聖女、歩み始める


 278-①


 ニセシルエッタの公開処刑を終えた一同の下に、マナと一緒に離れた所で様子を見ていた本物のシルエッタがやってきた。


「皆さん……本当にありがとうございました」


 深々と頭を下げたシルエッタに武光と影光が声をかける。


「本当に大変なのはこれからやぞ?」

「お前は一生をついやしても償いきれねぇ罪を背負ってるんだ」

「……分かっています」


 顔を上げたシルエッタに、今度はミトが話しかけた。


「シルエッタ=シャード……貴女には『その生命ある限り、少しでも多くの罪を償う』という事以外を考える資格はありません」

「……はい」

「貴女には監視を付けます、決して妙な気を起こさぬよう」


 それを聞いたナジミが勢いよく手を挙げた。


「ハイ!! 姫様、シルエッタさんの監視のお役目、私にやらせて頂けないでしょうか!?」

「えっ?」


 ナジミの申し出に、シルエッタは戸惑った。


「シルエッタさん……私は今後、今回の争乱で傷付いた人達を治療して回るつもりでいます。もし良かったら一緒に来ませんか? その……姫様のお許しが頂ければですが……」


 ナジミが視線をミトの方へると、ミトは頷いた。


「良いでしょう……但し、監視とナジミさんの護衛を兼ねて、天照武刃団を同行させる事!! 良いわね?」

「ありがとうございます、姫様!!」


 ミトの判断に対し、シルエッタは恐る恐る質問した。


「ミト=アナザワルド……殿下、本当によろしいのですか? 私は──」

「すぐそこに、本来ならば不敬罪で200回以上処刑せねばならない者がいます」

「ナジミ……お前ミトに謝っといた方がええんとちゃうか?」

「貴方よ、貴方!!」


 ミトは武光にツッコんだ。


「200回以上も大罪人を見逃しているのです、一度くらい増えたところで大した違いは無いでしょう。それに……」

「それに?」


 ミトは、打ち合わせの際に、シルエッタの身の上を知った。

 だからと言って、国を乱し、民を傷付けた事は断じて許される事ではないと思う一方で、今回の争乱の原因の一端がアナザワルド王家にもあると感じた。

 もちろん影光からの脅しも理由の一つだが、それ以上に、彼女に対しての贖罪しょくざいの意味も込めて、国の法を破る事となっても生命を助ける事にしたのだ。ただ、それを口にするのは、恩着せがましく傲慢だと感じたミトは、小さく首を左右に振った。


「……いえ、何でもありません。ただ、これだけは言っておきます。ナジミさんは私の掛け替えの無い友人です、もし彼女の優しさを裏切るような事があればその時は……私自ら貴女を八つ裂きにします!!」

「……しかと心得ました、殿下」


 深々と頭を下げたシルエッタに影光とマナが声をかける。


「心配するな、困った時は、俺もマナもいる。俺達も手伝ってやるから」

「はい、師匠の言う通りです!!」

「しかし、貴方達に迷惑をかけるわけには……」

「オイオイ……お前、さっきのミトの話聞いてなかったのかよ? お前には、そんな下らん事を考える資格は無い!! 俺達が力を貸す事で、より多くの罪が償えるなら、遠慮も躊躇もするな、俺達を頼れ!!」

「私達を頼って下さい、姫様!!」

 

「あ……ありがとう……14号、マナ……」


 溢れる涙を堪えきれないシルエッタだったが、そんなシルエッタを前にして、武光は懸念けねんを口にした。


「でも、ナジミ……シルエッタを連れて回るのは危ないんとちゃうか? さっきの映像で国中の人に顔を知られてしもたし……暗黒教団に恨みを持つ人達に襲撃されたりせぇへんか!?」

「ふっふっふ、大丈夫です武光様。私に素晴らしい考えがあります……!!」


 そう言うと、ナジミはゴソゴソと何かを取り出した。


「それは……お前が正体隠すのに使っとった狐の面!?」

「いや……猫ちゃんなんですけど!!」

「いや、狐やん!?」

「猫ちゃんです!!」

「いや、どう見ても狐やん!?」

「ねーこーでーすー!!」


 揉める武光とナジミを見て、ガロウがフォルトゥナを引っ張って来て、ナジミの前に立たせた。


「オサナの妹よ、猫というのはコイツみたいな奴の事を言うんだぞ?」

「なっ!? 誰が猫だーーーっ!! アタシは虎だって何回言わせ──」

「えっ? 似てるじゃないですか?」


 ナジミの言葉に、その場にいたほぼ全員が唖然とした。


「うわ……読心能力でコイツの思考を読んだけど……本気よ、コイツ」


 ヨミの言葉に、その場にいたほぼ全員が戦慄した。


「とにかく、これで正体を隠せば完璧です!! 一緒に頑張りましょう、シルエッタさん!!」

「はい、ありがとうございます……ナジミさん」


 こうして、シルエッタ=シャードは、生涯を懸けた贖罪しょくざいの道を歩み始める事となった。


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