斬られ役(影)、アトランティスる。


 149-①


「ハァ……ハァ……影光はまだか……!?」


 影光がキョウユウと死闘を繰り広げているその頃、謁見の間の扉へと続く長い一本道の通路では、影光以外の天驚魔刃団メンバーが、押し寄せるキョウユウの配下の兵を防ぎ止めていた。


「グゴゴ……ココハ……トオサナイ……!!」

「あと少し、あと少しできっと影光さんがキョウユウを討って出てくるはずです……!!」

「ったく……何手間取ってんのよあのバカ……!!」


 影光はキョウユウの戦意を削ぐ為に、『お前の手下は全員斬った!!』などと大法螺おおぼらを吹いていたが、実際の所は絶賛戦闘中だった。



 ……およそ15分前 



 キョウユウと同じ種族で、直属の配下でもある《凶鰐きょうがく族》の兵士達は判断が遅れた。


 魔王城周辺に各種族の軍勢が現れた際、集結した軍勢がキョウユウを褒め称える歌を盛大に歌っているのを聞いて、謀反だと気付かずに魔王城を三重に囲む城壁の内、第一の壁の内側に招き入れてしまったのだ。


 その後、各種族のおさ達は、『魔王様に祝いの品を献上する』『至急指示を仰ぎたい案件が出来た』など、何かと理由を付けて、自軍の精鋭部隊を引き連れて城内に入城し、そしてその中には天驚魔刃団もいた。


 流石に俳優である。影光は『魔王様からの密命の件で』などと、その演技力と口八丁手八丁くちはっちょうてはっちょうでキョウユウの配下をまんまと騙して謁見の間のすぐ近くまでやってきた。


 天驚魔刃団を取り囲んで先導していたキョウユウの配下は十人あまり、後はコイツらを始末して謁見の間を通り抜け、最上階まで突っ走ってキョウユウを暗殺する……キサイの策は成功するかに思われた。


 だが、ここでアクシデントが起きた。影光達は周囲を取り囲んでいたキョウユウの配下達に猛然と襲いかかったのだが、敵を二人、討ち漏らしてしまったのだ。

 仲間達が捨て身で影光達を足止めしている間に、一人は重傷を負いながらも謁見の間を抜けてキョウユウのもとへと走り、もう一人は仲間に謀反を知らせる為に走り去ってしまった。

 間もなく、キョウユウの配下達が雄叫びと共に現れた。

 当初の予定では、キョウユウの配下の兵達に気付かれる前に速やかに大将首を挙げて、キョウユウの配下達の戦意をくじいて早々に鎮圧する計画だったのだが……


「チッ、面倒な事になっちまったな……」


 殺到してくるワニの魔族の群れを見て盛大に舌打ちする影光に、キサイが話しかける。


「ええ、しかしこんな事もあろうかと、侵入した各種族の部隊には異変があれば、各階にいるキョウユウの配下達を襲撃して足止めをするように指示してあります」


 そう言ってキサイは足下あしもとを指差した。確かに下からかすかに悲鳴や怒号、そして金属同士がぶつかり合う音が聞こえる。


「今の所、相手にしなければならないのは、この階にいる敵兵のみです。それでも結構な数ですが……」

「影光、ここは俺達が敵兵を食い止めて謁見の間を封鎖する。お前はその間にキョウユウを討て!!」

「ガロウ……すまん、頼んだ!!」

「任せておけ!!」

「グゴォォォ!! ココ……ハ……トオサナイ!!」

「気を付けて下さいね、影光さん!!」

「あんな小物、2秒で殺して戻ってきなさい、2秒で!!」

「それじゃあ、行ってくるぞ!!」


 そうして影光は謁見の間に突入し、およそ15分が経過したその時……


 “ギィィィィィ……”


 ガロウ達の背後の謁見の間の扉がゆっくりと開いてゆく……遂に戦いの決着がついたのだ。

 敵も味方も思わず息を呑んで見守る中、少しだけ開いた扉の隙間から……キョウユウが顔をヌッとのぞかせた。


「おぉ……あれはキョウユウ様だ!!」

「ハハハ!! ざまぁみろ反逆者共め!!」

「これで貴様らもおしまいだ!!」


 歓声を上げる凶鰐族の兵士達だったが……


 “バァァァン!!”


 直後、扉を勢い良く蹴り開けて影光が飛び出して来た。その右手には斬り落とされたキョウユウの首が握られていた。

 先程、扉の隙間から出てきた顔は……既に討ち取られたキョウユウの首だったのだ。

 キョウユウの勝利を確信し、歓喜していた兵士達は一気に絶望のふちに叩き落とされた。


 討ち取った首を高々と掲げ、『ケケケ〜〜〜!!』と悪魔超人的な笑いを上げていた影光は動揺する兵士達にゆっくりと影醒刃の切っ先を向けた。


「さて……お前らの大将は俺が斬ったッッッ!! 今から10数える、この城から出て行くなら見逃してやろう、そして……あの世でキョウユウに忠義立てしたい奴ぁかかって来いッッッ!! 行くぞ? い──」

「に、逃げろーーー!!」

「ひぃっ!?」

「た、助けてくれぇぇぇっ!!」


 影光が『1』と言い終わる前に、キョウユウの配下達は我先にと逃げ出し、影光達の前には一人の敵兵もいなくなった。


「お前……マジで人望が無かったんだなぁ」


 キョウユウのあまりの人望の無さを哀れに思った影光は、キョウユウの首にそっと手を合わせた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る