執事、過去を語る
90-①
「へー、アンタ魔王の娘なのか…………って、何ぃぃぃぃぃっ!?」
影光は吉◯新喜劇ばりのベタなズッコケを披露した。
「いやいやいやいや、確か魔王って三百年くらい前の存在のはずだろ!?」
影光の問いに、ゲンヨウは『左様』と頷いた。
「それの娘って事は……めちゃくちゃおばあちゃんじゃねーか!?」
「お、おばあ……」
「何か……ごめんな!! 剣向けたりして!!」
「い、いえ……」
おばあちゃんっ子だった武光の記憶を引き継いでいる影光は、マナに頭を下げた。
「お嬢様の肉体は十五歳当時のままだ……《魔氷の
「えっと……何それ?」
仲良く首を
「溶けるのに数百年かかる魔氷で作られた
何か小難しい話は良く分からないが、SF映画なんかで良く出てくる、
「三百年前……魔王様は勇者共との決戦直前に、人間共の手からお嬢様の身を守る為に、お嬢様を魔氷の柩に眠らせ、とある場所の地下深くに埋められた。あれから三百余年……ようやく……ようやく魔氷は溶け、お嬢様は長きに渡る眠りから目を覚まされた」
ゲンヨウは感慨深そうに語った。
「ジイさん……アンタ講談師になれるぜ、まるで自分の目で見てきたみたいな臨場感あふれる語りだ」
笑いかける影光に対し、ゲンヨウは鼻をフンと鳴らした。
「……『見てきたようだ』だと……私は執事として魔王様から直々にお嬢様の身の安全を託されたのだ」
「そ、それじゃあジイさん、アンタ……三百歳超えてんのかよ!?」
「いかにも」
「ん……? 待てよ、ジイさんの話が本当なら何でアンタら魔王軍と敵対してんだ? マナは魔王の娘で姫様なんだろ?」
「貴様……お嬢様を呼び捨てにするとは……この不届き者めが!!」
ステッキを構えようとしたゲンヨウをマナが手で制した。
「ゲンヨウ、構いません。今はそんな事よりも状況の説明をして差し上げなさい」
「お嬢様……かしこまりました」
ゲンヨウはマナに一礼すると、影光達に向き直った。
「三年前の大戦後……総大将と参謀を失い、混乱する魔王軍を掌握したのは、魔王軍の三番手であった《キョウユウ》という男であった。奴は野心の塊のような男でな、魔王軍再結成当初から隙あらば自分が頂点に立とうと虎視眈々と機会を狙っておった。キョウユウにとって、先の大戦で総大将と総参謀が一度に倒れたのは、自分が頂点に立つ好機だった……」
「……なるほど、そんな所に魔王の血を継ぐ後継者なんかが現れてしまっては、目の上のたんこぶどころの騒ぎではない……という事ですね?」
キサイの問いかけにゲンヨウは頷いた。
「その通り、奴は……魔王様の血を引くお嬢様を亡き者にせんと、私が隠匿していた魔氷の柩を探し出し、封印が解けかかっていた魔氷の柩を破壊しようとした。私は彼奴に深手を負わされながらも、柩からお嬢様を助け出し、命からがら逃げた」
「そして、そんな傷付いた二人を治療して、ここまで連れて来たのが……ウチっっっ!!」
オサナはドヤ顔で自分を指差した。
「なるほどなぁ」
「私があと三百歳若ければキョウユウの如き
年寄りの昔話は思い出補正で盛られまくっている事が多い……影光は肩を
「幸いな事に、現状キョウユウの軍団は影魔獣の相手で手一杯、我々は今の内に力を蓄え、奴との決戦に備えねばならぬ。そこで……だ」
ゲンヨウは影光を見据えた。
「貴様らのお嬢様への数々の無礼は許し難いが……正直に言って、我々は少しでも戦力が欲しい。たった五人でここまで乗り込んで来た力を認めて、我々の軍勢に加えてやる。貴様らとて、元々魔王軍に参陣する予定だったのなら丁度良かろう?」
「ウチからもお願い、まさちゃん……力を貸して!!」
「…………断るッッッ!!」
……影光はゲンヨウの申し出を
「何だと……!!」
「そんな……まさちゃん!?」
ゲンヨウは
「アンタの申し出は断る……が、マナは『
影光の返答を聞いたヨミが首を傾げる。
「えーっと……影光、結局コイツらに協力するって事で良いの?」
「違う、コイツらに協力させてやるって言ってんだ俺は」
「一緒じゃない」
「馬鹿野郎、全然違うっつーの!! ウ◯トラマンとウ◯トラマンジャックくらい違うっつーの!!」
読心能力で、影光の脳内に浮かんだ二体の銀色と赤の巨人(?)のイメージを読みとったヨミはますます首を傾げた……違いが全然分からん。あっ、もう一体そっくりなのが飛んで来た、何だあの胸のブツブツ。
「とにかく、少しの間……天驚魔刃団はここを拠点に活動する、良いな!!」
「まぁ……良いだろう」
「グオッ!!」
「影光さんがそう言うのなら……」
「ま、野宿よりはね……」
影光の命令に、四天王とマスコットは頷いた。
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