斬られ役、突き止める


 51-①


 影光がウルエ・シドウ大洞穴に単身殴り込みをかけようとしていたその頃。マイク・ターミスタでは、天照武刃団が宿屋で会議をしていた。


「た、武光隊長……多分これ、《レタルメア鉱石》です」


 そう言ったのは、キクチナだった。学者の家柄に生まれた彼女は、幼い頃から知識欲が旺盛だった。一般的な貴族が学ぶ歴史学や文学や宗教学だけでなく、生物学や数学、天文学や物理学、果ては鉱物学に地質学など、およそ「貴族が使う事があるのか?」と思われる学問まで貪欲どんよくに学び、吸収していた。


「ね、念の為にマイク・ターミスタの掘削技師の方達や研究者の方達にも確認をしてもらったんですけどほぼ間違いないって……」

「でかしたキクチナ!!」


 キクチナの報告を受けて、武光は喜んだ。


「……で、そのレタルメア鉱石が採れる場所ってのはどこにあるんや?」

「そ、それがですね……レタルメア鉱石が採れる事で知られてるのは……ウルエ・シドウ大洞穴です」


 レタルメア鉱石の産出地を聞いて、武光を除く天照武刃団全員が『うわ……』というリアクションを取った。


「えっ? 何なんそのリアクション!?」


 困惑する武光にイットー達がウルエ・シドウ大洞穴について教えた。


〔僕も実際に行った事はないんだけど、ウルエ・シドウ大洞穴ってのは、この国有数の広さを持つ大洞穴で、洞穴の至る所で、猛毒ガスが、それはもう、頭オカシイんじゃないかってくらいドバドバ噴き出しているらしいよ?〕

「武光様、この国のことわざに『ウルエ・シドウに金を掘りに行く』というのがあります……」

「な、ナジミ……何となく予想はつくけど……その諺の意味って?」

「はい……欲に目が眩んで命知らずな真似をする事のたとえです」


 それを聞いた武光は思わず『うわ……』と言っていた。確かにそれほど危険な場所ならば誰も迂闊うかつには近寄れない。

 秘密の拠点を作るにはもってこいだが……そんな場所に踏み込んで行くなど到底不可能だ。


 頭を抱える武光だったが……


「一つ、気になる事があるのですが……」


 操影刀を見ていたミナハが声を上げた。


「どうしたのミナハちゃん?」

「操影刀のこの《刃文はもん》なのですが……」

「ごめん、刃文……って、何?」


 首を傾げるナジミに、武光が解説した。


「刃文ってのは、刃の部分に現れる模様みたいなやつや」

「あ、ホントだ。コレがどうかしたの?」

「この特徴的な刃文は恐らく……《ネヴェスの里》で造られた物かと」

「ネヴェスの里……?」

「はい、武器職人達が集う小さな集落です。そこで造られた刃物には《ネヴェス文》と呼ばれる特徴的な刃文が出るのです」

「じゃあ、そこが操影刀の製造拠点なんか……? キクチナ、その辺りはさっき言うてたレタルメア鉱石とやらは採れるんか?」

「い、いいえ……あの辺りは良質な鉄鉱石が採れると言われてますが、レタルメア鉱石が産出されたという話は聞いた事がありません」


 キクチナの話を聞いていたクレナが元気良く手を上げた。


「ハイ!! じゃあウルエ・シドウ大洞穴で採掘したレタルメア鉱石をネヴェスの里に運び込んでるんですよ、きっと!!」

「うーん、でもよー、王国軍の監視をすり抜けて、ウルエ・シドウ大洞穴からネヴェスの里まで大量の物資を運び込むなんて出来るのか……?」

「そんなの簡単じゃない」


 フリードの質問に、クレナはあっけらかんと答えた。


「簡単って……一体どうやって……?」

「インサンが逃げた時みたいに影を通じて、物資を送れば良いんだよ!!」

「そうか……その手があったか!!」


 これで、物資の移動という謎も解決した。クレナの発想に武光は思わず手を打ったが……


「……いや、でもホンマにネヴェスの里が製造拠点なんやろか……そのネヴェスの里出身の刀匠がどこか別の場所で作ってるって可能性は?」

「それは無いと思います」


 武光の疑問に対し、ミナハは自信を持って答えた。


「ネヴェスもんはネヴェスの里にある特殊な炉で焼入れする時に付くのですが、その炉を一から作るには、超高度な技術と、長い時間が掛かるはず……割に合わないかと」

「なるほど……詳しいなミナハ」

「これでも武門の家の娘です、戦場で命を預ける道具について、様々な知識を叩き込まれていますから」

「とにかく、キクチナにクレナにミナハ、三人ともよくやった、めっちゃ偉いぞ!!」

「は、はい……!!」

「えへへ……やった!!」

「ありがとうございます!!」


 武光に褒められて、はにかんだ笑顔を見せる三人娘を見て、ナジミが勢いよく手を上げた。


「ハイ!! 武光様ハイ!!」

「ん? どうしたナジミ?」

「私も凄い発見しました!! 操影刀にめ込まれたたまを見て下さい!!」

「玉……? これがどないした?」

「すごく……丸いですっっっ!!」

「あ、うん……そら玉やからな。丸くなかったら玉ちゃうしな」

「……………………以上です!!」


 武光は ズッコケた!


「以上って……ちょっ、何やねんその『私もめて!!』感丸出しの顔は!? やめろ、その顔で近付いてくんな!! ちょっ、圧がヤバイねんて圧が!! 怖い怖い怖い!!」

「良いじゃないですかぁぁぁ!! たまには私も褒めて下さいよぉぉぉ!!」

「駄々をこねるな、駄々を!! わ、分かったって……おー、よしよし、おっちょこちょいおっちょこちょい」

「何か雑過ぎません!? って言うか、全然褒めてません!!」


 ナジミの抗議を受け流し、武光は宣言した。


「とにかく、次の行き先は決まった!! 俺達はネヴェスの里へ調査に向かう!!」

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