斬られ役(影)、締め上げる


 212-①


 自分の下に戻って来い……そう言って手を差し伸べてきたシルエッタに対し、影光は手を取ると見せかけてヒップバットを喰らわし、倒れたシルエッタに流れるような動きでSTF(=ステップオーバー・トゥホールド・ウィズ・フェイスロック)を極めた。


「影光め……味な真似を」

「ヨカッ……タ……」

「全く……ヒヤヒヤさせないで下さいよ、影光さん……」


 小さく安堵の溜め息を吐いたガロウ、レムのすけ、キサイの三人をヨミは鼻で笑った。


「やれやれ……アンタ達、あのバカが本当に裏切るとでも思ってたの?」

「ムッ、そういうお前はどうなんだ小娘?」

「フン、バカねぇワンコオヤジは。私には読心能力があるのを忘れたの?」


 自慢気に笑うヨミに対し、キサイは首を傾げた。


「あれ……? でもヨミさん、先程『』って……読心能力を使用していたのなら僕達の思考も読めるんだからさっきの質問をする必要はありませんよね……つまりそれって」

「は、ハァァァ!? ワケ分かんない事言ってんじゃないわよガリ鬼!! ……ちょっと、ワンコオヤジとイワ男、何ニヤニヤしてんのよ!? 黙って目の前の敵を倒しなさいよ!!」


 影光はそんな仲間達を見て苦笑しつつ、シルエッタを締め上げた。


「く……ああああああああっ!?」


 今まで味わった事の無い痛みにシルエッタは悲鳴を上げた。

 シルエッタは涙目になりながら声を絞り出した。


「な、何故です……何故……私の下に戻れば、あんなけだもの共より、よほど優秀で忠実な配下をいくらでも──」

「ハァ……この……バカヤローーーーーー!!」

「ふぐぅっ!?」


 影光は大きな溜め息を吐くと、シルエッタをSTFを極めたまま、左手で『屈辱の鼻フックの刑』を喰らわせつつシルエッタの顔を階下に向けさせた。


「仲間ってのはなぁ……ああやって喧嘩したり、支え合ったり、笑い合ったりしながら自分自身で作っていくからこそ価値があるんだ!! コピペで簡単に作れるもんじゃねーんだよ、分かったかコノヤロー!!」


 シルエッタを締め上げ続ける影光に対し、ガロウが叫ぶ。


「……で、影光よ。次はどうするんだ!?」

「…………何が!?」

「いや、捕まえたのは良いとして、お前も寝技の体勢だと、そこから一歩も動けんだろうが!!」

「あっ…………」


 そう、ガロウの言う通り、シルエッタを捕らえたは良いものの、寝技であるSTFの体勢だとその場からほとんど動く事が出来ない。だが、技を解けば、解いた瞬間にシルエッタは影転移を使ってその場から逃走するに違いない。


「お前……また勢いだけでやったな!?」

「グォモ……アホ……ダ……!!」

「あぁ、何て無策な……」

「ぐぬぬぬ、ちょっと待て今考えるから……………………よしっ!!」


 影光は肉体の形状変化の能力を使い、背中から四本の太い触手を “ずるん” と生やした。

 影光は触手を脚の代わりに床に着き、シルエッタを捕獲したまま体を持ち上げる事に成功した。


「ふふーん、どうだお前ら!! これで完璧だ!!」

「……うわっ、キモっ!! これ、チビ共が見たらギャン泣きするわね」

「えっ」


 触手を器用に使い、前後左右にカサカサと動いていた影光だったが、ヨミの言葉を聞いて、触手はしなしなになり、影光の背中にスルスルと力無く戻って行った。


 頭を悩ませる影光だったが、その思考はガロウの叫びにかき消された。


「影光、気をつけろ!! 行ったぞ!!」

「え!?」


 影光の前に一つの影が降り立った。


「女……貴様も暗黒教団の幹部だな、捕縛する」

「ゲェーッ!? シュワルツェネッ太ーーー!?」



 影光の前に、意識を取り戻したロイ=デストが立ちはだかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る