斬られ役(影)、斬られ役に叫ぶ


 46-①


 ヨミは矢の飛んで来た先を見た。そこには、キクチナから奪い取ったボウガンを鬼の……いや、修羅の形相で構えるナジミがいた。


「妖姫ヨミ……ここで会ったが百年目ですっっっ!!」


 ナジミがボウガンを再び構えたが、ボウガンを向けられたヨミは涼しい顔である。


「あらあら、誰かと思えば裏切り者の泥棒猫じゃない……何をそんなに怒っているのかしら?」

「こ、心を読めるくせに……白々しいんですよっっっ!!」

「えー、全然分かんなーい♪」

「貴女のせいで……私は国中の人から痴女扱いです……!!」

「国中の魔族や人間が見てる中で熱いチューを見せつけてたもんねぇ、あれは確かに痴女の所業よねー」

「きゅ……九死に一生を得なさいっっっ!!」


 『死ね!!』と言わないあたりが、彼女が生来持つ優しさの現れなのか。しかしながら……怒り狂うナジミは引き金を引いた。


 ナジミは 矢を放った!

 ミス! ヨミに よけられてしまった!


 ナジミは 矢を放った!

 ミス! ヨミに よけられてしまった!


 ナジミは 矢を放った!

 ミス! ヨミに よけられてしまった!


 ヨミはナジミが放つ矢を、まるでダンスのステップを踏むかのように、鼻唄混じりで軽々と回避する。

 放つ矢をことごとく躱されてナジミは歯噛みした。


「ぐぬぬ……こうなったら肉弾戦です!! ヨミ……そこで大人しく待っていなさいっっっ!! 穏やかな心を持ちながら、はげしい怒りによって目覚めた伝説のちょう巫女であるこの私が退治してやります!!」


 防壁から飛び降りようとしたナジミをキクチナが大慌てで背後から羽交い締めにした。


「や、やめて下さいナジミ副隊長!! お、大怪我しちゃいますから……っ!!」

「離してキクチナちゃん!! 一発ブチかまさないと私の気が収まりません!! アスタト神殿の壁画に刻まれた三大退魔奥義、《アスタトの復讐者》と《アスタトの地獄》と《アスタトの閃光》を叩き込んでやるんですっ!!」

「さ、三発じゃないですか!? いや、そんな事より……と、飛び降りるのはダメですっ!!」

「と、止めないで!!」

「あ、危ないってぇぇぇ……言ってるでしょうがーーーーーっ!!」

「ぎゃんっ!?」


 キレたキクチナが、羽交い締めの状態から、ドラゴンスープレックス(に酷似した技)でナジミを後方にぶん投げた。

 ナジミがキクチナ達に教えた、アスタト神殿に伝わる《48の退魔技》の一つである。


「ああっ!? わ、私とした事が!! だ、大丈夫ですかナジミ副隊長!?」

「いい技だったわ……キクチナちゃん…………ゴフッ」

「ふ、副隊長ーーーーー!?」


 防壁の上の大騒ぎを見ていた武光と、立ち上がった影光は、双子かというくらい、同じタイミングで溜め息を吐いた。


「何やっとんねんアイツは……」

「何やってんだアイツは……」


 苦笑する影光にガロウが走り寄った。


「おい、影光……」

「どうしたガロウ?」

「南の丘だ、そこから人間と……影魔獣の嫌なニオイがする」

「……分かった、狩りに行くぞ!!」


 ガロウからの報告を受けた影光は、防壁の上のナジミを見上げた。


「ナジミーーー!! 天下を奪ったら迎えにくるからなーーーーー!!」

「け、結構ですーーーーーっ!!」

「あと、本体ーーーっ!!」


 影光は影醒刃の切っ先を武光に向けた。


「な、何や!?」

「俺が天下を奪った暁には、ナジミを賭けてお前と雌雄を決する事になる……それまで、ナジミを守り抜け!!」

「や、やかましわっ!! お前に言われるまでもあらへん……ナジミは俺が守り抜く!!」


 流石は俺の本体だ……予想通りの返答を聞き、影光は満足気に頷いた。


「よく言った……それでこそ俺の本体だ!! 今日の所は顔見せだ……行くぞ野郎共!!」

「あっ、待たんかいコラァ!!」



 武光の制止を無視して、天驚魔刃団は走り去った。


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