魔王(娘)、説明する


 216-①


 シルエッタの言葉を聞いて、影光は首を傾げていた。


「すまん、全然話が見えてこないんだが……マナ、説明してくれ」

「は、ハイ……そもそもシャード王国というのは、えっと……その……およそ三百年前にこの地に存在した──」

「口を慎みなさい!! 過去形で語るなど……シャード王国は今もなお滅びてなど……うぐっ!?」


 影光はベッドの上にうつ伏せに転がされているシルエッタのあごをクッと持ち上げて強制的に黙らせた。


「少し黙ってろよ、お前。話が先に進まねぇだろうが……あんまりガタガタ騒ぐようなら《バーチカルねずこ地獄》の刑で無理やり黙らせるぞ?」

「し、師匠!? まさか姫様に……そんな恐ろしい事をしようと言うのですか!?」


 影光の言葉を聞いて、マナが恐怖のあまりガタガタと震えている。顎から手を離されたシルエッタは恐る恐る影光に問うた。


「一体何なのですそれは? 一体この私に何をしようと……!?」

「……細い竹筒を咥えさせて無理やり黙らせる」


 シルエッタは拍子抜けしてしまった。どんなに残虐な拷問かと思ったら、家畜のように口枷くちかせをはめられるだけか……確かに屈辱的ではあるが、マナがそこまで怯える程の──


「……しかも縦にな!!」

「縦!?」


 喉の奥まで竹筒を無理やり突っ込まれるのを想像してしまい、シルエッタは、ほんの少し気分が悪くなった。


「や、やめて下さい師匠!! そんな事をしたら姫様が『おぇっ』ってなってしまいます、『おぇーっ』って!!』


 そですがりついて慈悲を懇願するマナに対し、影光は小さく息を吐くと、シルエッタに向き直った。


「ふん…………弟子に免じて《バーチカルねずこ地獄》は、ひとまずやめてやる。だがこれ以上騒ぐようなら、分かるな?」

「くっ……」

「マナ、続きを」

「ハイ……」


 影光に促されてマナは語り始めた。


 マナによれば、シャード王国というのは、およそ三百年前にこの地を襲った、帝国による影魔獣を用いた大規模侵攻事件が起きた当時、この地を統治していた王朝であり、現在のアナザワルド王朝の一つ前の旧王朝であったらしい。


「で……? コイツはその大昔の王国の姫様って事か?」

「はい、その通りです師匠」

「でも、どうしてそんな大昔の人間がここに……?」

「それは……すみません師匠、そこまでは私にも分かりかねます……」


 影光とマナの疑問にシルエッタが答えた。


「私は……シャード王家に代々伝わる秘術中の秘術……《時渡り》によってこの時代に辿りつきました……そう、忌まわしきあの日から三百年もの時を超えて……!!」



 シルエッタは……自身の過去について語り始めた。


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