斬られ役、傾(かぶ)く


 279-①


 シルエッタの処遇も決まり、後片付けも終えた武光は、ナジミと二人で魔王城の周囲を散歩していた。


「やれやれ、ようやく一件落着やな」

「……助けに来てくれて本当にありがとうございました、武光様。やはり貴方は、私の見込んだ勇者様です!!」

「よせよせ、照れ臭いわそういうの。それより……面倒事は片付けたし、これで思う存分イチャついても怒られへんやろ?」

「えー? 武光様ったら……やだもう」


 イチャつく二人だったが…… 


「「「「そこまでだ唐観武光……!!」」」」


 突如として頭上から降り注いだ声に、二人は天を見上げた。


 二人の頭上にそれぞれ、赤・青・黄・緑に輝く四つの光球が浮かんでいる。


 火神ニーバング・水神シュラップス・地神ラグドウン・風神ドルトーネが武光とナジミの前に降臨したのだ。


「ゲェーッ!? あれは……神様達!?」

「武光様、平伏して下さい!!」

「お、おう!!」


 ゆっくりと降下してくる神々に対し、ナジミは即座に平伏し、武光もナジミにならって平伏した。


「二人共、面を上げよ」


 地神ラグドウンの言葉を聞き、武光とナジミは顔を上げた。

 ピリピリとした雰囲気を感じながら、武光は恐る恐る質問した。


「あ……その、ご無沙汰しております。本日はどう言ったご用件で……?」


 武光の質問に、ラグドウンは答えた。


「唐観武光よ……お主を……元いた世界に送り返しに来た」

「えっ!?」


 突然の事に戸惑う二人をよそに、風神ドルトーネが告げる。


「君は今回、不正な手段でこちらの世界に渡ってきた……本来なら、問答無用で抹殺に値する大罪だ」

「ゲェーッ!? ままま抹殺ぅぅぅ!?」


 物騒過ぎる言葉に、武光はビビリまくった。


「……しかし、君には魔王を討伐し、この地に平穏をもたらしたという功績がある……よって、その事は不問にしてあげよう。だが……不正な手段で渡ってきた者をいつまでもこちらの世界に置いておくわけにはいかない」

「お待ち下さい!! そんな急な──」

「我々に逆らうというのですか? アスタトの巫女よ」


 抗議しようとしたナジミの言葉を水神シュラップスが遮った。


「勝手に渡って来た罪は不問に付します。しかし、彼が必要以上にこの世界に居座り続けるというのであれば、不本意ながら……我々は彼を排除しなければならなくなります。彼を送り返すというのは……我々の慈悲なのです」


 崩折れそうになるナジミの肩を抱いて支える武光に、今度は火神ニーバングが語りかける。


「安心しな。お前を元の世界に戻した後、万が一アスタトの巫女が危機に襲われるような事があれば、その時は俺達が──」

「その時は、不正だろうが何だろうが……どんな手を使ってでもこっちの世界に来て……俺はナジミを守ります!!」


 ニーバングの言葉を遮り、武光は断言した。


「お前……俺達の話を聞いてたか?」

「僕は言ったはずだよ、不正な手段でこちらに渡ってきた者は問答無用で抹殺──」

「ほんなら……バレへんようにやります!!」


 ニーバングとドルトーネの言葉に対し、武光は言い放った。


「正気か、お主!?」

「心配なのは分かりますが、アスタトの巫女は我々が責任を持って神の加護を与えて庇護します」


 ラグドウンとシュラップスの言葉に対し、武光は悪役らしくニヤリと笑った。


「へのつっぱりは……いらんですよッッッ!!」


 ……四神は思った。


(言葉の意味はよく分からんが、とにかく凄い自信だ!!)


 ……と。


 しかしながら、武光の言い放った内容は神々にとって、到底看過出来るものではない。


「武光よ……お主、我らの命に従わぬと申すか……!?」

それがし、天下御免の斬られ役なれば!!」


「君の言っている事は、大いなる掟を破るという事なんだよ!?」

「掟破りは悪役の特権にござる!!」


「大いなる掟を破るという事は、神々をも敵に回すという事なのですよ!?」

「掟破りは悪役の魅せ場にござる!!」


「掟を破ってでもソイツを守るってのか……!!」

「掟破りは……悪役の華なればッッッ!!」


 問い詰める神々に対し、武光は悪びれもせず、大胆不敵にかぶいたが、言い終わった瞬間、武光はナジミにぶん殴られた。


「ちょっ、おまっ!? いきなり何すんねん!?」

「武光様のバカーっ!! か、神々に対し何と無礼な!! そんなのが格好良いとでも思ってるんですか!? そんなの格好良さ2点です!! 2点!! 本当に抹殺されちゃったらどうするんですかーーーっ!?」

「に……2点!? それって……2点満点で、やんな……?」

「100点満点で、ですっ!!」

「はぁぁぁっ!? ちょっ……神様今の聞きました!? ヒドないスか!?」


 格好良さ2点の男は、神々に同意を求めたが、神々からすれば、『知らんがな』である。


「ほんなら……お前が逆の立場やったらどうすんねんコラーーー!?」

「私は武光様みたいに掟破りなんてしないですもん!! きちんとお許しを頂いてから助けに行きますぅぅぅ!!」

「そのお許しとやらが貰われへんかったらどうすんねん!?」

「神々を呪いまくってでも私はきちんとお許しをもらいますぅぅぅ!!」


「「「「えぇー……」」」」


 ……神々は呆れて溜め息を吐いた。


 地神の溜め息が武光とナジミの足元を揺らし、火神の溜め息に含まれる熱気と水神の溜め息に含まれる水気みずけが混ざり合ったものが風神の溜め息に乗って二人の間を吹き抜けた。


 四神は一度上空まで上昇し、何かを話し合った後、再び降下してきた。


 四神を代表してラグドウンが武光に告げた。



「協議の結果……お主に新たに作った神具を授ける事にした」


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