魔狼、ぶん殴る


 139-①


「そんな……日が沈んだってのに!!」

「何でだ……何で消えねぇんだ!?」

「クソがっ!! これ以上壁を越えさせるんじゃねぇ!!」


 影光とレムのすけが01と戦って(?)いたその頃、城壁の上は大混乱だった。


 ……全ては、暗黒教団が立てた、百鬼塞の守備隊の心を折る為の策だった。


 これまで幾度と無く百鬼塞への攻撃を繰り返していた暗黒教団だったが、彼らは今まで、日が沈むと同時にわざと影魔獣を消していた。

 それにより、守備兵達の頭には『日が落ちれば影魔獣は消える』と刷り込まれてしまっていた。

 守備兵達は今この時も(日没まで耐え忍べば……)と、一心に念じて戦っていたのだが、日が沈んでも影魔獣が消えないという事態を前に、希望を砕かれた守備兵達の士気は崩壊寸前だった。


「くっ……クソがぁぁぁっ!!」

「これ以上は防ぎきれねぇ!!」

「も、もうダメだ……!!」


 士気が崩壊し、城壁の守備隊が総崩れになろうとしたその時、守備兵達は雄叫び上げて迫り来る一団を目にした。


「何だあれは!?」

「て……敵の増援か!?」

「こんな時に……」


 守備兵達は絶望しかけたが……


「行くぞぉぉぉぉぉっ!!」


 一団は攻め寄せる影魔獣軍団に背後から襲いかかった。


「何だあいつら!?」

「味方……なのか?」

「凄ぇ……影魔獣を次々と倒して……奴らは一体……!?」


 一団の先頭で暴れていた魔狼族の男が高らかに吠えた。


「天驚魔刃団、推参ッッッ!! 百鬼塞のオーガ達よ、俺達が加勢してやる……今しばらく耐えてみせろッッッ!!」


 思わぬ援軍の登場に守備兵達は沸き立った。


 139-②


 眼前の影魔獣を蹴散らしながら突き進むガロウだったが、途中で異変に気付いた。


 ……キサイの指示が聞こえない。


 代わりに聞こえてきたのは、キサイの護衛を任せた竜人達の戸惑う声だった。


「キサイ氏!? 一体どうしたと言うのです!!」

「キサイ氏、早く指示を!!」

「敵は──」

「我らに任せて……? 僕は……僕は一人でも戦える!!」


 キサイは護衛の三人を振りきって、目の前の影魔獣に襲いかかった。明らかに様子がおかしい。


「猫娘……お前は前からの敵を食い止めろ!!」

「わ、分かった!!」


 ガロウは隣にいたフォルトゥナに敵の対応を任せると、キサイのもとへと走った。


 キサイはトカゲ型影魔獣の背に馬乗りになり、背中を短刀で滅多刺しにしていたが、背後から忍び寄る剣影兵に気付いていなかった。


「グルァッ!!」


 間一髪の所で、ガロウの貫手ぬきてが、キサイに襲いかかろうとしていた剣影兵のコアを貫き、続けざまにキサイが跨っていたトカゲ型影魔獣の核も踏み潰して消滅させた。


「が、ガロウさん!?」

「キサイ……歯を……食い縛れッッッ!!」


 ガロウは キサイを ぶん殴った!!

 会心の一撃!!

 キサイは ブッ飛んだ!!


「ぐはっ!?」

「何をしている、お前の仕事は……敵を倒す事じゃないだろう!!」

「くっ……僕は……僕はオーガ一族の戦士です!!」


 キサイの言葉を聞いて、ガロウは悟った。


 キサイはたぐまれなる頭脳を持っていながら、武力至上主義のオーガ一族内においては、『非力な軟弱者』とさげすまれ、爪弾つまはじきにされ続けてきた。

 そんなキサイにとって、この戦は一族の者達に自分も戦士として戦えるという事を見せつけ、自分を軽んじてきた連中を見返すまたとない好機だったのだ。

 ガロウは小さく舌打ちすると、キサイを引き起こした。


「チッ……今回だけだぞ」

「え……?」


 ガロウは叫んだ。


「この戦……このガロウが指揮をる!! 全員集結しろ!!」


 ガロウの指示でフォルトゥナと竜人三人組がガロウのもとに集結した。ヨミは『やなこった』と言わんばかりにガロウ達の頭上で両手をヒラヒラさせていたが……飛んでいるのは、いつでもガロウ達を援護出来る位置だった。


「いいか、お前達……キサイが敵と一対一で戦えるように援護しろ!!」


 ガロウの命令にフォルトゥナは頷いた。


「分かったよ!!」

「お前も聞いていたな、小娘!!」


 ガロウは上空のヨミに問うたが……


「ふん……何でこのヨミ様がそんなガリ鬼の自己満足に付き合わなくちゃならないのよ? 下僕共、あんた達もガリ鬼なんかより私を手伝いなさい」


 ヨミは『ヨミ様を愛でる会』の三人に命令したが……


「「「…………お断り致す!!」」」

「あぁん!?」


 竜人達の予想外の反応に、ヨミは顔をしかめた。


「ヨミ様……!!」

「誠に申し訳ありませんが……!!」

「今は……今だけは……!!」


「「「我らが身命!! 我が友、キサイ氏のために!!」」」


 ヨミは『勝手にしろばーか!!』と言わんばかりに舌を “べー” と出したが……飛んでいるのは、いつでもキサイを援護出来る位置だった。


「み、皆さん………!!」

「キサイ……戦士が戦場で泣くなッッッ!!」


 涙ぐむキサイをガロウが叱咤しったした。


「キサイ、援護は任せろ。但し……自分の敵は自分で始末しろ。俺達は……手を出さん。良いな?」

「ガロウさん……分かりました!!」


 ガロウはキサイの肩を軽く叩くと小声で言った。


「……密かに積んでいる鍛錬の成果を見せてやれ」

「な、何故それを!?」

「大丈夫だ、初めて会った時のお前は、影光のビンタ一発でのされていたが……今のお前は、俺に殴られても意識を保てる程度には強い」


 ガロウはニヤリと笑うと、再びえた。


「行くぞ野郎共!! 敵を……噛み砕けぇぇぇぇぇっ!!」


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