天照武刃団、公演する


 55-①


「みんなー、大きな声で勇者様を呼ぼう!! せーのっ!!」


 鞘に納められた魔穿鉄剣をマイク代わりに握り締めたナジミの《フリ》に合わせて、ネヴェスの里の子供達が『勇者様ーーーーー!!』と叫ぶ。



 武光達は……ヒーローショーをやっていた!!



 何故ヒーローショーなのか!? 調査はどうしたのか!?


 ……これには、二つの大きな理由があった。


 まず一つ目の理由だが、武光達は以前、シューゼン・ウインゴにて、聖女シルエッタの足取りを掴もうと聞き込み調査をしたのだが、住民に怪しまれてしまい、調査は難航した。

 そこで、武光は『調査に入る前に、まず里の人達と仲良くなろう!!』という事で、里の人の警戒心を解く為にヒーローショーを始めたのだ。

 一見、突拍子も無い作戦に見えたが、ヒーローショー作戦は徐々に効果を発揮してきていた。武光達が里を歩いていると……


「やぁ、昨日の “ひぃろうしょう” 見たよ!!」

「今日の公演も楽しみにしてるんだ!!」

「ウチの子供達と握手してもらっても良いかな!?」


 という風に、里の人間の方から声を掛けてくれるようになってきたのだ。


 目論見通り……と、武光はまるで時代劇で悪企みをしている悪代官の如く、ニヤリと笑っていた。『ヒーローショー』という、アナザワルド王国には存在しないフォーマットの芝居は、観客に大いに衝撃と刺激を与えるだろう……と。


 実際、この国では平民達にとって『お芝居』と言えば、それぞれの村や街で年に一、二度開かれる祭事で行われる、日本で言うところの奉納舞のようなものであり、現代日本人の感覚でいう『観劇』というのは、貴族や裕福な商人くらいにしか出来ない娯楽だった。

 それを無料で観れるというのだから、里の人々は続々と公演に訪れた。ちなみに、無料とは言ったが、それは、というだけで、武光達は代金の代わりに食料をもらっていた。一人辺り、ジャガイモ一個とかパン一個とかリンゴ一個といった具合である。

 フリードの空腹を少しでもやわらげる為にとにかく食料が必要だった。それ程までにフリードを襲う飢餓感は深刻であり……これがヒーローショーをする二つ目の理由である。


 武光達は大分里の人間と打ち解けた。


「もうそろそろかな、イットー?」

〔アレをやるのか、武光?〕

「おう」


 三日後、里の広場には、ネヴェスの里の大半の人間が集まっていた。『あのミト=アナザワルド様も大絶賛!! 抱腹絶倒、天笑歌劇団による、とっておきのショー!!』という触れ込みで宣伝しまくったのだ。

 集まった観客は総勢で百五十人近くといったところか……武光は本番前に天照武刃団一人一人の顔を見た。


「ええか、観客のリアクションを良く見とけ。今からやる芝居を見て渋い顔とか、嫌そうな顔する奴を探すんや!!」

「分かりました、武光様!!」

「任せて下さい、隊長!!」

「了解です、隊長殿!!」

「は、ハイ!!」


 武光の命令にナジミ達は次々と頷いたが……フリードの返事がない。


「フリード? おい、大丈夫か?」

「あ、ああ……大丈夫だよ、アニキ」


 そう言って、フリードは笑顔を見せようとしたが、 “グォギュルルルルル!!” と腹の虫が凄まじい雄叫びを上げた。


「だ、大丈夫だって……ほら、こういうのってアニキの国では確か、武士は食わねど……ええと……」

高楊枝たかようじな……無理はすんなよ」

「任せてよ、アニキ!!」


 そして、舞台は幕を開けた。


 今回の演目は、ナジミ演じる暗黒教団の聖女シルエッタが、武光とフリードが演じる剣影兵を引き連れて大暴れしているところに、ヒーロー役のクレナ達が現れてやっつけるというストーリーだった。

 極度のあがり症で、演技が有り得ないほどド下手な為、いつもは司会のお姉さん役……しかも台詞は手にした魔穿鉄剣によるもので本人はほぼくちパクという有様ありさまのナジミが舞台に上がらされているのにもちゃんと理由がある。


 ……想像して頂きたい。


 自分が大好きな小説やマンガやアニメが実写化され、自分が大好きなキャラクターを演じる役者がド下手だった時の絶望を、怒りを……ああ、そうだよ!! 実写版デ○ルマン!! テメェだゴルァァァ!!


 ……と、例えるならば、そんな感じの表情をしている者がいた。


 ナジミのとてもコメディチックな(本人は至って真面目に演じている)シルエッタを見て、皆が笑っている中で、一人、苦虫を噛み潰したような表情をしている者がいる。あの男は、刀鍛冶が多く住まうこの里の中で、確か……東の外れに住んでいた刀鍛冶だった筈だ。



 その日の夜、天照武刃団はその男の工房に突入した。



 

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