰されるため、なかなか最後まで手順を取れない。せっかく燃やしたパンツを再びコピーされては元も子もないので、玲は玲で必死である。

「ドリルデストロイヤー!」

 回転するドリルが金切り音を立てる。突進してくる若葉に対し、寿々菜は真正面から迎え撃つ格好。どっしり構え、タイミングを見極めて拳を突き出す。

「獅子頭聖拳!」

 最終予選で見せたものより更に大きなライオン顔の鬼瓦が、寿々菜の拳から発射された。必殺技同士のぶつかり合い。鬼瓦はドリルの先端に噛み付くと、回転するドリルを強靭な顎で塞き止め噛み砕いた。更にドリルによって削られた瓦の破片が一斉に牙を向き、若葉へと飛来。

(やられる!?)

 と、その時。若葉のスパッツがずり落ち青い下着が露となる。そして若葉は横へ飛び退き、瓦の破片を躱した。

「ふー、間一髪」

 そう言ったのは、若葉のパンツを被った織江である。得意の逃げ足で玲と追いかけっこをしつつ、自身の魔法で若葉の戦闘をサポート。チームメイトのパンツは既に全てコピー済なのである。

「いいからさっさと魔法を解けー!」

「魔法を解いたらスパッツ穿く前にドリル生成! いいね!」

 織江が魔法を解くと、若葉はすぐさま言われた通りにドリルを生成する。だがその途端、再び織江が体を乗っ取った。

「ちょ、何すんだよ!」

「スパッツ穿いてる時に隙ができる。それに君に猪突猛進されるくらいなら、このまま私が操ってた方が都合がいい」

 攻撃できるようドリルだけ出させて、後は完全に操り人形状態。パンツ丸出しの若葉は、ドリルを回転させ玲へと走り出す。

「せ、せめてパンツは隠させてーっ!」

 恥じらいの叫びを上げながら向かってくる若葉に対し、玲は織江を追うのを一旦止めて迎え撃つ。

「今だ!」

 玲の意識が若葉に向いたところで、織江はここぞとばかりに「ぱん、つー、まる、みえ」のポーズを行う。振り返る玲。寿々菜の瓦も間に合わない。大観衆の中、無常にも捲れ上がる玲のスカート。

 勝った、と織江は思った。鍛え上げられた玲の肉体を操ることができれば、一気に戦況はこちらに傾く。玲がパンツを公衆の面前に晒すことに、それとはまた別の意味があるとは露知らず。

 だがその時、若葉のドリルが砕け散ると同時に突如玲の下半身が激しく燃え上がった。下半身全体が炎に覆い隠されたその姿は、さながら炎の精である。

「な、なぬーっ!? それじゃパンツが見えないじゃん!」

「どうやら俺の読みは正解だったようだな」

 玲のパンツは織江の体のどこにもコピーされていない。たとえスカートを捲ってもパンツを視認しない限りコピーすることは叶わないのだ。

「ずっと燃え続けるのは消費が激しいからな。速攻で決めさせてもらう」

 織江に操られた状態のままの若葉に、炎のキックを連打。一回ジャンプしてから着地するまでの間に、計六回の蹴り。これには若葉もたまらず吹っ飛び、変身解除させられた。

「まずは一人」

 続いて織江の方に目を向けるが、そこには得意気な顔で再びコピーした寿々菜のパンツを頭に被る姿が。

「残念でしたー。これで私の勝ちー!」

「関係ない!」

 構わず飛び膝蹴りを放つ玲。それに対して織江は慌てず騒がず、冷静に忍の印を結ぶ。

「忍法・空蝉の術!」

 一瞬で織江とパンツ丸出しの寿々菜が入れ替わり、玲の蹴りは寿々菜に向く。だが、当たる寸前に玲の変身は解けバリアに包まれた。

「生憎、ここでMP切れだ」

 玲がそう言うか言わぬかの間に、織江の変身も解けていた。何が起こったかわからずにいた織江ははっとする。寿々菜と位置を入れ替えた途端、自分の周囲に浮かんでいた瓦の破片が一斉に突き刺さってきたのだ。

「この手で来ることは読めていました。だから私は、瓦の破片に自分を攻撃させたんです」

「おい寿々菜、パンツ丸出しで言っても格好つかないぞ」

 玲から指摘され、寿々菜は赤くなりながら慌ててブルマを穿く。

「変身した状態でステージに立っているのは美空選手ただ一人。つまりは、勝者、美空寿々菜&真田玲!」

 クロワッサンが叫ぶ。観客席から一斉に歓声が上がった。会場の盛り上がりと裏腹に、解説席に座るカクテルはどこか不満げな様子だった。

(真田玲の秘密が公衆に晒されることはありませんでしたか。実に残念です。マスコミや民衆がどんな反応をするか、とても楽しみでしたのに)

「カクテルさん、今の試合、如何でしたか?」

「ええ、とても面白い試合でした」

 クロワッサンから話題を振られた途端に、営業スマイルで当たり障りの無いコメント。玲の一件が未然に防がれた時点で、既にこの試合への興味は失せていた。

 ステージ上では、勝った寿々菜と玲がハイタッチ。負けた織江がバリアの中で落胆の声を上げた。

「ひーん、そんなぁー」



 試合を終えて、格闘少女の四人は魔法少女用の観戦席につく。少し離れた席では、織江が若葉から頬をつねられていた。

「今回はどうにか凌げましたね……」

「ああ、だがこれでもうあいつと当たることはなくなった。ここからは何も気にせず戦っていけるだろう」

「何の話デスか?」

 寿々菜と玲の会話にレベッカが割り込む。

「……パンツの話だよ、パンツの」

「玲サンはともかく、寿々菜サンは二回も丸出しにさせられてたデスよ?」

「お、思い出させないでください!」

 思い出しただけで寿々菜は顔から火が出た。

「でも寿々菜さんの衣装ブルマデスし、パンツ丸出しでも普段とそんなに変わんないのでハ?」

 レベッカの発言に、香澄が黙って頷く。

「ビキニ姿の奴がそれを言うか……」

 玲は冷静にツッコんだ。

「恥ずかしいものは恥ずかしいんです!」

「まあいいじゃないか。それより次の試合が始まるぞ」

 玲に言われて、三人はステージの方を向く。

 Cブロック一回戦第二試合、チーム・たまごVSチーム・にゃんこ大好きの対戦である。

「どちらのチームも明日と明後日に対戦する相手ですからね。しっかり見ておきましょう」

 寿々菜の眼鏡が光る。

 対戦ルールは勝ち抜き戦。四人全員が参加するルールである。

「少なくとも片方は四人全員を見られるルールか。今後対戦する側としては有難いな」

 最初に戦う魔法少女が、それぞれステージに上がる。

「チーム・たまご、神田川かんだがわ茉莉まつり

 バドミントンのユニフォーム風の衣装にラケットを持った、わかりやすい格好の魔法少女。

「チーム・にゃんこ大好き、加門かもんまい!」

 対するは、ギターを手にしたヴィジュアル系ミュージシャン風の魔法少女。こちらもどういう戦い方をするかわかりやすい格好である。

「それでは、試合開始!」

 米がギターを弾き鳴らすと、ギターの一部が分離してビット状となり空中に浮かぶ。そしてギターの音色でそれを操作し、茉莉をビームで狙う。

 一方の茉莉は、例によってシャトルを生成してそれをサーブ。シャトルは的確なコントロールでミサイルの如く飛んでいき、ビットを貫き粉砕した。続けて、米本体にも打つ。米は演奏しながら避けるも、嵐の如きサーブの連打がそれを許さない。遂にはギターを破壊され、再生成している間に更なる追撃を喰らう。そして最後は空高く跳ね返ったシャトルをスマッシュで叩きつけとどめ。ほぼ完封と言える勝利であった。



 Cブロックで第二試合が行われていた頃、Aブロックでもまた第二試合が始まろうとしていた。

 ステージに並び立つ二組は、チーム・桜吹雪とチーム・ショート同盟。

 桜吹雪のメンバーは、桜模様の和服を着たチームリーダー結城歳三。麦わら帽子に百姓スタイルの農業系魔法少女、山野実里。メイド服を着てモップを手にした神楽かぐらひよの。黄緑色の全身タイツを着た駿河するが透子とうこ

 対するショート同盟のメンバーは、歳三の妹でスポーティなF1風衣装の悠木小梅。ご存知ミニスカナースの白藤花梨。魔法僧侶の弥勒寺蓮華。マジシャン風の二宮夏樹。

 チームリーダー同士向かい合う位置に立ち、悠木姉妹が見つめ合う。

(まさかいきなり姉ちゃんのチームと当たることになるとはな)

 この状況に胸踊り笑みがこぼれる小梅とは対照的に、歳三は無表情で見ていた。



<キャラクター紹介>

名前:真田さなだあきら

性別:両性(自認は女)

学年:中二

身長:159

3サイズ:82-56-83(Cカップ)

髪色:黒

髪色(変身後):緑

星座:乙女座

衣装:チャイナドレス

武器:無し

魔法:炎を操る

趣味:格闘技観戦

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