斬られ役(影)、魔王と闘う


 148-①


「殺してやるぞ、虫ケラがァァァァァッ!!」

「くっ!?」


 影光の頭を食い千切ろうと、キョウユウがまるで暴走列車のような勢いで突進してきた。

 影光は咄嗟に横に跳んで回避したが、影光の背後にあった石柱はキョウユウの鋭い牙と強靭なあごによって粉々に噛み砕かれてしまった。


「何て破壊力だ……!!」


 焦りの表情を見せる影光を見て、キョウユウが凶悪な笑みを浮かべる。


「ガアアアアアッ!!」

「くっ!?」


 影光は再び突進を躱した……と思ったら即座に尻尾による一撃が飛んで来る。そしてそれを躱したと思ったら今度は大剣による一撃が頭上から降ってくる。

 息をも着かせぬ怒涛の連続攻撃に、影光は徐々に追い詰められてゆく。


「グワハハハハ!! いい加減諦めろ、お前は……特に念入りにその頭を噛み砕いて殺してやる!!」

「ケッ……やめとけやめとけ、そんな事したら腹ぁ壊しちまう──」


“ガブリ!!”


 言い終わる前にキョウユウが影光の頭部に食らいついた。キョウユウは大きく頭を一振りして影光の頭を食い千切ると、食い千切った頭部をバリバリと噛み砕いて丸飲みにしてしまった。

 首と左腕を失い、立ち尽くす影光の体を見て、キョウユウは高らかに笑った。


「グワハハハハ!! 見たか、所詮しょせんお前の如きゴミ虫がこの魔王キョウユウ様に刃向かおうなどと……ウッ…………な、何だ…………ぐふうっ!?」


 突如として腹部を襲った衝撃に、キョウユウは剣を取り落とし、激しく吐血した。


「なっ……一体どうした……ゲホッ!!」

「……やれやれ、だから言ったんだ。そんな事したら腹を壊すぞって」


 片膝を床に着き、びちゃびちゃと口からおびただしい量の血を吐いているキョウユウを頭と左腕を食い千切られた影光がわらう。


「ば、バカな……頭を食い千切られて……平然としていられるはずが……」

「……ああ、死ぬほど痛かったぜ、このくそワニ番長が!! こちとら最終話のガ○ダムじゃないんだ、『たかがメインカメラをやられただけだ』とはいかねえんだぞコノヤロー!!」


 影光はキョウユウに食い千切られた頭部と左腕を再生させた。


「さ、再生しただと!? お、お前は一体!?」

「俺の名は影光……天下を奪る男だッッッ!!」


 剣を振りかざして突進してくる影光に対し、内臓に大ダメージを追ったキョウユウは避ける事も反撃する事も出来ずに、両脇を締めて防御姿勢を取り、影光の連撃を防ぐので精一杯だった。


「チッ!! 何て固さだ……」


 キョウユウの防御の固さに業を煮やした影光は影醒刃シャドーセーバーの刀身をトゲ付き棍棒の形状へと変化させた。


「これならどうだッッッ!!」


 トゲ付き棍棒モードの影醒刃を頭上でグルンとぶん回し、遠心力を乗せた一撃を横殴りに叩き込む。衝撃でキョウユウの両腕のガードが少し緩んだ。影光は再び影醒刃を叩き込もうとした。


「そうら、もう一発──」

「ぬ、ぬおぁぁぁ!!」

「ぐぅ……っ!?」


 一瞬の隙を突いて繰り出されたキョウユウの右の拳が影光の左胸を貫いた。


「ハァッ……ハァッ……どうだ虫ケラ!! まさに『肉を斬らせて骨を断つ』って奴だ……!!」

「……痛ってえな、おい!! なら俺は……」

「ば、馬鹿な……心臓をブチ抜いたんだぞ!? 何故生きて──」

「……骨を斬らせてワニを断つ!!」


 影光はキョウユウの腕に胸部を貫かれたまま、前進して、キョウユウに密着すると、影醒刃の刀身を再び剣状に戻してキョウユウの左首筋に押し当てた。


「無駄だ、そんななまくら刀じゃこのキョウユウ様の肉体を傷付ける事は──」


 “ガリ”


 異様な感触に、キョウユウは眉をひそめた。


 “ガリ……ガリガリガリガリ”


 何だ!? 一体コイツは何をしている!? キョウユウが再び影光の頭を叩き潰そうと左拳を振り上げたその時だった。


 “ブシュッッッ!!”


「ぐ、ぐわアアアアアッ!?」


 首筋を襲ったあまりの激痛にキョウユウは叫んだ。咄嗟に影光を突き飛ばして右手を影光の胸から引き抜くと、その手で左の首筋に触れた。


「な、何だこれは……血が……血が止まらねえ!!」


 キョウユウは影光を睨みつけた。影光の手に握られた影醒刃の形状が変化している。


「うちの劇団は人数が少なくてな……俺は斬られ役だけじゃなく大道具と小道具製作も兼任してるんだ!!」


 影醒刃の刀身形状はのこぎり状に変化していた。


「見たか!! 芝居道具製作で鍛えた俺ののこぎりさばき!!」

「ふざけるな……俺様は……俺様は魔族の頂点に立つ魔王なんだぞ!! こんな所で……こんな訳の分からない奴にィィィィィッ!!」

「おい、キョウユウ……俺から一つアドバイスしておいてやるぜ……」

「何だと……?」


 影光は影醒刃を八双に構えた。


「親玉の死に様は斬られ役の華だからな……全力で!! 盛大に!! そしてド派手に散るんだ!! ちゃんとやるんだぞ?」

「て……テメェェェェェッッッ!!」


 キョウユウは首筋から盛大に血を吹き出しながら、死力を振り絞って影光に襲いかかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る