第7話 黄金色の魔法少女

『現在魔法少女バトルには、謎の乱入男が出没中! 乱入男は試合に乱入し、魔法少女を攻撃してくるぞ! 乱入男に負けた場合も負け数は加算されるから要注意だ!』

 拳凰がカニミソを倒した日の翌日。全国の魔法少女が持つスマートフォンの魔法少女バトルアプリに、この文章が告知されていた。

 告知を見た花梨は急いで拳凰にそれを見せた。

「ねえケン兄、この乱入男って、まさかケン兄のこと!?」

「ほう、運営も粋なことしてくれるじゃねえか。魔法少女側も俺の存在をそういうもんだと認識してくれたなら気楽に戦えるしよ」

 対して拳凰は、むしろこの状況を喜んでいた。

「そんじゃ、学校行ってくるぜ」

 妖精騎士団という強敵との出会い、そしてフェアリーフォンを得たことで魔法少女が現れる場所と時間を把握できるようになった。昨日という日は拳凰にとって喜ばしいことばかりであった。そのため今日の拳凰は朝からご機嫌であり、意気揚々と家を出て行ったのである。


 学校に着いた拳凰は、今日も他の生徒から恐れられ距離をとられていた。

 隣の席に座る智恵理も、とても嫌そうに拳凰から極力机を離していた。

(今朝アプリに告知されてた乱入男って、間違いなくこいつのことだよね。カニミソはどうにか対処するって言ってたけど……ちゃんとやっててくれてるのかな?)

 カニミソが拳凰に倒されたことを知らない智恵理は、一日経っても拳凰が健在であることを不安がった。

「智恵理、今日は機嫌悪いみたいだけど……何かあった?」

 そんな智恵理の様子を心配して、梓が言う。

「あっ、ううん、別に。何でもないよ」

「そう、それならいいけど……」

 智恵理と梓は、お互いに親友が魔法少女であることを知らない。県内の魔法少女同士で対戦する一次予選では当たる確立が高かったのだが、運よく当たらずに済んでいたのである。

 そしてそう言う梓もまた、今日の告知に一抹の不安を覚えていた。

(謎の乱入男……ホーレンソーが言っていた不審者のことよね、多分。この文体を見るに乱入男なる存在の出現は公式のイベントのようだけど……昨日のホーレンソーの言い方はあまりそういう風ではなかった。ホーレンソーは普段から芝居がかった喋り方をしているから、あれもイベントの一環としての演技とも考えられるけど……確かホーレンソーは妖精騎士を一人退治に向かわせたと言っていたはず。その上でこんな注意喚起の告知が来ているってことは、不審者退治は失敗したと見ていいのかしら。そしてその失態を揉み消すために公式イベントのように扱う……少し考えすぎかもしれないけど、妖精騎士団の胡散臭さを考えればあってもおかしくない話だわ)

「どうしたの梓、急にぼーっとして」

「あっ、ええと、少し考え事をしていただけよ。気にしないで」

 智恵理に声をかけられはっと気がついた梓は。先程の智恵理と同じように誤魔化した。


 今回のこの処置を不審に思っていたのは、魔法少女だけではない。妖精騎士団の一員であるホーレンソーもまた、騎士団の決定に納得がいかずにいた。

(明らかなアクシデントを公式イベントのように扱って誤魔化すなど、どうかしている。ビフテキは一体どうしてしまったというのだ)

 昨日ホーレンソーは解散した後、加門公園に足を運んだ。しかし拳凰は元よりカニミソも忽然と姿を消していたのである。

 あれからカニミソとは一度も連絡がとれていない。彼の安否も心配だが、それ以上に拳凰が今後も魔法少女を襲うであろうことが気がかりであった。

(できることならば乱入男は私がこの手で始末してやりたいところだが、手を出すなと言われている以上そういうわけにもいかない。さて、どうしたものか……)


 そして来たる夜。花梨は今日の試合に備え部屋で待機していた。

「おいチビ助ー」

「ちょっとケン兄、部屋に入る時はノックしてって言ってるでしょ!」

 毎度のようにノックしないで花梨の部屋に入ってきた拳凰は、ずけずけと床に腰掛ける。

「お前今日、試合があるんだよな。俺も一緒に試合会場にワープしたりとかできないか?」

「え? うーん、そういうの試したことないからわからないけど……ケン兄、試合についてくる気?」

「おう、お前の対戦相手を俺が倒しといてやるぜ」

「だっ、ダメだよそんなの! 私はちゃんと自分で戦うから!」

「そうか? じゃあお前この前は戦えるって言ってたけどよ、本当に戦えるのか疑問なんだよな。本当にちゃんと戦えるのか見てみたいからよ、俺も連れてってくれよ」

「そう言われても、人を連れてワープなんてできるかどうか……」

「物は試しだ、やってみろよ」

「う、うん。それじゃあその……ケン兄、ちょっと後ろ向いてて。変身するから」

「あ? 何でそんなことする必要あるんだ?」

 もじもじしている花梨に対し、拳凰は何もわかっていない様子で言う。

「はっ、ハダカ! 変身する時裸になっちゃうでしょ!」

「別に構いやしねえよ。お前の裸なんざ見慣れてるっつの。一昨年まで一緒に風呂入ってたんだからよ。つーか昨日とかだって俺の目の前で変身してたじゃねーか」

「私はもう子供じゃないんだよ! 昨日とかは、ケン兄が酷いケガで緊急だったから……」

「お前まだガキじゃねーか。まあ、お前がそんなに嫌だっつーんなら向こう向いててやるけどよ」

 拳凰が背を向けたのを確認すると、花梨はスマートフォンを操作して魔法少女に変身する。

「もう、いいよ」

 花梨がそう言うと、拳凰は再び花梨の方を向いた。

「なあチビ助、思ったんだが、魔法少女ってのは家で変身するもんなのか? いつもお前が見てたアニメだと大抵外の現場で変身してたじゃねーか」

「そういうアニメはもう卒業したよ! 大体これアニメじゃなくて現実だし。外で裸になるなんて絶対やだもん。一応、アニメと一緒で見えちゃいけないところは見えないようになってはいるけど……それに魔法少女バトルは妖精界でテレビ中継されてるから、もし会場で変身したら裸がテレビに映っちゃうんだよ!」

「なるほど、それは問題だな」

 流石の拳凰もそう言われたら普通に納得した。

「だから、どの子もみんな家で変身した後で会場にワープしてるの」

「そういうもんなのか。そんじゃ俺を連れてワープするの、試してみてくれ」

 拳凰はそう言うと、花梨の肩に手を置いた。

「ひゃっ!?」

 いきなり拳凰に触られて、花梨は顔を赤くする。

「とりあえずお前に触った状態でワープすれば俺もついていけるんじゃないか」

「う、うん、やってみる」

 花梨は転送ボタンをタップし、今日の試合会場である安井ビルへとワープした。


 気がつくと拳凰は、どこか知らない場所にいた。

 強い風が吹いており、周囲にはいくつものビル明かり。どうやらここは、都市部にあるビルの屋上のようだった。

「うおっ、本当にできちまった! 凄えな魔法」

「ケン兄、本当に来られたんだ。こんな機能、説明書には書いてなかったはずだけど……」

 突然周囲の景色が変わったことに、拳凰は驚いていた。そして花梨もまた、体に触れているだけで魔法少女当人ではない人物も一緒にワープ可能という新事実に驚いていた。

「あら、男連れで試合に来るとはいいご身分ですわね」

 突然向こうから声がして、花梨は振り向く。今日の対戦相手は、先に会場に来ていたようだった。

わたくし黄金こがね珠子たまこと申しますの。今日は宜しくお願いしますわ」

 対戦相手の少女は頭の両サイドにドリルのような縦ロールを結った金髪で、ブランド物の煌びやかな服に身を包んでいた。魔法少女の証である星座のブローチは、どこに付いているのか確認できない。

「なんか金玉みてーな名前だな」

「ちょっとケン兄、失礼だよ! あ、えっと、私は白藤花梨です。こちらこそ宜しくお願いします」

 相手が丁寧に挨拶してきたので、こちらも挨拶を返す。

「そちらの失礼な殿方は……貴方の担当妖精かしら?」

「あ、いえ、この人は、その……」

「俺は最強寺拳凰。謎の乱入男とは俺のことだ。だが今日の試合には乱入しねえ。俺はここでのんびりと観戦させてもらうぜ」

 拳凰はそう言って床に腰を下ろす。

「謎の乱入男……今朝の告知に書かれてましたわね。まあ、試合の邪魔をしないなら別に構いませんわ」

「えっと、じゃあ……」

 試合を始めようと身構える花梨。

「ちょっと待ってくださるかしら。私はまだ変身していませんわ」

 落ち着いた態度で花梨を静止する珠子。

「えっ?」

 驚き首を傾げる花梨。確かに珠子の着ている服は魔法少女衣装と言うよりは私服と言った方がしっくり来るし、星座のブローチも確認できない。しかしまさか変身せずに会場に来る魔法少女なんてものがいるとは思ってもいなかったのだ。

 もし変身前の状態で攻撃を受けた場合、負けて変身解除した時に出るバリアが自動で発生し身が守られるようになっている。そのため変身せず会場に来ても怪我の危険は無い。しかし先程拳凰に話した通り、会場で変身するということは妖精界のお茶の間に自分の裸が中継されてしまうということである。全身が光に包まれ大事なところは見えないようになっているものの、ボディラインははっきりと分かるため花梨のような体型にコンプレックスのある女の子にとっては特に辛いことである。

「私、変身は会場でする派なんですの。いきますわよ。マジカルチェーンジ!」

 スマートフォンを持った右手を掲げかっこいいポーズをとりながら、高々に叫ぶ珠子。その身は光に包まれ、着ている衣服が粒子となって消える。

「はっ、裸! 裸テレビに映っちゃうよ! あっケン兄は見ちゃダメー!」

 こんな場所で素っ裸になる珠子に、花梨は大慌て。拳凰の両目を手で覆い隠した。

 黄金のハイヒールに、黄金の手袋、そして牡羊座のブローチが付いた黄金のドレススカートを珠子は身に纏う。そして最後に一万円札を両胸に一枚ずつ貼り付けて、珠子の身体を覆っていた光が消えた。

「え、えーと……変身、途中で止まってませんか……?」

 珠子の珍妙な衣装にぽかんとしつつ、拳凰の目を覆ったまま花梨は尋ねた。

「止まってなんかいませんわよ。これが私の魔法少女衣装ですの」

 下半身こそ普通なものの、上半身はほぼ裸。最低限隠すべき所だけ申し訳程度に隠した非常に露出度の高いものである。

「えー……恥ずかしくないんですか?」

「私Eカップなんですのよ。この自慢のお胸、むしろ目立たせて何ぼですわ」

 珠子は自慢げに胸を張って見せた。アプリの対戦相手情報によれば、珠子は中学二年生。花梨とは一歳しか違わない。更に背丈も小柄であり、花梨より少し高い程度しかない。にも関わらず、二人の胸囲の差は月とスッポンであった。しかも珠子は、胸こそ大きい割に全体的にはスレンダー。皆が羨ましがるような体型に、花梨のコンプレックスはますます刺激されていったのである。

「変身シーンも、私の自慢のボディを見せびらかすチャンスですわ! 妖精界のお茶の間にサービスしてさしあげますの」

「どうしようケン兄……この人変態さんだよ」

 常識を逸した珠子の言動に、花梨の顔は引き攣っていた。

「あんな痴女に負けんじゃねーぞチビ助。無防備に晒してる所にお前の魔法をブチ込んでやれ」

 いつの間にか花梨の手を顔から退けた拳凰が、花梨を鼓舞する。

「う、うん」

 花梨は改めて構えた。

「行きますわよ! マネータイフーン!」

 珠子の右掌から出現した大量の一万円札が、竜巻のように渦を巻いて花梨に襲い掛かる。花梨は珠子を注視したまま駆け出し、マネータイフーンを避けた。反撃にメスをダーツのように飛ばし、珠子を狙い撃つ。

「そうはさせませんわ!」

 珠子は手に持った札束でメスを叩き落す。更にそのまま、花梨へと接近した。

「喰らいなさい、札束ビンタ!」

 札束で頬を引っ叩かれ、花梨は倒れ伏す。

「今ですわ! マネータイフーン!」

 床に這い蹲る花梨に、珠子は容赦なく紙幣の嵐を放った。花梨のHPは紙幣に当たる度少しずつ削られてゆく。

 花梨は包帯を自分の周囲に展開し盾のようにしつつ起き上がり、マネータイフーンの範囲外へと走った。その後包帯を自分の身体に巻きつけ、HPを回復する。

(この人、意外と強い。自分を回復するのはMP消費が大きいし、早めに決着をつけないと……)

 そう思った花梨は、包帯を珠子の方に伸ばし拘束を狙う。珠子は札束ビンタで包帯を叩いてそれを防いだ。

 マネータイフーンで牽制しつつ、隙あらば接近して札束ビンタを叩き込む。花梨に攻撃の隙を与えぬ二段構え。

(チビ助……苦戦してやがるな)

 試合を観戦する拳凰は、手に汗を握った。

 花梨は防戦一方である。こちらは接近戦を苦手とする飛び道具主体の魔法であるのに対し、珠子の魔法は遠近両用。反応速度も非常に素早い。裸同然の衣装や紙幣を操る魔法といった色物臭い絵面とは裏腹に、珠子の実力の高さはかなりのものであった。

「なかなかすばしっこいんですのね。だったら私にも考えがありますわ」

 狭い屋上をちょこまかと移動しつつなんとか珠子と渡り合う花梨だったが、その様子を見て珠子は戦術を変えてきた。手にした一枚の紙幣を、花梨の顔面目掛けて投げつける。花梨が気付いたのも束の間、紙幣は花梨の両目を覆うように顔に貼り付いた。

「!!」

 花梨は慌てて剥がそうとするが、ぴったりくっついて剥がれない。ただでさえ今の時間帯は夜であり、花梨の目の前は真っ暗になった。

「何これ! 何にも見えない!」

「オーッホッホッホ、金に目が眩むとはまさにこのことですわ!」

 札束を扇のようにして自分を扇ぎ、珠子は余裕の高笑い。

「さあ、終わりにしてさしあげますわ。レッツ、マネータイフーン!」

 両掌から紙吹雪のように大量の紙幣を生成し、それを花梨に向ける。轟々と渦巻く紙幣の竜巻が、花梨を飲み込まんとしていた。

「チビ助ーっ!」

 叫ぶ拳凰。視界を封じられている花梨は、あたふたするしかなかった。



<キャラクター紹介>

名前:黄金こがね珠子たまこ

性別:女

学年:中二

身長:149

3サイズ:82-55-79(Eカップ)

髪色:金

髪色(変身後):金

星座:牡羊座

衣装:黄金のドレススカート+胸に紙幣一枚ずつ

武器:紙幣

魔法:紙幣を操る

趣味:バイオリン

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