妖姫、弐!!にも現る


 41-①


 オーガ一族の若き俊英、キサイを四天王その三として仲間に加えた影光一行は、四天王の最後の一人、『紅一点枠』を探して移動を続けていたのだが、とある問題にぶち当たっていた。


「だーっ!! テメェら、女の知り合いの一人や二人いねぇのかよ!?」


「お、女にかまけている暇があったら武芸を磨くのが……その……真の武人というものだ!!」


 と、ガロウが硬派を気取れば、


「女子からはずっとゴミを見るような目で見られ続けて……女子と会話したのなんて何年前の事だろう……」


 と、キサイはやたらめったら遠い目をするし、レムのすけに至っては、


「ゴォグァッ!!」


 という有様で……


 要するに、そろいもそろって女性と無縁な野郎共だった!!


「全然ダメじゃねーかテメェら!!」

「うるさい、そう言うお前はどうなのだ影光!!」

「そうですよ、ガロウさんの言う通りですよ!!」

「グォーーー!!」

「バ、バカヤロウ!! お、俺は彼女とかいるし!?」

「それはお前の元になったという人間の話だろうが!!」

「う、うるせー!!」


 ギャースカボコスコとみっともないケンカを繰り広げる影光共だったが……


「い、いたぞーーーーー!!」

「こ、こっちだ!!」


 モテない野郎共の前に、10名ほどの人間が現れた。ワラワラと現れた人間達に対し、影光達は身構えた。


「退治屋さん、こっちです!!」

「……ご苦労様」


 男達の後ろから一人の人物が現れた。マフラーで口元を隠し、マントを纏った小柄な人物である。


「危ないので皆さんは村に戻っていて下さい、ちゃっちゃと片付けて帰りますので」

「は、ハイ……」

「お気を付けて!!」


 口々に言い残して、男達はそそくさと退散していった。


「さてと……」


 男達の姿が見えなくなったのを確認すると、『退治屋』と呼ばれた人物は影光達に向き直った。それを見てガロウが進み出た。


「退治屋だと……人間ごときが俺達を退治すると言うのか……笑止!!」


 言うが早いか、ガロウは退治屋に襲い掛かった。


「グルァァァッ!!」

「フン……」


 ガロウの爪を相手はひらりとかわした。


「避けた……!? グルォォォッ!!」


 ガロウほどの歴戦の猛者ともなれば、予想外の事が起きたとしても、それで攻撃の手を緩めたりはしない。間髪入れずに繰り出されたガロウの攻撃は『蒼き凶つ風』の名に恥じぬ、疾風の如き連撃だったが、敵はそれら全てをことごとく回避した。

 両者の戦いを見ていたレムのすけが驚きの声を上げる。


「グ、グォッ!?」

「いいえ、レムのすけさん、アレは……身体能力の差ではありません」


 ここ数日の間に、キサイはその明晰めいせきな頭脳で、難解極まるゴーレム族の言語を解読し、レムのすけの言葉を理解できるようになっていた。


「単純な身体能力で言えば、ガロウさんの方が相手より遥かに上のはずです。あの速度の攻撃をかわし続けるのは普通に考えて不可能です」

「グオム……」

「確かに、敵もなかなかの身体能力を持っているようですが、あの回避能力は身体能力に頼ったものではありません……よく見て下さい。奴は、ガロウさんが攻撃を繰り出す直前に、既に回避運動に入っているのです、まるで……ガロウさんの次の手を知っているかのように!!」

「先読みだと!? ふざけるな若造、そんな事出来る筈が……グァッ!?」


 ガロウがキサイの言葉にほんの一瞬気を取られた隙を突いて、退治屋は素早く跳び上がり、ガロウの顎に、跳び膝蹴ひざげりを叩き込んだ。


「に、人間が如きがぁぁぁっ!!」

「くっ!?」


 ガロウが咄嗟に伸ばした腕が、敵のマントを引き裂いた。そして中から現れた人物の姿を見てガロウ、レムのすけ、キサイの三人は驚きの声を上げた。


「お、女だと……!?」

「グォァ!?」

「しかも背中に……翼!?」


 中から現れたのは、艶やかで美しい長い黒髪と、それ以上に美しい一対の黒い翼を持った若い女だった。


「貴様の背中の鳥の翼……貴様、《妖禽族ようきんぞく》の者か!?」

「ふふふ……その通り!!」


 妖禽族の女は、口元を隠していたマフラーを脱ぎ捨て、芝居掛かった大仰な動きで漆黒の翼を左右に広げた。


「聞いて怯えろ!! 見てすくめ!! 私の名は──」

「なーんだ、お前ヨミじゃねーか!!」

「ちょっと!! 名乗りの邪魔しないでよっ……って、ん? んんっ!? んんんんんっ!?」


 ヨミは声の主をジッと見た……そして気づいた。

 髪の色が全然違うせいで気が付かなかったが、アイツは……因縁の相手だ!!


「おーす!! ヨミ、久しぶり!! 天下奪りに行こーぜ、天下!! お前に一軍の軍団長を任せるからさぁー!!」

「ゲェーッ!? か、唐観武光ーーー!?」


「違うな……俺の名は《影光かげみつ》、天下を奪る男だ!!」

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