天照武刃団、備える(前編)

 47-①


 ひとまずの脅威は去り、マイク・ターミスタの防衛に成功した天照武刃団の面々は、次なる戦いに備えていた。


 クレナはマイク・ターミスタの職人達と、刀匠ジャトレーの工房で、穿影槍の改良作業に取りかかっていた。

 穿影槍は影魔獣に対し、絶大な威力を発揮したとはいえ、初の実戦だったのだ。訓練の時には分からなかった改善点や問題点がいくつも出てきた。


「訓練の時は動かない人形相手だったから気にならなかったんですけど……突き刺した時に相手が暴れると、発光ボタンを押す右手が “ズル” って滑っちゃって……」

「ううむ、それは問題じゃのう」

「それなら……いしゆみみたいに、(=グリップ)と引き金を付けるというのはどうだ?」

「ふむ……やってみるか。おおーい」


 いしゆみ職人の一人が発した言葉にジャトレーは頷くと、弟子を呼び、穿影槍を渡した……と、言ってもジャトレーが渡したのは本物ではない。大きさと重さこそ、本物と同じように作られてはいるものの、発光機構などの内部機構はオミットされている模型である。まずは模型で試してみて、問題が無ければ実物を改良してゆくのだ。

 

「あと、激しく動きながらだと閃光石の装填も難しかったです」


「むむむ……よし、そこも何とかしよう。リョエン殿の槍に使われている雷導針の装填機構を応用すればいけるかもしれん」


 クレナの意見を聞いた内部機構班の技術者達はすぐさま作業に取り掛かかった。


「それと……もう少し軽くならないですかね」

「そこはクレナ嬢が筋肉ムキムキになれば問題あるまい?」

 

 ジャトレーの冗談に周囲の職人達は笑いを漏らしたが……


「なるほど!! 私……鍛えてきますっ!!」

「えっ?」


 クレナは大真面目な顔で頷くと、物凄い勢いでジャトレーの工房を飛び出して行った。


「素直と言うか、単純と言うか……武光殿も大変じゃのう」


 職人達は笑った。


 47-②


 フリードとミナハはナジミと共に訓練をしていた。


「さぁ、フリード君にミナハちゃん!! 今日は48の退魔技のその18と19を教えちゃいますよ!!」

「副隊長殿、よろしくお願いします!!」

「へーい」


 やる気満々のミナハに対して、フリードはイマイチやる気の感じられない返事だ。


「む……なんですかフリード君、その気の無い返事は!?」

「いやー、だって姐さんの48の退魔技って、地味な技ばっかりなんだもん……キクチナから聞いたんだけど、三大奥義ってのがあるんでしょ? そういう凄いの教えてよ」


 それを聞いたミナハがフリードをたしなめた。


「馬鹿者!! 奥義というのは来る日も来る日も研鑽けんさんに研鑽を積み、鍛錬に鍛錬を重ねてようやく会得出来るものなのだぞ!!」

「えー、でもこの前教えてもらった指折り固めとか、影魔獣に効かねーじゃん」

「確かにな……だが、お前には効くぞ?」

「痛だだだだだ!?」

「どうだ? 影魔獣には効かなくても術者を取り押さえるのには役立つぞ?」

「ミナハちゃん、やめてあげて!?」

「……分かりました、副隊長殿」


 ミナハは指折り固めを解いた。


「痛てててて……お前、もう少し手加減しろよなー」

「ふふん、これに懲りたら『奥義を教えてくれ』などと軽々しく言わない事だな」

「うーん、三大奥義ですか……別に教えてあげてもいいけど……」

「副隊長殿!?」

「マジで!! さすが姐さん!!」

「ではまず、三大奥義についてですが……」


 ナジミは三大奥義について語った。


「三大奥義はアスタト神殿の壁画に記された三つの奥義で、それを修得するには多大な苦難が待ち受けています……壁画の絵が何か知らない間に変わってたり」

「何それコワイ!?」

「掛け方の解釈を間違えていると、壁画から御先祖様の霊魂が飛び出して罰を与えられたり……」

「御先祖様コワイ!!」

「ちなみに私は最初、《アスタトの復讐者》の壁画を見た時に、技の掛け手と受け手を間違えて解釈してしまっていた為に、壁画から飛び出してきた霊魂光線を喰らって……あの時は全身黒焦げになったかと思いました……まさか下側の人が掛け手で上側の人が受け手だったとは……」

「うそーん……」


 ナジミはぶるりと身震いすると、フリードにニコリと微笑みかけた。


「さてと、それじゃあフリード君には特別に三大奥義を伝授してあげます!!」

「よ……48の退魔技を教えて欲しいっス!! 48の退魔技マジカッケェっス!!」

「遠慮しなくても良いのよ?」

「何言ってるんスか姐さん!! 奥義ってのはねぇ……日々の鍛錬と研鑽の上に成り立つものなんですよ!! ミナハも『奥義を教えて』とか軽々しく言ってんじゃねーよ!!」

「私は言ってないぞ!?」


 兄貴分に似てきたなぁと思い、クスリと笑うナジミであった。

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