野郎共、大いに語る


 97-①


 ……結論から先に言うと、影光の矢の方が中心に近かった。


  “ダァーーーーーッッッ!!” と、放たれた矢は的のど真ん中のど真ん中に突き立った。それに対してリュウカクの矢は……中心から1cmほどズレていた。


「よーーーし、勝ったーーーっ!!」

「ま、待て!! 納得いかん!!」


 ガッツポーズを取る影光にリュウカクが待ったをかけた。


「ああん?」

「お前……あれは卑怯だろ!!」


 弓術の素人である影光がどうして的のど真ん中に当てる事が出来たのか、それは──



 ~~~ 回想 ~~~



「行くぞーーー!! イーーーチ!! ニーーー!! サンッッッ──」


「なっ!?」


 矢を放つ直前、影光は矢を引き絞った姿勢のまま、影魔獣の持つ『肉体の形状変化』の能力で、両腕の肘から先を限界まで “ぐいーーーーーーーーーーーーん” と伸ばした。


「ダァーーーーーッッッ!!」


 そうして、的からわずか1cmの超至近距離から放たれた矢は……当たり前だが、的のど真ん中に突き刺さった。



 ~~~ 回想終了 ~~~



「あんなものが認められるか!! 反則だ!!」


 リュウカクの抗議に対し、影光は腕組みしながら仁王立ちで反論した。


「待ってもらおう!! 反則だと……? 俺は何一つとしてルールを破っていないッ!!」

「何ぃ!?」

「俺は、アンタの決めたルール通り、ちゃんとそこの線の所に立って的を射た。それに……俺はやる前にちゃんと聞いたはずだ、『そのルールで良いのか? 後から文句を言わないな?』ってな……アンタは、『腕を伸ばしてはいけない』とは言っていない!!」

「ぐぬぬ……へ、屁理屈を!!」

「まあ良いさ、どうしても納得できないってんなら、もう一度だけ勝負してやる……但し!!」

「何だ?」

「さっきはカクさんの得意分野で勝負したんだ……今度は俺の得意分野で勝負してもらおうか!!」


 影醒刃シャドーセーバーの柄を取り出した影光を見て、リュウカクはニヤリと笑った。剣での勝負ならば先程のような屁理屈は言えまい!!


「良いだろう、受けて立つ!!」


 言った瞬間、影光は影醒刃の柄をスッとしまってしまった。


「面白リアクション対決ぅぅぅーーーーー!!」

「待て待て待て!! 何だそれは!!」

「何って……俺の得意分野だが?」

「なっ……はかったな貴様……!!」


 唖然あぜんとするリュウカクをよそに、影光は兵士の一人から、水の入った竹筒を借りてきた。


「良いか? この竹筒に、《めちゃくちゃからい水》が入っていると仮定して、面白いリアクションを取った方の勝ちだ。判定はこの場にいる皆にしてもらおう……ほらよ、カクさん」


 有無を言わさず竹筒を渡され、リュウカクは困惑しまくったが『受けて立つ!!』と言ってしまった手前、やらないわけにはいかない。


「よ、よーし……行くぞッ!!」


 リュウカクは竹筒に口をつけた。


「か……からい……」


 リュウカクは兵士達を見回した。リュウカクの芝居の目に余るぶり大根……もとい、大根ぶりに全員、目が点になっている。


「いやぁ……じ、実にからいなー。なんという辛さだー!!」


 たまれなくなってしまったオサナは、『もう見ていられない!!』と言わんばかりに、無言でタオルを投げ込んだ。


「よぅし、じゃあ今度は俺の番だな!!」


 影光はリュウカクから、竹筒を受け取ると、ぐいと飲んだ。


「……カハッ!? ☆%〒#@~~~!?」


 影光は口元を押さえて、涙目になりながら地面を激しく転げ回った。


「ハァーッ……ハァーッ……し、死ぬ!! み、水……水を…………ほんぎゃらぎゃあああああああああ!!」


 影光は、再び竹筒を口に付け、そして、再び転げ回った!!

 影光のリアクションを見て、兵士達は爆笑した。


 芝居を終えた影光はゆっくりと立ち上がると、審判達に聞いた。


「さぁ……判定してもらおうか!! どちらが面白かった?」


 兵士達は、リュウカクに対して申し訳なさそうな顔をしながらも、全員影光を指差したが──


「こ……この勝負引き分け!!」


 オサナの突然の引き分け宣言に、影光は抗議した。


「ちょっと待て!! どう見ても俺の勝ちだろうが!!

「引き分けやもん!!」

「どこがだよ!? 80対0で俺の勝ちだろうが!!」

「ちゃうもん!! 『オサナちゃんポイント』が80Pで引き分けやもん!!」

「なんだそりゃ!?」

「引き分けでええやん!! 二人とも仲良くしてや……お願いやから!!」


 涙目になりながら訴えるオサナに対し、影光はオサナの目を真っ直ぐに見て言った。


「お前なぁ……カクさんを見くびるなッッッ!!」

「……え?」

「これは男と男の真剣勝負や、そんな事で引き分けになって……カクさんが喜ぶとでも思うんか!?」

「でも……」

「周りの皆もそれを分かってるから俺に投票したんやんけ、カクさんが『不正で勝たせてもらって喜ぶ人やない』ってのを分かってるから」


 影光の言葉に、兵士達も頷く。


「そういう奴らやからこそ、俺はカクさん達を是非とも仲間に──」

「もういいもういい、分かった。私の負けだ」


 リュウカクは、苦笑しながら言った。


「良いだろう、約束通り、貴殿を我が友としよう……影光殿」

「カクさん……」


 影光は差し出された手をガッチリと握った。


「影光っちゃん……リュウカク君……」

「ところで、影光殿」

「ん?」

「友となったからには、もっと互いを良く知る必要があるとは思わないか?」


 拳をゆっくりと突き出したリュウカクに対して、影光はニヤリと笑った。


「ああ、存分に語り合おう!!」

「えぇっ、ちょっ!? 二人共!?」


 殴り合いを始めた二人を見て、オサナは慌てた。どうして今の流れで殴り合いに発展するのか……しかも楽しそうに。


「おう、お前らも来いよ!!」

「そうだ、存分に友と語り合えーーー!!」



 一時間後……ボロボロになった影光とリュウカクはオサナの前で正座させられていた。



「全く、こうなるのが嫌でウチは頑張ったのに……」


 ぶつくさと文句を言いながら、オサナは細長い紙のふだに、筆でサラサラと文字をしたためてゆく。


「さぁ出来た。まずは……リュウカク君!!」


 オサナは紙の札をリュウカクの額に “ベチンっ!!” と勢い良く貼り付けた。


「その札には癒しの力が込めてあるから、それを貼ってるだけで傷が徐々に癒えてくるわ」

「そ、そうですか……」

「ちなみに、その札は効力が切れるまで絶対に剥がれへんから」


 それを聞いて、影光は即座に逃げ出そうとしたが、オサナに取り押さえられてしまった。


「次は……影光っちゃんの番やで?」


 オサナは笑顔だが、目がまるで笑っていない。


「い、いや俺は再生能力があるから……」

「ふんっ!!」


 問答無用でオサナは影光の額に札を貼り付けた。


「三日くらいで効力が切れると思うから、二人共……じっくり治してな? それじゃあ二人共……お大事にっっっ!!」


 オサナが足取り荒く去った後、影光とリュウカクは、互いの額に貼られた札を見て苦笑した。


「酷いな? 影光殿?」

「全くだ、まぁ……女子には理解されにくいかもな」


 ……ちなみに、両者の札にはそれぞれこう書かれていた。



『ウ◯コたれの鼻血ブー太郎』

『チンピラくそドラゴン』

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