嘆きの聖女編

聖女、囚われる


 215-①


(ん……ここは……?)


 シルエッタは目を覚ました。そして体を動かし起き上がろうとしたのだが──


「んむっ!?」


(声が出せない!? それに手足も動かせない!?」


 シルエッタは両手首を後ろ手に縛られ、左右の足首には頑丈そうな足枷もはめられていた。

 うずくような痛みの残る頭を回転させ、シルエッタは状況を把握しようとした。


 部屋の広さや置かれている調度品の質、それに自分が寝かされていた寝台の大きさから見て、どうやら自分が今いるのは、どこかの城か、大きな屋敷の寝室、それも身分の高い者の為に用意された部屋……だと思う。

 最初はソウザン城内のどこか……とも思ったのだが、こんな部屋は無かったはずだ。

 あの時、ロイ=デストの凶刃から逃れようと、咄嗟に『とにかく一番安全な場所へ!!』と念じたのだが……咄嗟に影転移の術を発動した事に加え、実験体14号の妨害によって、転移に失敗してしまったのかもしれない。一体どこに飛んでしまったのか見当も──


(いいえ……違う)


 シルエッタの中の記憶が急速に鮮明になってゆく。


(この場所を私は知っている……そう、この場所は……この部屋は……!!)


「おっ、目ぇ覚ましたなコノヤロー」


 部屋に入ってきた影光を、シルエッタはキッと睨みつけた。


「ジッとしてろよ? 拡声装置でソウザン城内に突入した味方に撤収指示も出したし、お前には色々と喋ってもらうからな!!」

「んんっ」


 猿轡さるぐつわを外されたシルエッタは息を吐くと、怒りに声を震わせた。


「14号……よくもこの私に……このような!!」

「そ、そうですよ師匠!! こちらの御方は……」


 影光に続いて現れた人物を見て、シルエッタは目を見開いた。


「そんな……貴女が何故ここに……マナ!!」

「や、やはり……姫様なのですね!?」

「ちょっと待ったぁっ!!」


 目に涙を浮かべてシルエッタに駆け寄ろうとしたマナを影光が引き止めた。


「師匠!?」

「まずは説明してもらおう、コイツは一体どこの誰なんだ?」

「し、師匠!? ゆ、指を差さないで下さい!! こちらの御方は、シャード王国第一王女…………シルエッタ=シャード殿下にあらせられます!!」


 それを聞いた影光は驚愕の叫びを上げた。


「な、何ぃぃぃぃぃっ!? シャード王国第一王女、シルエッタ=シャード殿下だとおおおおおっ!?」

「はい、師匠!!」

「……で、誰だソレ?」


 マナは ズッコケた!!


「うむ!! 早すぎるとわざとらしい、遅すぎるとしらけてしまう……早すぎず遅すぎず、丁度良いタイミングのリアクションだ……腕を上げたな、マナ!!」

「師匠との修行の成果です!!」

「……楽しそうですね、貴方達」

「「あっ」」


 影光とマナの師弟は小さく咳払いをすると、影光は改めてマナに質問した。


「で? どこにあるんだ、その……えーっと、シャード王国だっけ?」

「シャード王国は……その……遥か昔に滅びてしまった──」

「お黙りなさい!!」


 シルエッタの叫びに、影光とマナは思わず身を硬くした。いつも浮かべている微笑からは想像も出来ない、鬼気迫る凄絶な表情に影光は般若の姿を見た。


「この私がいる限り、シャード王国は滅びてなどいない……!! あの賊共の打ち立てた国など断じて認めない……!!」


 シルエッタは怒りと憎しみの込もった声を絞り出した。



「この地はアナザワルド王国などではない!! この地は……我がシャード王国です!!」


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