天照武刃団、踏み込む


 56-①


 天照武刃団は、里の東のはずれにポツンと一軒だけ立っている工房にやってきた。この工房の主こそが、武光達の芝居を見て苦々しい顔をしていた男である。


「御用改めであーーーる!!」


 三人娘が工房の入り口付近を固め、武光とナジミ、そしてフリードの三人が、工房内に突入した。


「な、何だお前達は!?」


 工房の中で作業をしていた男は慌てた。歳の頃は四十と言った所か。坊主頭で、気難しそうな雰囲気を持っている。


「武光様、あ……アレを見て下さい!!」


 ……ナジミが指差した先には、大量の操影刀、そして、作業場奥に設置された作業台の上に、ヨミの愛刀、吸命剣・妖月があった。


 妖月はつかの部分を万力に似た器具に挟まれて、横向きに固定されていた。

 その刀身には、幾本もの黒い紐のような物が巻きつけられ、紐の先はそれぞれ作業台の周りに置かれたつぼ の中に垂らされている。

 更に、作業場の壁一面に、フリードの持っていたのと同型のものや、おそらく試作品であろう、通常の剣サイズの操影刀まで、大小様々な操影刀が掛けられており、暗黒教団の黒のコートも掛けてある。


「やっぱりな……ここで操影刀を製造しとったんか!!」

「お前達は……あの旅芸人の一座!? ど、どうしてお前達が……?」


 男の問いに、武光は不敵な笑みを浮かべて答えた。


「フッフッフ……イケメン団長率いる、素敵で愉快な旅芸人一座とは世を忍ぶ仮の姿!! しかしてその実体はッッッ!!」


 狼狽うろたえる男に対し、武光は高らかに名乗った。


「暗黒教団特別調査隊……天照武刃団じゃーーーーー!!」

「暗黒教団特別調査隊だと……しかし、一体何故俺が暗黒教団の刀鍛冶だと……!?」

「ふん、そんなん簡単や!! ナジミが演じるへっぽこシルエッタを見て、皆が笑っている中で、苦虫を噛み潰したような顔をしてたんは……アンタだけやった!!」


 武光に指摘された刀鍛冶の男は、武光達をにらみつけた。


「なるほどな……ああ、そうだよ!! ふざけるなよ貴様ら!! 我らが聖女様をあんな滑稽な姿に演じやがって……馬鹿にするにも程があるッッッ!!」

「ご、ごめんなさい……馬鹿にするつもりは……私、あれでも精一杯頑張ったんですけど……」

「いや、謝らんでもええからな!?」


 頭を下げたナジミを見て武光は思わずツッコんだ。


「黙れ!! 何だアレは……っ!! 本物の聖女様の十分の一……いや、百分の一の気品も無い!! 神々しさも無い!! 聡明さも無い!! 美しさも無い!!」

「ご……ごめんなさいぃぃぃ!!」

「いや、だから謝らんでもええって!?」


 男の怒りは収まらない、男はナジミに向かって尚も言い放つ。


「挙句の果てに…………胸まで全く無いとはッッッ!!」

「……すんませんでしたッッッッッ!! 勘弁してやって下さいッッッ!! これが精一杯なんです!! これ以上は……酷ですッッッ!!」

「ちょっ、武光様何で謝るんですか!? 酷じゃないです!! 止めろ土下座すんな!!」


 土下座した武光をナジミは引き起こした。


「とにかく、身柄を拘束させてもらう!! 神妙にお縄を頂戴しろぃ!!」

「うぐぐ……クソッ!!」

「逃すか!!」


 逃げようとした男を、武光とフリードが取り押さえ、ナジミが用意していたロープで男の手足を縛り上げ、その後、妖月も押収した。

 妖月の刀身に結ばれていた紐が垂らされていた壺の中は、操影刀の柄に嵌められている紫の玉がギッシリと詰まっていた。壺一つあたり百個近くはあるだろうか。それが四つもある。


「よっしゃ、それじゃあ……暗黒教団の情報を吐いてもらおうか!!」


 武光が悪党っぽい表情を作って、再び男に向き直ったその時だった。


「………………うっ!?」


 短く呻き声を上げ、男がドサリと倒れた。背中には五、六本の操影刀が突き刺さっている。


「なっ!? お、おい!! しっかりしろ!!」


 武光は、倒れた男に駆け寄り、屈み込んで声をかけたが……


「ダメだ……死んでるよアニキ」


 フリードが静かに首を横に振った。


「そんな、一体誰が……!?」

〔オイ、武光!! アレを!!〕


 イットーに言われた武光は顔を上げ、一瞬言葉を失った。銀色の髪の女が静かに微笑んでいる。


「ふふ……ご機嫌よう」

「お、お前は…………シルエッタ!!」



 シルエッタが 現れた!


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