第72話 玲の秘密

 花梨達の試合が行われているのと同刻、もう一つの会場でも試合が始まっていた。Cブロック一回戦第一試合、チーム・格闘少女VSチーム・ハイパードリルである。

 魔法少女バトル本戦の第二会場は、王都南部にある王都球場。人間界から輸入したスポーツである野球が普段は行われているこの場所で、今日は魔法少女同士がぶつかり合う。

 こちらの実況は、タコワサと同じオリンポステレビアナウンサーのクロワッサン。そして解説は、妖精騎士団のカクテルが務めていた。

 サイコロが示した試合のルールは、二対二。両チームはそれぞれに出場するタッグチームを選び出すことになった。

 空手の美空寿々菜、カンフーの真田玲、相撲の水橋香澄、プロレスのレベッカ・シューティングスター。それぞれ違ったタイプの格闘家が揃ったチーム・格闘少女。

 対するチーム・ハイパードリルのメンバーは、二次予選で拳凰と戦ったドリル使いの鉄若葉。パンツを愛する変態、藍上織江。ロボットアニメのパイロットスーツのようなぴっちりした衣装を着た、しま千里ちさと。大剣を持ち中世風の皮鎧を着た藤田ふじたつつじ。

 今回は参加人数が最も少ないルールということもあり、誰が出るか悩んでいる様子であった。

「とりあえず私が出るなら紐パンチャイナちゃんかブルマ眼鏡ちゃんの時だね。この二人は私の魔法が効くの確認済だから。逆に他の二人は効かないの確認済。星条旗ビキニちゃんは見ての通り素肌の上から水着着てるやつだし、ふんどしスパッツちゃんも多分パンツ無しで素肌の上にスパッツ穿いてるはず」

 織江は今後の対戦に備え、変身して練習する魔法少女を見つけては魔法をかけてパンツをコピーしていた。一度ミルフィーユから怒られたにも関わらず懲りない女である。だがこれは趣味でやっていたその時と違い戦略としてやっていることだからと担当のソーセージには伝えており、それで納得されている。

 チーム・格闘少女の四人に関しては、今日の早朝にホテル内のスポーツセンターで四人揃って練習していた時に陰からこっそり魔法をかけたものである。

 そして勿論、格闘少女の面々もそれに気付かなかったわけではない。突然玲のスカートが捲れ上がり寿々菜のブルマが下ろされる状況。これは魔法少女の攻撃だと考えるのが自然である。玲がアプリでそれができる魔法少女を調べ、織江の仕業だと割り出していた。

「まさか初戦から例の変態と当たることになるとはな。とりあえずあいつが出るなら俺は出ないぞ。あいつの魔法が効かなかったベッキーと香澄に任せるべきだろう。逆にあいつが出ないならチーム内上位二人である俺と寿々菜が出るべきだ。一回しか戦わないルールである以上、確実に勝たなきゃならないからな」

「誰が来てもミーのプロレスで粉砕するだけデース!」

 玲が相手側のベンチに目を向けると、どうやら相手の出場者が決まったようだ。鉄若葉と藤田つつじ。懸念していた織江の出場は無い。

「よし、これで決まりだな。行くぞ寿々菜」

「は、はい」

「オー、ミーの出番じゃないデスかー」

 玲に言われて寿々菜は立ち上がり、共にステージに上がる。

「チーム・格闘少女、真田玲&美空寿々菜! チーム・ハイパードリル、鉄若葉&藤田……」

 カクテルが選手名を読み上げる中、ふと玲がつつじの異変に気付いた。

「おい、あんたそのスカート……」

 つつじの穿いているミニスカートが、風も無いのに不自然に捲れ上がりライムグリーンの下着が丸見えになっている。

 次の瞬間、つつじの姿がドロンと消え、そこに織江が立っていた。

「忍法・空蝉の術」

 一同は唖然。中でも何も知らず大観衆の前でパンツ晒された挙句勝手にベンチに下げられたつつじは開いた口が塞がらなかった。

「な、何と藤田つつじ選手が藍上織江選手に入れ替わったー!? これは有りなんですかカクテルさん!?」

「面白いから有りにしときましょう」

 悪いことでも思いついたかのような笑顔で、カクテルが答える。

「ちっ、だったらこっちも……」

「あ、それはできません」

 玲が言おうとしたところで、カクテルが遮る。

「ここで交代を認めたらいたちごっこになるだけですからね。改めて、チーム・ハイパードリル、鉄若葉&藍上織江!」

 結局カクテルに言いくるめられる形で格闘少女側の交代は却下。このメンバーで試合を始めることとなってしまった。

「ちっ、不味いな。よりにもよってあいつと戦う破目になっちまうとは」

 苦い顔をする玲の隣で、寿々菜は不安で胸が苦しくなっていた。

(どうしよう、もしもこれで玲さんの秘密がバレたりしたら……)



 それは今日の早朝、ホテルのスポーツセンターでチーム揃って最終調整のために練習した後のことである。

「開会式まであと一時間半……そろそろ切り上げようか」

「皆サーン、一緒にシャワー浴びるデース!」

 レベッカは汗を流そうとスポーツセンター内のシャワールームに皆を誘っていた。

「はい、そうしましょうか」

 寿々菜が答えると、続けて香澄も頷く。

「悪いが俺はパスだ。ここのシャワールームじゃなく部屋風呂を使わせてもらう」

 一人断る玲に、三人が振り返った。

「玲サンどうしたデスか? ハダカ見られるのヤデスか?」

 レベッカの質問を無視して、玲は汗をかいたままスポーツセンターを出て行く。

 香澄とレベッカが不思議そうに見る中、寿々菜は一人心当たりがあった。それは今から一時間ほど前、突然何者かの魔法攻撃により寿々菜のブルマが下ろされた時のことだ。たまたま自分と向かい合う位置にいた玲も、チャイナドレスのスカートが捲れてパンツを丸出しにされていた。玲のパンツは紫色で結構きわどい感じの紐パンである。そしてどういうわけか、股間が膨らんでいるように見えたのだ。

 ケルベルス山で幸次郎と話した際、彼が姉の代理として魔法少女バトルに出場していた話を聞いた。前例が一つでもある以上、玲が男である可能性は無いとは言い切れない。服の上から見た感じ胸は寿々菜より大きく見えるが、それも詰め物を入れている可能性はある。一人称は俺だし、顔立ちも中性的。実は美少女ではなく美少年だと言われても納得の行く容姿だ。

(というか私、玲さんの前で着替えたりしちゃってたんですけど!?)

 一度男かもと意識しだすと、途端に今まで自分がやってきた無警戒な言動が恥ずかしく思えてきた。

 真相を確かめたいと思った寿々菜は、素早くシャワーを済ませた後、まだシャワー中の香澄とレベッカを残してすぐに部屋へと戻ったのである。


 浴室からは、まだシャワーの音が聞こえている。無用心にも脱衣所の鍵は開いていた。シャワーの音が止まる。浴室の扉の開く音。寿々菜はそれを聞くと共に脱衣所の扉を開けた。

「!?」

 脱衣所で鉢合わせる二人。玲は素っ裸のまま目を丸くして口をあんぐり開けていた。よく鍛え上げられ引き締まった肉体だ。寿々菜が視線を股間に向けると――案の定、付いていた。

「お、おとっ……」

 寿々菜がそう言いそうになったところで、玲は手で寿々菜の口を塞ぎ、扉を閉め鍵をかけた。

「静かに。余計なことは言うな」

 玲は寿々菜の口から手を離すと。後ろの扉に掌をつけて詰め寄る体勢をとった。

「スカートが捲れた時に股間膨らんでたのに気付いて確かめに来た……違うか?」

「……そうです、ごめんなさい」

 素直に謝る寿々菜。しかし素っ裸の美少年から壁ドンで迫られ、思わずその胸は高鳴った。

「それと、言っておくが俺は男じゃない。胸を見ろ胸を」

 寿々菜の視線が玲の胸に向く。ちゃんと膨らんでおり、間違いなくこれは玲自身の胸であることが見て取れる。サイズはCカップ程度。

「え、ええ……? じゃあその、玲さんの性別は……?」

 玲は寿々菜から離れ、バスタオルを手に取り身体を拭き始めた。

「女だよ。端的に言うならば先天的な病気でちんこの付いた女」

 さも何でもないことのように、表情一つ変えずさらりと言う。

「前からじゃわからんだろうが金玉捲れば女のもちゃんと付いてるぞ。見るか?」

「い、いえ、遠慮しておきます……」

 改めて玲の身体を見れば、筋肉質ではあるものの確かに女らしい体つきだ。だからこそ股間にある男のシンボルが尚更浮いている。

「四人部屋で一緒に生活する以上いつかはバレるかもしれないとは思っていたが、昨日の今日でもう見られちまうとはな。大してでかいちんこでもないから、服の上からなら目立つこともないと油断していた」

 一度見られてしまった以上は割り切っているのか、全く動じぬ様子で話す玲。対して寿々菜は、チラチラと眼を動かし玲の股間を見たり目を逸らしたりを繰り返していた。

「あ、その……すみません、服、着て頂けないでしょうか……目のやり場に困るといいますか……」

「ああ、すまん」

 寿々菜は籠に入れていた自分の下着を手に取る。黒のボクサーブリーフである。

「パンツは男物なんですね……」

「でないと収まりが悪いからな」

 パンツを穿いたらついでにそれと色が不揃いなブラジャーも付けて、下着姿のまま後ろの壁にもたれかかる。

「なんかその……大変ですね」

「ああ、色々とな。この大会には、ちんこ取って普通の女になるために出場したんだ」

「そうなんですか……そういえば玲さんは自分のこと俺って言ってますけど」

「ああ、俺は十歳くらいまで自分を男だと思ってたからな。俺っていうのに慣れきっちまって戻せないだけだ」

「えっ、それってどういう……詳しく教えて頂けませんか?」

 寿々菜が興味を持って訊いてきたので、玲は濡れた頭を手で掻いた。

「そうだな、俺の秘密を知られた以上、色々話して知っておいて貰った方が都合がいいか」

 玲は話し始める。己の過去を。



 物心付いた頃から、玲は自分の性別を男だと認識していた。目立つ所に男性器が付いているのだから、幼心にそう思うのは当然のことである。女性器の存在にも気付いていたが特に疑問に思うこともなく、むしろ男には皆付いているものだとばかり思っていた。

 だが不思議と女子の服を着てみたいと思うことがあったり、男子に対して恋愛感情のような意識を持つことがあった。そしてそんな思いを払拭したいが故に、玲は過剰に男らしく振舞うようになった。

 たまたまテレビでやっていた格闘技中継を見て格闘技ができるのが男らしいと思い、とりあえず格闘技なら何でも良かったので近所でやっていた中国拳法の教室に通い始めた。体を鍛えることは悩みを忘れさせる効果もあった。

 真実を知ったのは、思春期に差し掛かった頃だった。胸が膨らみ出し、月経が始まる。自分の体は女でもあり、そして心は女である。その時になってようやく、そのことを理解したのだ。

 意を決して両親に話すと、あきらという名前はどちらの性として生きていくことを選んでも通用するように名付けられたことを聞かされた。女としての新たな人生の始まりであった。


「まあ、そういうわけで何かと不便な体なんだ」

「それは……大変ですね」

 恥ずかしげもなく素っ裸で人と話したり、卑猥な言葉を平気で口に出したり、見られたら困るにも関わらず鍵を開けたまま風呂に入ったり、玲の酷くがさつな所は男子として育ったが故なのだと、寿々菜は納得した。

「そういえば、バトル中に、その、見られてしまったりとかは……」

 スカート状の衣装を着た魔法少女にとってパンチラは付き物である。戦闘スタイルやスカートの丈にもよるが、激しく動き回れば必然的に見えてしまうことも増える。寿々菜も今まで何人の魔法少女のパンツを見てしまったかいざ知らず。

 寿々菜の衣装は下半身の露出度がパンツとさして変わらないブルマでありこれはこれで恥ずかしく思っているのだが、パンツが見えることがないという点に関してはよかったと思っていた。

「ああ、その点に関しては問題無い」

 玲はスマートフォンを手に取り魔法少女バトルアプリを立ち上げた。

「マジカルチェンジ」

 その場で変身し、魔法少女の衣装を身に纏う。玲の衣装は赤いチャイナドレス。スカートの丈はロングだが両側に深いスリットがあり、そこから脚を出せる構造になっている。玲はハイキックを多用することもあり、パンツを、ひいては股間の膨らみを他者に見られてしまうことも多いように思えた。

 変身するや否や、玲は突然寿々菜の顔面目掛けてハイキックを放った。寿々菜は反射的に空手の防御姿勢。だが爪先は寿々菜の腕に触れることなく寸止め。足を上げたままピタリと静止した寿々菜のスカートの前垂れ部分は、まるでパンツを覆い隠すように不自然な形で止まっていた。

「と、まあこういう感じだ。俺がちんこ付いてることが他人に知られないよう衣装が配慮してくれてるみたいでな、こうやって自動的にパンツを隠してくれる」

「でもさっきは……」

「ああ、それに関してだが」

 玲はアプリで一人の魔法少女のデータを映し出す。

「藍上織江。今朝のは多分こいつの仕業だ。大方、今後の対戦に備えて他の魔法少女のパンツを集めてるんだろうよ。お前、魔法少女バトルにおいて状態異常耐性は本人の魔力の高さに比例することは知ってるな?」

「はい」

「はっきし言って、俺の魔力は高くない。こいつの相手にパンツを露出させる魔法は、本来絶対にパンツを見せない俺のスカートの効果を貫通しちまったんだ。おまけにお前がたまたま目の前にいたせいで、お前に俺のパンツとちんこを晒すことになっちまった」

 ここまでに玲は一体何回ちんこと言っただろうかと、寿々菜はつい不埒なことを考えてしまった。

「もし今後俺がこいつと対戦することになったとしたら、大観衆の前でちんこ付いてることをバラされかもしれないな。そうならないことを祈ってるが……」

 寿々菜はアプリを操作して変身を解除する。スマートフォンの画面に表示された時計が目に入った。

「ちっ、長話になっちまったな。早く準備しないと開会式に遅れるぞ」

「あ、そうですね」

 玲はさっと服を着て、脱衣所を出ようとする。

「あの」

 が、寿々菜はそれを引き止めた。

「どうした?」

「その……こういうことを言うのどうかとは思うのですが……気を悪くされたらごめんなさい」

「何だ、俺を怒らせるようなことでも言う気か?」

「玲さんのその体、素敵だなって思っちゃいました。男でも女でもあるだなんて、まるで物語の中の人みたいで……ごめんなさい、玲さんが本気で悩んでいることに対して、こんな風に思っちゃって」

 寿々菜がそう言うと、玲は少し俯き顎に指を当て考え始めた。

「……へぇ、そういう考えもあるのか。目から鱗だよ。考えたこともなかった」

「そ、そうですか」

 そう言った所で、扉の向こうからレベッカの声。

「アレー? 寿々菜サンいないデスかー?」

「あ、私はここです」

 寿々菜は脱衣所から扉越しに返事をする。

「俺の体のこと、あいつらには言うなよ。香澄はガキだし、ベッキーは空気読めなさそうだからな」

「は、はい……」

「二人で何話してたデスかー?」

「まあ、色々とな」

 玲は後ろの寿々菜を見る。

「ありがとな寿々菜。お陰で少し気が楽になった」

 後ろ目で微笑むその姿に、寿々菜の胸が再び高鳴る。相手が女の子だとわかっていても、不思議とときめきを感じてしまったのだ。



 そして開会式を終え現在。織江と当たらないことを祈った結果、初戦から織江との対決。玲にとっては非常に厳しい状況となってしまった。

「そういえば担当のミルフィーユから聞いたことがある。妖精騎士団一の変人、水瓶座アクエリアスのカクテル。あいつが今回の審判になっちまったのが不幸だったな」

 まるでこの状況を見越しているかの如く不気味に笑うカクテルを、玲は目を細めて見る。

「どうするんですか、玲さん」

「あいつの魔法の発動条件はわかってるんだ。俺に作戦がある」

 二人が織江の方を見て身構える中、カクテルが手を上げる。

「それでは、試合開始!」



<キャラクター紹介>

名前:田中たなからぶりひめ

性別:女

学年:中二

身長:148

3サイズ:76-55-72(Bカップ)

髪色:黒

髪色(変身後):ピンク

星座:魚座

衣装:童話のお姫様風ドレス

武器:扇

魔法:あざとさの神アザトース様を召喚する

趣味:ぬいぐるみ集め

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