第四章 本戦編Ⅰ

第70話 本戦開幕

 本戦開始日の朝。王都内の見張り台では二人の兵士が街を見下ろしていた。

「はぁー、せっかく今日は家族で本戦見に行く予定だったのに、こんな時に非番出勤だなんてよー……」

 一人の兵士が、愚痴を漏らす。

「勘弁してくれよマジで。高倍率のチケットせっかく当たったってのによー……」

 何度も繰り返し溜息をつき、腰を下ろして壁にもたれかかる。

「まあ、帰ってから録画見ようぜ」

「お前は元々今日出勤だったからそんな余裕でいられるんだろ。生とテレビじゃ全然違うんだよ。あのクソテロリストども……どこまで迷惑な奴らだよ」

 とかやっていると、競技場の方で花火が上がった。

「お、開会式始まったみたいだ」

「あーあ、俺も本当ならあそこにいたはずなんだけどなぁ……」



 王立競技場は、かつてゾディア王国時代に魔法少女バトルのために建てられたコロシアムを原型とする公共施設である。外観こそ建設当時のものを保っているが内部構造は度々改修が行われ、現在は魔法少女バトルに限らず様々なスポーツや催し物に使われている。

 とはいえこの夏においての王立競技場は魔法少女バトル一色に染まる。ここはまさしく魔法少女バトルの聖地であり、試合を見るために遠方から多くの観光客が訪れていた。

「大っっっっっっっ変長らくお待たせ致しました! これより魔法少女バトル本戦を、開始致します!!」

 アナウンサーの声が響く。満員の観客が、それに合わせて歓声を上げた。

 魔法少女達は、競技場中央に設置されたステージの東付近でチーム毎に集まっている。アナウンサーの方を見ている者もいれば他の魔法少女を見ている者、そして観客の方を見ている者もいる。前もって変身した状態で来て下さいという指示に従い、全員が既に変身した状態である。

「実況はわたくし、オリンポステレビアナウンサーのタコワサ。解説は妖精騎士団のザルソバさんでお送り致します」

「どうも、解説大好きザルソバです」

 観客達の中には、今朝方早くに下山した拳凰達三人のハンターもいた。

「おっ、チビ助発見。ははっ、あいつ緊張してやがる」

 ぎこちない表情の花梨を見て笑う拳凰だったが、ふと横の幸次郎を見ると花梨と同じような顔をしていた。

「おいおい、そんな緊張すんなよ幸次郎。今はのんびり試合を楽しもうぜ」

「は、はい」

 幸次郎を挟んだ先では、デスサイズがジュースを啜っていた。

「やれやれ、本当なら酒を片手に観戦したいとこなんだがな」

 歓声が鳴り止まぬ中、アナウンサーは話を始める。

「さて、ここまで勝ち抜いた魔法少女六十四名が今この場に集まっています。何とも壮観な光景ですねザルソバさん」

「ええ、彼女達がこれからどんなバトルを見せてくれるのか、とても楽しみです」

「さて、それでは早速本戦の詳しいルールについて解説していきましょう」

 競技場の大型モニターに、ブロック分けが表示される。


Aブロック

チーム・ヴァンパイアロード

チーム・桜吹雪

チーム・ショート同盟

チーム・ラブリープリンセス


Bブロック

チーム・ウルトラセクシー

チーム・烈弩哀図

チーム・パラダイス

チーム・余りものⅠ


Cブロック

チーム・格闘少女

チーム・ハイパードリル

チーム・たまご

チーム・にゃんこ大好き


Dブロック

チーム・最強無敵絶対優勝

チーム・ハリケーン

チーム・幼馴染

チーム・余りものⅡ


「以前説明した通り本戦は四人一組によるチーム戦となり、こちらのブロック分けで戦って頂きます。決勝トーナメントに行けるのは各ブロックで優勝した一チームのみ。決勝トーナメントではチームは解散され、十六名による個人戦トーナメントとなります」

 魔法少女達は、モニターを見上げる。チーム名は表示されたものの、それに所属する魔法少女の名前は書かれていないため自分がどんな相手と戦うのかはまだわからない。

「魔法少女バトル本戦は各チーム一日一試合ずつ、三日間をかけて行います。さて、本戦での対戦方式ですが、まずここに二と三と四の目が二つずつ付いたサイコロがあります」

 ザルソバのフェアリーフォンから、両手で抱えるサイズの大きなサイコロが現れる。本人の言葉通り、目は三種類しかない。ザルソバはまず、二の目を魔法少女達に向けた。

「試合前にこれを振って、その試合に出る人数を決めるのです。二の目が出た場合、両チームが二人ずつ選出して二対二のバトルを行います。四人の選手が同時にステージに立ち、先に相手を二人とも戦闘不能にした側が勝利です」

 続いて、三の目を向ける。

「三の目が出た場合、三人ずつが参加する二点先取のバトルを行います。一対一のバトルを最大三回行い、先に二回勝った方が勝利です。一度バトルを行った選手は勝敗を問わず次の選手と交代。一方が二連勝した場合、三戦目は行いません」

 最期に、四の目を見せる。

「四の目が出た場合、四人全員が参加する勝ち抜き戦を行います。これも一対一のバトルですが、二点先取とは異なり勝った選手は次のバトルにも引き続き出場します。相手チーム四人全員を戦闘不能にしたら勝利です」

 試合方式を決めるのにランダム性を持たせるという、驚きのルール。魔法少女バトルはエンターテイメントであり、純粋に実力を競い合うよりも観客を楽しませることに重点を置いていることを強く意識させられる話だ。

「また本戦のルールとして、全三試合の中で四人全員が一度はバトルに出場するようにしなければならないというのもあります。三日目の時点で一度もバトルをしていない選手がいる場合、三日目の試合では必ずその選手を出場させなければならない、ということです。なお、二点先取や勝ち抜き戦で選出されたもののバトルせずに試合が終わってしまった、という場合は出場したことにはなりません」

 弱い魔法少女を毎回補欠に回すことはできない。強い味方に寄生して楽に決勝トーナメントに進もうという作戦や、弱い味方を戦わせないようにして黒星が付くのを防ごうという作戦を防ぐためのルールである。

「さて、会場についてですが、この王立競技場だけで一日八試合を消化するのは時間がかかります。そこで、第二会場を用意することとしました。モニターをご覧下さい」

 競技場の大型モニターに、どこかこことは別の競技場を上空から撮った映像が映された。形状からして野球場のようで、ここと同じく観客席は満員である。

「これから魔法少女の内半数の方に、王都南部にある王都球場へワープして頂きます。一日目はAブロックとBブロックが王立競技場、CブロックとDブロックが王都球場。二日目はBブロックとDブロックが王立競技場、AブロックとCブロックが王都球場。三日目はAブロックとDブロックが王立競技場、BブロックとCブロックが王都球場での対戦となります。それではCブロックとDブロックの皆様、王都球場へ行ってらっしゃい」

 ザルソバがそう言うと、この場にいる魔法少女の半数がすっと消えた。

「さて、残ったAブロックとBブロックの皆様は、まずチーム毎に整列して頂きましょう」

 床にチーム名を書いた表示が現れる。魔法少女達は、それに沿って整列した。

「ではこれより、Aブロック一回戦第一試合を開始します。対戦カードは、この二チーム!」

 大型モニターに表示された文字は「チーム・ヴァンパイアロードVSチーム・ラブリープリンセス」である。

「ヴァンパイアロードの皆様はステージ東側に。ラブリープリンセスの皆様はステージ西側にどうぞ。その他の皆様は、専用の御席へ」

 両チームの魔法少女は競技場の中央に設置されたステージの両サイドに集まり、他の魔法少女は指示に従って隅に設置された魔法少女用の観戦席に移る。

 チーム・ヴァンパイアロードのメンバーは、アイドル吸血鬼・小鳥遊麗羅。狐巫女眼鏡っ娘・三日月梓。オレンジ色の王道魔法少女・鈴村智恵理。雨合羽ロリ・雨戸朝香。

 チーム・ラブリープリンセスのメンバーは、童話のお姫様のようなピンクのドレスを纏い、煌びやかなティアラを付けた田中らぶり姫。ギャルメイクで小悪魔風の黒い衣装に身を包み、三叉の槍を持った菅由奈。白いウールのもこもこ衣装を着た白布芽衣。そして沢山の手袋を貼り付けたドレスを着た景山かげやま憲子のりこ

 観戦席から見る花梨と夏樹は、芽衣の存在に気付いた。

「あ、芽衣さんあのチームに入ったんだ」

「てことは、あの中の誰かが部活の先輩かな?」

 見た目先輩っぽいのは、一番背が高い憲子である。ギャル系の由奈も、無理矢理チームに引き込んできそう感がある。

 向かい合って立つ両チームの間、ステージ中央にザルソバが姿を現した。

「それではこれより、このサイコロで対戦方式を決めます」

 ザルソバは、空高くサイコロを投げる。ステージ中央に落ちたサイコロは、三の目を上に向けた。

「今回の対戦形式は、二点先取に決定致しました。両チームは、ベンチにて先鋒の選手を選んで下さい」

 両チームは揃ってステージを降り、ベンチに行き作戦会議を始める。

「さて、最初は誰が出る?」

「あたしが行く」

 麗羅が三人に尋ねると、智恵理が答えた。麗羅は梓と朝香の顔を見る。二人とも異論はないようだ。

「よし、じゃあ先鋒戦は智恵理ちゃんで決定ね。頑張って智恵理ちゃん!」

「う、うん!」

 後半で余り者になって足手纏いにはなりたくないからと、とりあえず一番最初に出場してみたのがこの立候補の真相である。純粋に応援する仲間の視線が痛い。

(とにかく、絶対に足手纏いにならないように頑張らなきゃ!)

 智恵理は気合を入れながら、ステージを挟んだ先で作戦会議をしている相手チームの方を見た。


「らぶり姫はー、一番強くて一番可愛いから大将ねー」

 ぶりっ子ポーズに猫撫で声で、らぶり姫が一方的に言う。由奈は舌打ちした。

「そんで天パーちゃんは一番弱くて可愛くないから補欠ー」

 次は一人縮こまって座る芽衣に、意地の悪い笑みを向け言い放つ。

「で、由奈ちゃんとそこの人、どっちが行く?」

「じゃあ、私が」

 そこの人こと憲子は、小さく右手を上げて言う。

「うんじゃあよろしくねー」

 らぶり姫は興味なさそうに言うと、芽衣の隣に腰掛けた。芽衣はびくりとする。

「ちょっと天パーちゃんひどーい、せっかくらぶり姫が隣に座ってあげたのにそんな顔するだなんてー」

 さも自分が隣に座ったことが芽衣にとって嬉しいことであるかのような口ぶりだが、芽衣はそれで尚更に嫌そうな顔をした。


 智恵理と憲子は、共にステージに上がる。

「チーム・ヴァンパイアロード、鈴村智恵理!」

 智恵理は酷く緊張した様子で、杖を握る手が震えていた。

「チーム・ラブリープリンセス、景山憲子!」

 対する憲子はとても落ち着いており、この場に集められた時からずっとポーカーフェイスを貫いている。沢山の手袋を貼り付けた奇妙な衣装といい、どうにも気味の悪さを感じさせる相手である。

(大丈夫。相手の魔法はさっきアプリで調べたし。何てったってこっちは遠距離攻撃持ち。近づかなければこっちのもんでしょ!)

 本戦からは全魔法少女の使う魔法が公開情報となる。最終予選までは有利だった初見殺しタイプの魔法少女にとっては逆風である。智恵理もちゃんと調べた上で相手の弱点をしっかりと理解して戦いに臨んでいた。

「それでは……試合開始!」

 ステージ外に歩いて移動したザルソバが右手を上げる。それと同時に、智恵理は星型の魔法弾を杖から発射。憲子に当たって爆発したところで、すかさず連射。だが砂煙の中から平然と飛び出した憲子は、長い脚で駆け智恵理への接近を試みる。

「こ、こっち来んなーー!!」

 杖の先端に魔力を溜めて、バットのように構えて迎撃。智恵理のフルスイングを、憲子は体勢を低くして避けた。続けて、反撃が始まる。

「秘技・ロックブーテの舞」

 静かに技名を言うと、白い長手袋を填めた細長い腕が智恵理の頬に迫った。

 避けきれない。軽いビンタが頬に当たった。しかしHPは僅かにしか削られていない。

 弱い。あまりにも弱すぎる一撃。しかしこれが、彼女の恐ろしい乱舞の始まりだった。

 続けて、もう一方の手が智恵理の頬を打つ。まるでダンスのような動きで、両方の手が交互にビンタを打つ。そして六発目のビンタを喰らった時、智恵理の体は光に包まれた。

「しまっ……!」

 あっという間に変身は解除され、智恵理は丸いバリアの中にいた。

「勝者、景山憲子!!!」

 ザルソバが叫ぶ。観客席からは雪崩のような歓声が沸き上がった。

「いやー凄いですね、ロックブーテの舞」

 実況のタコワサがそう言うと、ザルソバはステージ横から雷の如く一瞬で解説席に移動した。

「ええ、相手を六回ぶつことで確実に戦闘不能にさせる景山憲子選手の魔法は、強力な初見殺しとして多くの魔法少女を沈めてきました。魔法の内容が最初からバレている本戦では不利になるかと思われましたが、スピードを活かして上手く決められましたね」

 勝った憲子がステージを降りると、智恵理を包むバリアが消えた。動けるようになった智恵理は自分も席に戻る。

「ごめんみんな……負けちゃった……」

「気にしないで智恵理、まだ二試合残っているわ」

 気を落とす智恵理を、梓が慰める。

「中堅戦は私が出るわ。絶対に勝って大将に繋いでみせる」

 智恵理の両肩に手を乗せ、目を見て言う。

「ごめん梓、お願い」

「任せて」

 梓はステージの方を見る。あちらも中堅が決まったようで、由奈がこちらを見ていた。

 智恵理はベンチに腰掛け、がっくりと俯く。

「智恵理お姉ちゃん、大丈夫?」

 朝香が心配そうに声をかける。

(ダメだあたし……いきなり足手纏い……)

 梓はああ言ったものの、瞬殺されたショックは想像以上に大きかった。自分一人だけならまだしも、仲間にまで迷惑がかかるのは辛いものであった。



<キャラクター紹介>

名前:景山かげやま憲子のりこ

性別:女

学年:高一

身長:163

3サイズ:88-60-87(Dカップ)

髪色:黒

髪色(変身後):金

星座:牡羊座

衣装:沢山の手袋を貼り付けたドレス

武器:手袋

魔法:六回ぶつと相手の変身を解除させる

趣味:手袋集め

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る