聖賢者、戦慄する
196-①
魔王城が突っ込んで来た……報告の内容は到底信じられるものではなかったが、ロイは『報告の内容』ではなく『報告してきた部下』を信じる事にした。自分の部下に戦闘の真っ最中に下らない冗談を言う者など一人もいない。
「魔王城から魔族の群れが一直線にこの城に向かってきている模様です!!」
報告を受けてロイは舌打ちした。
「全く、面倒な……!!」
「それと赤ちゃんオオカミが重症です」
「何だと……アルジェが!?」
「どうもあの赤ちゃんオオカミ……完全習得出来てないのに冥河入水をやったらしくて……」
「そうか……」
ロイは拳を握りしめると、未だ前髪を掴んだままの聖勇者に告げた。
「また一つ……貴様を殴る理由が出来た」
「ヒイッ!? も、もうやめ──」
「無理だな」
「ぐはぁっ!?」
ロイの渾身の鉄拳が顔面にめり込み、聖勇者は石壁に叩きつけられて完全に気を失ってしまった。
「で、アルジェはどうした?」
「はっ、ミト姫様の親衛隊長が保護してくれたようです」
「何と……あのじゃじゃ馬姫まで来ているのか……?」
「はい、親衛隊を引き連れて『大叔父上様のご機嫌伺いに』と……」
「フフ……そうか、『ご機嫌伺い』か……いかにもあの姫君らしいな。さてと……」
「ヒッ!?」
ロイは、先程からガタガタと震えっぱなしの聖賢者に視線を向けた。
「貴様に選択肢をやろう……一つは大人しく我々に降伏し、知っている事を洗いざらい吐く。もう一つは私と刃を交える……」
言いながら、ロイは死にかけの虫のようにビクビクと
「賢者とは『賢き者』の事……何が賢明な判断か……分かるな?」
「しゃ、喋ります!! 喋りますから!! だから助け……ギャッ!?」
「!?」
突如として天井をぶち抜いて現れた人型影魔獣が右腕を剣状に変化させ、聖賢者の背中を斬りつけた。聖賢者の背中を斬りつけた影魔獣が言葉を発した。
「貴様……王国軍の落ちこぼれ術士だった貴様に目をかけて、暗黒教団の幹部にまで取り立ててやったというのに……この私を裏切るというのか……!!」
影魔獣の発した言葉を聞いた聖賢者は驚愕に目を見開いた。
「ま、まさか……貴方様は!?」
影魔獣が姿を変えてゆく……頭部の表面が波打ち、目や鼻や口が形成されてゆく。良く知った顔を前に聖賢者は戦慄した。
「きょ……教皇陛下!!」
教皇が 現れた!!
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