少女(銀)、入水する
166-①
フリード達を先に行かせる為に足止めを買って出たアルジェは、たった一人でカイコウオウと対峙していた。
「くっ!!」
カイコウオウの突進を、アルジェは最強部隊で鍛えあげられた身体能力と反射神経を駆使して何とか回避し続けていたが、徐々に追い詰められていた。
だが、アルジェもただ単に追い詰められていたわけではない。追い詰められながらもカイコウオウの動きの特徴を掴んでいた。
……奴は、本物の鮫と同様に、前進は出来ても後退は出来ない。つまり……
「背後を取り続ければ……殺れる!!」
そして、それを実行する為には、ある技を使わなければならなかった。
アルジェは深く息を吐き、呼吸を整えた。
「……《
……追い詰められ、生命の危機に陥って死に物狂いになった人間は、平常時とは比べものにはならない、尋常ならざる力を発揮する。
《冥河入水》は苛烈な鍛錬により、自らの意思で、その《死の一歩手前の領域》に踏み込んで限界を超えた力を引き出す、第十三騎馬軍団に伝わる秘技である。
但し、限界を超える力を引き出すという事は、反動で体に凄まじい負担がかかるという事でもある。この力を使い過ぎると、死の河に押し流され……生命を落とす。
……《
「はぁぁぁっ!!」
アルジェはカイコウオウの突進を回避して、背後に回り込むと、カイコウオウに併走しながら、左腕の
死角に入り込まれたカイコウオウはアルジェを振り切ろうとするが、アルジェは距離を取ろうとするカイコウオウに対し、コバンザメのようにピタリと張り付いて執拗に攻撃を繰り出し続ける。
「うらあああああああああッッッ!!」
アルジェは目を血走らせ、鼻血をボタボタと流しながら敵を斬りつけまくった。敵の再生速度を上回る速さで肉体を削ぎ落とし続け、そしてとうとうカイコウオウの
「これでトドメ…………うっ!?」
「ガハッ!? ゲホォッ!!」
激しく
うつ伏せに倒れてしまったアルジェは何とか立ち上がろうとしたが、腕に力が入らず、潰れたカエルのように再び
アルジェの視線の先では、カイコウオウが『よくもやってくれたな……!!』と言わんばかりに、悠然とアルジェの方に向きを変えている。
「うっ!?」
そして、目があった瞬間、カイコウオウが迫って来た。アルジェが死を覚悟したその時だった!!
“ドォォォンッッッ!!”
カイコウオウは、突如として激しい閃光と轟音に包まれ、動きを止めた。そしてその隙を突いて、カイコウオウに肉薄した影が、手にした剣でカイコウオウの
アルジェは、ぼんやりと
「ちょっと貴女、しっかりしなさい!!」
「大丈夫ですか!?」
「あ……あんた達は一体……?」
……アルジェの意識はそこで途切れた。
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