第17話 花梨と唯とムニエルと

 花梨とムニエルは唯を連れて花梨の家に戻り、唯の魔法少女バトル参加手続きを行った。

「わ、私本当に魔法少女に……」

 唯のコスチュームは、いかにもアニメの魔法少女が着ていそうなデザインであった。個性豊かな魔法少女が沢山いる魔法少女バトルでは、このようなデザインはかえって珍しいものである。

 花梨から魔法少女バトルを紹介された唯は最初戸惑っていたが、自分の変身した姿を鏡で見ると、途端に歓喜の表情に変わった。

「すっごく可愛いよ! ありがとうムニエルちゃん!」

「うむ、気に入ってもらえたようで安心した。衣装を気に入らない魔法少女も結構いると聞くのでな」

「ねえねえ、花梨はどんな衣装なの?」

「え、私? それじゃあ……マジカルチェンジ」

 花梨は唯に尋ねられ、変身してみせる。

「おおー、ナース服だ! これも可愛いー!」

「えへへ……」

 唯に褒められた花梨は、照れ臭そうに笑った。

「花梨、唯、せっかくじゃからそなた達の魔法を広い場所で試してみぬか? 我の体に触れてくれれば丁度いい場所に転送してやろう」

 ムニエルがそう言うので、二人はそれに応じてムニエルの魔法でどこかの開けた野原にワープした。

「ここならば存分に魔法を試せる。何ならばそなた達二人でバトルしてみてもよいぞ。まだ大会は始まっておらぬから変身解除させられても敗北数は加算されぬからのう」

「よーし、やろう花梨!」

「う、うん!」

 ノリノリの唯は、早速杖を構える。二人は一旦距離をとった後、合図と共に戦闘開始。まずは唯がビームを撃って先制攻撃。花梨は吹っ飛ばされて尻餅をついた。

「大丈夫、花梨」

「うん、全然痛くないから大丈夫。こっちも行くよ!」

 花梨の撃った注射器が唯の腕に刺さるも、痛みと言えるほどの痛みはない。

「本当だ、全然痛くない。これなら安全だね」

 魔法少女バトルの安全性を実感した二人はそのままバトルを続けた。最後は花梨の撃った注射器が唯に刺さってHPがゼロになり、唯の変身が解除された。

「これにて終了じゃ。魔法少女バトルの試合は、このようにどちらかのHPがゼロになり変身解除された時点で終了となる」

「だいたいわかったよ。よーし、本番に向けてもっと練習しなきゃ! 花梨、ムニエルちゃん、こんな面白そうなことに誘ってくれて、本当にありがとね! 実は私、小さい頃からずっと魔法少女に憧れてたんだ。それが本当に魔法少女になれて、妖精さんとも友達になれるなんて本当に嬉しいよ!」

 興奮してムニエルの手をとる唯。

「うむ、我も人間の友達ができて嬉しいぞ。その……唯、そなたも花梨共々、これからも我と遊んでくれるか?」

「勿論だよ!」

 そうして花梨と唯とムニエルは、度々三人で遊んで夏休みを過ごした。花梨や唯の家で遊んだり、プールや公園に行ったり、お揃いのアクセサリーを買ったり。異世界から来た友達と過ごす日々は、花梨と唯にとって特別な夏休みとなった。

 そして来たる九月、魔法少女バトルの火蓋が切って落とされた。花梨は自身を回復できる魔法の特性を活かして順調に勝利を重ねていたが、唯は……

「あれ、唯ちゃんどうかしたの?」

 学校で元気が無い唯を見て、花梨が尋ねた。

「それが、昨日バトルで負けちゃって……」

「えっ……だ、大丈夫だよ! 次頑張ればいいんだから!」

「そうだね……うん、私頑張る!」

 花梨に励まされ、唯は立ち直る。だがその日の夜も、唯は試合に敗北した。

 翌朝学校では、唯も花梨も元気が無かった。

「あれ、花梨……もしかして花梨も……?」

「あ、ううん、私は昨日試合無かったから……それより唯ちゃん、もしかして……」

「うん、昨日もまた負けちゃった。あと一回で脱落だよー」

 唯はだらんと両腕を伸ばして机に伏せる。

「あ、そういえば花梨はどうして元気無いの?」

「それが、ケン兄が急に家を出て行っちゃって……修行に行くとか言って。心配するこっちの身にもなってほしいよ」

「それは大変だったね……あ、そうだ! 私も修行すればいいんだ!」

 突然そんなことを言い出した唯に、花梨は目を丸くする。

「このまま負けっぱなしはやだもん! 修行して強くなって、次は勝たないと!」

「だ、駄目だよ修行なんて! そんな危険なこと唯ちゃんには無理だよ!」

「魔法少女になれば大丈夫!」

 変な方向にやる気を出している唯。

 その日の帰宅後、花梨のスマートフォンに唯からのメッセージが来ていた。

『今ムニちゃんが来て、私が修行つけてほしいって言ったらOKしてくれた! せっかくだから花梨も一緒にやらない?』

 丁度タイミングよくムニエルが唯の家に遊びに来たようで、唯は本当に修行をする気のようだった。

(ケン兄みたく山篭りする感じではなさそうだし……魔法少女な変身してれば安全だから私もやってみようかな)


 唯の家に行った花梨は、ムニエルの魔法で以前行った野原に再びワープさせられた。

「では始めるとするか。これがそなたらに合うかわからぬが、我が師より習ったやり方をそのままやらせてもらう」

 ムニエルは両腕を広げる。すると両手首からブレスレットのように魔法陣が展開され、その魔法陣は指先の方へと抜ける。そして魔法陣から召喚された二本の剣を、ムニエルは両手で掴んだ。

「二刀流……ムニちゃんカッコイイ」

 唯はムニエルの出で立ちを見て呟く。

「ゆくぞ!」

 ムニエルの掛け声を受けて、花梨と唯は同時に攻撃を繰り出す。ムニエルは二人を同時に相手し、剣でそれぞれの攻撃を防いだ。

 反撃の剣が花梨と唯の肌を掠める。ムニエルの剣は二人に直接当たらないよう紙一重の位置を切っている。流れるような剣捌きは花梨と唯の攻撃を全く受け付けない。レオタードを纏い二本の剣を手に舞うように戦うその姿は、さながら踊り子のようにも見えた。

 ムニエルによる実践修行を続ける二人であったが、暫くしてムニエルは手を止めた。

「そこまでじゃ! 大会期間中にMP切れで変身解除されれば負け数が付いてしまう。ここで止めておくのが懸命じゃろう」

「うん、わかった」

 二人はアプリを使って手動で変身を解く。

「我との修行でそなた達の魔力も上がっていることじゃろう。これからも頑張るがよい」

 修行の成果は、すぐに実感できた。その日の夜に行われた試合で、花梨は相手を寄せ付けず圧勝。唯からも「勝ったよ!」というメッセージが来ていた。

 この調子で行けば唯も問題なく一次予選を突破できる――花梨はそう思っていた。


 十一月、秋の深まってきた頃に、事件は起きた。

「おはよう唯ちゃん。昨日の試合、どうだった?」

「え、試合? 何のこと?」

 朝、学校で唯に尋ねた花梨だったが、唯は不思議そうに首を傾げる。

「何って……魔法少女バトルのだよ」

「魔法少女バトル? 何それ? ゲームか何か?」

 唯が冗談を言っているようには見えず、花梨の発言を本当に理解できていない様子だった。花梨はそれを見て状況を察した。

 帰宅後、ムニエルが花梨の家にやってきた。魔法少女から妖精騎士に連絡をすることができない関係上、花梨はムニエルが来るのが待ち遠しくてたまらなかった。

「そっか、やっぱり唯ちゃんは脱落しちゃったんだね……」

 ムニエルから唯の脱落を正式に伝えられた花梨は落胆した。もう唯とムニエルと三人で遊ぶことはできないのだ。

「唯ちゃん、ムニちゃんのことも全部忘れちゃったんだよ。せっかく友達になれたのに……」

「唯は元より魔法少女としての能力が高くはなかった。我との修行で多少は強くなったものの、我も唯が一次予選を勝ち抜ける可能性は低いと見ておった」

 ムニエルは冷静かつ事務的に振舞っているようで、顔は俯き気味で目には小さな涙が浮かんでいた。

「唯が我のことを忘れるのも仕方の無いことなのじゃ。本来ならば妖精界と関わらず生きるのが自然な状態。唯は本来あるべき状態に戻っただけなのじゃ」

「ムニちゃん……」

 魔法少女バトルを運営する立場と友達としての立場に鬩ぎ合うムニエル。花梨はその想いに胸が痛み、一粒の涙を流す。

「私、ムニちゃんのこと忘れたくない! だからこの先もずっとずっと勝ち続けて、ずっとムニちゃんと友達でいる!」

「……ああ」

 花梨に笑いかけるムニエルだったが、その表情にはどこか憂いがあった。



「ねえ花梨、さっきからどうしたの? そんなぼーっとして」

 ずっと回想に浸っていた花梨だったが、唯に声をかけられはっと我に帰る。そう、今は水泳の授業中である。

「もう皆行っちゃったよ。私達も早く戻ろう」

 気が付けば皆プールから更衣室に戻っており、残っているのは花梨と唯だけになっていた。

「う、うん」

 現在の唯は、まるで最初から魔法少女バトルに関わっていなかったように、ごく普通の日常を送っている。

 ムニエルは二次予選が始まった直後に妖精界の護りに就くため帰省、それ以来花梨は彼女と会っていない。現在の臨時担当は獅子座レオのハンバーグであるが、必要最低限しか花梨に関わってこない。

(ムニちゃん、今何してるのかな……)

 青空を見上げ、花梨は妖精界のムニエルに想いを馳せた。



 その日の夜。唯に黒星をつけた魔法少女の一人である鈴村智恵理は、今日の試合に臨んでいた。

 試合会場はかつて智恵理が拳凰に敗れた田中山たなかさんの森の中である。智恵理にとっては不吉な場所であり、ここでの試合にはあまりいい気がしない。

 対戦相手は智恵理と同じく拳凰に敗れた経験のある魔法少女、宍戸朱音である。

 魔法の灯りによって照らされた夜の森に舞う二人の魔法少女。二人は共に、あと一度負ければ脱落する立場にあった。決して負けられない戦いに、会場は緊張感で包まれた。

 朱音は指揮棒で竜巻を操り、森の木々を巻き込みながら智恵理を攻撃する。智恵理は移動しながら魔法弾を連射し、朱音本体を狙った。

 魔法弾を受けてHPが削られてゆく朱音。智恵理は追いかけてくる竜巻から逃げつつ、絶えず攻撃を続ける。朱音はたまらず、自身に風を纏って浮かび退避。空中から風の刃を打ち出して反撃に出る。

 始め生い茂っていた木々は竜巻にによって次々と薙ぎ倒され、風の刃を防ぐ盾はもう無い。高速で飛来する刃を智恵理は避けきれずダメージを負ってしまう。

(くっ……竜巻は動きが単調で楽に避けられると思っていたけど、まさかこれが狙いだっただなんて!)

 障害物が無くなり得意の空中機動力を存分に活かせるようになった朱音は、高速で飛び回りながら風の刃を撃ち続けた。だが智恵理も、一方的に攻撃を受け続けるばかりではない。

「あたしだって……強くなってるんだから!」

 地面に向けて魔法弾を放ち、炸裂した魔法弾は魔力の障壁となる。風の刃を防ぎつつ、智恵理は朱音の移動を先読みして魔法弾を発射。智恵理の読みは見事に当たり、魔法弾は朱音に命中した。

 朱音が地面に叩き落されたところで、智恵理はその隙に魔力を溜めて特大の魔法弾を撃つ。朱音に当たった魔法弾は眩い光を放って爆発し、煙が晴れた場所にはバリアに包まれ変身解除させられた朱音が残っていた。

「やった! 勝った!」

 喜びにガッツポーズをする智恵理。対して朱音は、悔しさのあまり拳を握った。朱音の姿はすっと消え、自宅に戻される。

 敗北数が三回になったことで、朱音はこれにて脱落決定。幸次郎はイレギュラーな存在であるためソーセージが直接出向いて記憶を消していたが、通常の魔法少女はアプリの昨日で自動的に記憶と魔力を消してくれ、同時にアプリもアンインストールされる。こうして魔法少女バトルに参加していたことの名残は全て消滅し、何事も無かったように普通の少女としての日常に戻るのである。

 今日もなんとか勝ち残れた智恵理は、ほっと一息つく。だがその時、突如背後から足音がした。ビクリと体を震わせる智恵理。

(まさか……また最低寺!?)

 かつてこの場所で拳凰に破れ、二次予選最初の黒星を付けられた思い出がフラッシュバックする。恐る恐る振り返ってみると、夜の中に見えるその影は体格からして成人男性のもの。

(ちょ、ちょっと! 何なの!? また男!?)

 怯える智恵理に一歩ずつ近づき結界をすり抜けたその男は、智恵理の目の前でばたりと倒れた。

 特徴的な朱色の髪は薄汚れ、高級感を漂わせていた黒のスーツは無惨なまでにボロボロ。智恵理の担当である妖精騎士カニミソが、まるで激しい戦いを終えた後のような姿でこの場に現れたのだ。

「かっ、カニミソ!? どうしてあんたがここに……っていうか何でそんなボロボロなの!?」

「お、おなかすいた……カニ……」

 カニミソは倒れたまま顔を上げ智恵理に手を伸ばそうとしたが、途中で力尽きガクリと意識を失う。

「ちょっと、カニミソ!? 大丈夫!? ねえ、カニミソーっ!」



<キャラクター紹介>

名前:宍戸ししど朱音あかね

性別:女

学年:中二

身長:154

3サイズ:74-58-76(Aカップ)

髪色:茶

髪色(変身後):金

星座:魚座

衣装:赤いドレス

武器:指揮棒

魔法:風を操る

趣味:ピアノ

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