魔王(娘)、遺志を語る


 184-①


 魔王城がホン・ソウザンに到達するまで残りおよそ二時間……マナの召集を受けた城内の魔族達は魔王城一階の大広間に集結していた。


 決戦を前に、気炎万丈きえんばんじょうといった様子の魔族達の前に、二階へと続く大階段からマナが姿を現した。

 階段から降りてきたマナの出で立ちを見て、魔族達は騒ついた。


 普段の美しく優雅なドレス姿ではない。マナは金の装飾が施された漆黒の女性用甲冑をその身にまとっていた。


 マナは階段の踊り場に立つと、眼下の魔族達を見回すと、胸に手を当て、一つ息を吐いた。


「皆さん、この戦いの結果によって……我々がこの世界で生きてゆけるかどうかが決まります。現在、この城には本島に残った魔族のほとんどが集結しています。もし敗北すれば私達は一人残らず荒野に屍を晒す事になるでしょう……ですが、私は我が父……魔王シンの遺志を果たすまで、散るわけにはいきません……」


 マナの言葉に魔族達は息を呑み、そして次の瞬間、言葉を失った。


「そう……我が父の望み、『魔族と人が手を取り合い共存出来る世界』を作り上げる為に!!」


 マナの放った言葉によって困惑とざわめきが広がってゆく。


 古の魔王の遺志が『魔族と人が手を取り合い共存出来る世界』だというのか……そして魔王の娘がその遺志を引き継ぐと……マナの望みが人間との和睦だと知り、魔族達の中には明らかに殺気立ち始めた者もいる。

 無理も無い。今ここにいる魔族達は、三年前の大戦で魔王シンが勇者リヴァルに敗北し、各種属が次々と自分達の本拠地の島へと撤退する中、徹底抗戦を主張して本島に居座り続けた連中なのだ。このままでは怒りが爆発してマナに襲いかかりかねない。


 そう感じた影光は、誰かが暴発する前に、奇声を発した。


「☆%f¥+?q~ーーーーーーーっ!!」


 影光が突然上げた奇声に、怒りを露わにしていた連中も思わず『え? 何て?』となった。そして、暴発寸前だった連中の怒りが一瞬途切れた隙を突いて、影光はマナに詰め寄った。


「オイ!! どういう事だコラァ!!」


 俳優である武光から生み出された影光である。影光は、訓練されたよく通る声で、周りが引く程の怒声をマナに浴びせかけたが、次の瞬間、影光は突如として股間を押さえてうずくまった。


「どうした影光!?」


 ガロウが影光に声をかけた次の瞬間……


「ぎ……ぎゃあああああああああーーーーーっ!!」


 影光は、思わず耳を塞ぎたくなるような凄まじい悲鳴を上げた。


「だ、大丈夫か影光ーっ!?」


 ガロウの呼びかけに、影光は声を絞り出した。


「ち……」

「……ち?」

「ち……ち○ちんがじ切られるっ!! た、玉がり潰され……ぎぃゃあああああああああーーーーー!?」


 影光の苦痛に満ちた叫びを聞いて、その場にいた野郎共は思わず内股うちまた気味になった。

 そして悶え苦しむ影光をマナは表情一つ変えずに冷酷に見下ろしている。

 戦慄する魔族達に、影光は震える声で警告した。


「み……皆、動くな!! ここは大人しくマナの話を聞くんだ!! さもないとお前らも……ぎゃあああああ裂かれる!! ち……ち○ちんがズダズダに引き裂かれるううううう!! ハァ……ハァ……や、やめろ……やめてくれぇぇぇぇぇ!!」


 野郎共はもはや完全に内股だった。大広間が静まり返ったのを見た影光は、小声でマナに語りかけた。


「……よし、舞台は整えた。頑張れ!!」

「はい、師匠!!」



 マナは小さく頷くと、影光との打ち合わせを思い返しながら語り始めた。



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