ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

第一章 一次・二次予選編

第0話 プロローグ

 夜の河川敷。普段は静かなこの場所が、今日はやけに騒がしい。一人の男が、二十人もの男達に囲まれていたのだ。

 囲む男達は誰しも柄が悪く、武器を手にしている者も多い。囲まれている男もまた負けじと柄は悪かったが、丸腰であった。

「最強寺ィ、今日がてめえの最期の日だ!」

 囲む男達の一人が言う。囲む男達は、日本全国から集められた喧嘩自慢ばかりであった。

 囲まれている男の名は最強寺さいきょうじ拳凰けんおう。喧嘩の強さでは名の知れた、十六歳の高校一年生である。背丈は百九十近く、細身ながら筋肉質な体型。瞳の色は翠、髪は短く派手な金色をしている。顔立ちは整っており、男前な美男子といったところ。

 一対二十という圧倒的不利なこの状況。にも関わらず拳凰はまるで臆することなく不敵に笑っていた。

 残暑厳しい九月の夜、殺気立つ男達の集まるこの場所は何時にも増して熱気に包まれていた。

「行くぞオラアァァァ!」

 一人の男が、拳を握って飛び出した。プロボクサーさながらの右ストレートが、拳凰に襲い掛かる。しかし拳凰は完璧に見切って余裕でかわし、反撃の左フック。たったの一撃で男を気絶させた。

 一人目が倒されるや否や、二人目の男が金属バットで襲い掛かる。拳凰は掌で受け止めると、握力だけでバットを握り潰した。二人目が驚いて怯んだ隙、拳凰はバットごと持ち上げて投げ飛ばす。

 続いて三人目が木刀を持って前から、四人目がメリケンサックで後ろから挟み撃ちにしようとする。拳凰はハイキックで木刀を粉砕ついでに三人目の顔面に当てて気絶させ、後ろの四人目は振り返りもせず裏拳で撃破。ついでにスタンガンを持って低い体勢で横から襲ってきた五人目も拳骨を振り下ろして倒す。

 そこに中国拳法の構えで跳び蹴りを放ってきたのが六人目。拳凰は両手で受け止めその足を掴むと、ぶん回して逆に武器として利用。七人目と八人目を薙ぎ倒した。

 九人目がチェーンを振り回して投げ、拳凰を拘束する。そこに十人目が釘バットを思いっきり振り下ろした。しかし拳凰は腕に力を籠めてチェーンを引きちぎり、釘バットも難なく避ける。十人目の頭を掴んで持ち上げると、九人目に投げつけ纏めて倒した。

 十一人目は拳凰をも超える長身の大男。巨大な掌で拳凰に掴みかかるが、拳凰は足払いで十一人目の体勢を崩す。倒れた十一人目の下敷きとなって十二人目が気を失う。起き上がろうとする十一人目に対し、拳凰は空高くジャンプ。十一人目の背中を思いっきり踏みつけ、起き上がるのを阻止した。

 次に向かってきたのはバイクに乗って併走する十二人目と十三人目。二人はエンジン全開で体当たりをかまそうとする。しかし拳凰はさっと横にかわし、十三人目のバイクを横から蹴っ飛ばす。二台のバイクはドミノのように倒れ、十二人目と十三人目は投げ出された。拳凰はバイクを一台持ち上げると、地面にうずくまる二人に容赦なく投げてぶつけた。

 バールを持った十四人目は腹パン一発で沈め、催涙スプレーをかけようとしてきた十五人目は低い体勢からのアッパーで粉砕。ついでに十六人目も吹っ飛んだ十五人目と頭をぶつけ合って気絶。

「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 奇声を発しながらバタフライナイフを振り回すのは十七人目。拳凰は落ち着いて刃筋を見切り、膝蹴り一発で撃破。

 十八人目は遠距離から改造エアガンで狙撃してくる。拳凰は撃ってきた弾を全て掌で受け止めると、一気に踏み込んで間合いを詰める。驚いた十八人目の間抜け面に拳がめり込む。そこに火炎瓶を投げてきた十九人目は、拳凰に蹴り返された火炎瓶で自滅した。

「あ、ああ……」

 仲間は全員気絶。残された二十人目は腰が引け、顔が青ざめる。

 最強寺拳凰を倒すため、全国から集められた猛者達。しかし彼らは何一つ決定打を与えることもできず散っていった。最強寺拳凰はあまりにも強すぎる。過酷な現実を前にした二十人目は、絶望に脚が震えていた。

「ち、ちくしょう! うおああああああ!」

 最早ヤケクソになり、鉄パイプ片手に無謀の特攻。仁王立ちする拳凰は無表情で迎え撃ち、拳一発で二十人目を吹っ飛ばした。水飛沫を上げて川に落ちた二十人目は、白目を向いて流されてゆく。

「弱すぎる……あーつまんねえ」

 そう呟いた拳凰はくるりと振り返り、何事も無かったかのように立ち去った。夜の河川敷には、無惨に倒された男達の山が残されるのみであった。


 自宅への帰路を歩む拳凰は、月を見上げながら思う。自分は強くなりすぎた。

 最近はどんな相手と戦っても、まるで手応えを感じなかった。どんなに強敵との戦いを求めても、向かってくる相手は雑魚ばかり。ただつまらなく煮え切らない日々に、拳凰は退屈を覚えていた。

 暫く歩くと、様々な遊具の置かれた公園が見えてきた。昼間は小さな子供達で賑わっているが、この時間帯にはほぼ誰もいない。まるで時が止まったかのように静まり返っている。

 拳凰が公園に近づいた時、ふと空気が変わるのを感じた。先程まで静まり返っていた公園から急に眩しい光が見え、騒がしい爆発音が聞こえた。

(何だ……?)

 不思議に思った拳凰は駆け出し、公園に足を踏み入れる。

 公園では、目を疑うような光景が待っていた。フリフリの衣装を着て可愛らしいデザインの杖を持った二人の少女が、杖からビームのようなものを撃ち合って戦っている。

(何だこいつら? そういやチビ助があんなアニメ見てたな……魔法少女っつったか?)

 二人は似通った服装をしており、星座を模ったデザインのブローチを二人とも胸に付けている。特にアニメに詳しいわけではない拳凰ですら「魔法少女だ」と思うほど魔法少女らしい格好であった。

 一方の魔法少女はオレンジ色の衣装に身を包み、肩下辺りまでのオレンジ髪を後ろで二つ結びにしている。歳は十五歳ほど。杖からは金色のビームを星型の弾にしたものを撃って攻撃している。

 もう一方の魔法少女はエメラルドグリーンの衣装に身を包み、腰まである薄紫色のロングヘア。歳は十二歳ほど。杖からは緑色をした直線状のビームを発射して攻撃している。

 お互いに相手のビームを素早い動きでかわしつつ、次々とビームを連射。夜の公園がビームの明かりで照らされる。戦闘に巻き込まれた公園の遊具が破壊されようとお構いなしに、二人は夢中で戦っている。

(す、凄ぇ……ビームを出せる人間なんて初めて見たぜ……こんな強い奴がまだこの世界にいたのか!)

 二人の戦いを見るにつれ、拳凰の胸が高鳴った。退屈な日常に変化が訪れる瞬間を、その肌で感じた。

 彼女達こそ自分を更なる高みに導いてくれる、ずっと自分の求めていた強敵。ずっと忘れていた興奮が、拳凰の中で沸々と湧き上がった。

「お前ら! 俺と戦え!!」

 いてもたってもいられなくなった拳凰は飛び出し、二人の戦いに乱入しようとする。

 だがその瞬間だった。オレンジ髪の魔法少女が撃った魔法弾が、目標を大きく逸れて拳凰にぶち当たった。

「あばびゅっ!」

 爆発する魔法弾。間抜けな断末魔を上げた拳凰は、白目を向いてその場で気を失った。戦いに集中する二人の魔法少女は、その存在に気付いてもいない。

 ボロクズのように倒れる拳凰を意に介することもなく、二人の魔法少女は戦いを続けていた。

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