魔王城、迎撃する(前編)


 252-①


 出発から三日が経過し、進軍を続ける魔王城は、肉眼でうっすらと暗黒樹の姿を確認出来る距離に到達した。


「こちら司令室。観測班、暗黒樹の様子はどうだ!?」


 七階建ての魔王城の第六階層にある司令室には城の各所に繋がる伝声管が設置されている。影光が観測所に繋がる伝声管を通じて質問すると、すぐさま返事が返ってきた。


『こちら観測所、見たところ……まだ影魔獣の実の落下は始まっていない模様、今のところ外側から核の位置は判別出来ません』


 報告を聞いた影光は小さく頷いた。


「分かった、引き続き監視を頼む。何か異変があったらすぐに報告してくれ」


 伝声管の蓋を閉じて通信を終えた影光はううむと唸った。


「出来れば核に直接この城の穿影槍をブチ込んでやりたい所だが……」

「アンタも影魔獣なんだし、影魔獣同士、核の位置は分かるんじゃないの?」


 ヨミからの質問に影光は首を捻った。


「どうだろう……まだ距離があるからなー」


 だが、暗黒樹の輪郭がハッキリと目視出来る距離まで接近しても、影光は核の位置を感じ取る事が出来なかった。影光は傍らのシルエッタに質問した。


「おい、シルエッタ。核の気配が微塵も感じ取れないんだが、外側から核の位置を特定する方法は無いのか?」

「すみません、私にもそれは──」


 その時、敵の接近を告げる鐘の音が鳴り響いた。


 伝声管を通して、観測所からの警告が城全体に響いた。


「敵が接近してきます!! 鳥型影魔獣……いや、鳥型だけじゃありません!! 鳥型が人型を抱えている模様!! 数は……鳥型・人型合わせておよそ五百です!!」


 報告を聞いた影光はヨミの方を向いた。


「聞いたなヨミ」

「ふふ……任せなさい、飛べる連中を引き連れて、全部叩き落としてやるわ!!」


 読心能力を持つヨミに、言葉による詳しい説明は要らない。影光は弓隊と術士隊が待機している部署に繋がる伝声管を開いた。


「カクさん、それにリョエン先生とキクチナはいるか!?」


 伝声管を通じてすぐさま返事が返ってくる。


『ああ、いるぞ影光殿!!』

『こちらリョエンです、キクチナ君もいますよ!!』

「ヨミが飛べる連中を率いて敵の迎撃に向かった。カクさんは弓隊を、リョエン先生とキクチナは術士隊と投光器部隊を指揮してヨミ達を援護してくれ!!」

『承知した影光殿!!』

『分かりました!!』


 対空迎撃の指示を出した影光が次に遊撃部隊が待機している場所に伝声管を繋ぐと、フリードが応答した。


「フリード、そこにいる各隊に伝えろ!! 各隊は弓隊や術士隊の護衛に付いて、もし迎撃をくぐって侵入して来た敵がいたら排除しろと!!」

『任せとけ、アニキの影!! 行くぞ、クレナ、ミナハ、アルジェ!! 他の隊も担当の迎撃箇所へ向かって弓隊や術士隊の護衛を!!』


 天照武刃団を始めとする遊撃部隊に指示を出し終えると同時に、今度は制御室で待機していたキサイから伝声管通信が入った。


『影光さん、空からの敵は陽動の可能性があります、下からの襲撃にも警戒しておいて下さい!!』


 キサイからの通信が入った直後、観測所から『前方の地中から敵が出現した!!』との通信が入った。すぐさま別部屋で待機していたロイから通信が入る。


『我ら冥府の群狼が迎撃する、足場を下ろしてもらおうか』

「頼む、シュワルツェネッ太!!」


 一通りの迎撃指示を出し終えた影光は伝声管を使い、城全域に声を送った。


「皆聞いてくれ、どうやら暗黒樹の核に狙いを定める時間は無さそうだ。魔王城はこれから全速力で暗黒樹に突っ込む!! 全員、衝突が近くなったら各自の判断で城内に退避し、衝撃に備えろ……本番前に死ぬんじゃねーぞコノヤロー!!」


 252ー②


 魔王城の外壁には、弓兵が敵に頭上から矢を射掛ける為の足場がいくつも張り出しており、リョエンとキクチナの師弟は王国軍の術士部隊十数名を引き連れて、そのうちの一つ、魔王城正面三階に位置する足場に駆けつけた。

 空を見上げると、頭上ではヨミが率いる飛行能力を持つ魔族の部隊と人間程の大きさがありそうな巨大な鳥型の影魔獣の群れが激しい空中戦を繰り広げている。


「キクチナ君、雷導針を!!」

「は、はいっ!! リョエン先生!!」


 キクチナが雷導針を風神弩に乗せて放つ。次々と放たれる雷導針が神の風に乗り、複雑な軌道を描きながら影魔獣に突き立ってゆく。 

 それを確認したリョエンが右手に黒い手袋をめ、その手を頭上に掲げた。


「雷術……」


 リョエンの頭上に、一抱えもありそうな青白い光球が形成される。


震天霹靂しんてんのへきれき!!」


 光球が弾け、幾条にも分かれた稲妻が雷導針の刺さった影魔獣に襲いかかる。

 影魔獣には、電撃そのものによるダメージは与えられないが、稲妻が放つ強い光は、影魔獣の表面を焼き、一時的に動きを止める。


 空中で動きを止めた影魔獣は、ある個体はそのまま遥か下の地面に叩きつけられ、またある個体は空中で魔族達の手によってバラバラに引き裂かれた。


「うむ、見事な弓術と雷撃だ、人間よ!!」


 頭上から声が降ってきた。リョエンとキクチナが声のした方を見上げると、二階層上の外壁にある足場で、リュウカクが身の丈程もありそうな強弓で、手槍の如き巨大な矢を放っていた。


 巨大な矢を軽々と放つリュウカクを見て、リョエンとキクチナの師弟は唖然とした。


(あんな巨大な矢をあれほど遠くまで飛ばすとは……)

(あ、あの竜人の方は私と違って、修練だけで百発百中の域に達している。す、凄い……!!)


「む!? 気を付けろ人間!!」


 四体の鳥型影魔獣の編隊が、キクチナ達がいる足場を目掛けて武光の世界で言うところの爆撃機のように、抱えていた人型影魔獣を投下した。

 投下された人型影魔獣は足場に着地し、キクチナ達を襲撃ようとしたが……


「火神穿影槍!!」

「水神驚天動地!!」

「地神剣盾!!」

「ブラックキングナックル!!」


 駆けつけたフリード、クレナ、ミナハ、アルジェの四人が、投下された四体の人型影魔獣を瞬く間に殲滅した。


 フリードが黒王紫炎咆で空中の敵を焼き払いながら叫ぶ。


「来るなら来やがれ!! 全員……ブッ潰す!!」


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