鬼、加わる


 40-①


 青年の名を聞いた途端に素っ頓狂な叫びを上げたガロウとレムのすけに影光は困惑した。


「な、何だよガロウ!? アイツ、スゲェ奴なのか!?」

「あ、ああ……オーガ一族随一の若き俊英しゅんえいで、僅か三十体のオークの部隊を指揮して、二千人がこもる難攻不落のテッペキン城を奪取し、普段から他種族を敵視しがちな各種族の長や将軍達から『我が種族として生まれていれば……』と異口同音に讃えられた程の智略智謀の持ち主だぞ!?」

「マジか……」


 ガロウの言葉にレムのすけも頷く。驚く影光だったが、キサイは苦々しげにそっぽを向いた。


「フン!! 何が智略だ!! 何が智謀だ!! そんな物……オーガの世界では紙屑よりも役に立たないんだよ!!」

「紙屑よりも……!?」

「そうさ、オーガの社会では敵を叩き潰す武力こそが何よりも重要視され、崇拝される……策を用いて敵を倒すなんてのは、『真正面から敵にぶつかり、叩き潰す事の出来ない弱者のやる事』なんだよ!! だから僕は……っ!!」

「俺達を殺して、自分の武力を仲間に認めさせようとした……と?」


 影光の問いにキサイは頷いた。


「ああ、そうさ。でも……やはり僕には出来なかった……」

「貴様程の智謀があれば、我々を罠にかけて始末する事も出来たろうに……」


 ガロウの言葉を聞いて、キサイは自嘲気味に笑った。


「言ったろ、オーガの世界ではそれは弱者のやる事なんだ……武力でお前達を倒さないと意味無いんだよ。さぁ、もういいだろ。殺してくれ……『ビンタ一発でのされた』なんて知れたら、どのみち、オーガの世界では生きて行けない」


 キサイの言葉を聞いて、影光は力強く頷いた。


「よし、分かった……!!」

「ああ、頼むよ……」

「お前は……四天王オーディション合格だッッッ!!」

「……はぁ!?」


 困惑しまくりのキサイに、影光は合格理由を語った。


 知将枠にピッタリな経歴も良いが……それ以上に、お前の『男の意地』が気に入った……と。

 先程ガロウが言っていた通り、ただ仲間に認めてもらえれば良いというだけなら罠にでも何でもかけて自分達を殺し、さっさと首を持ち帰れば良い。誰かが見ているわけでもないし、それが一番楽で簡単な方法だ。

 だが、キサイはそれをしなかった。勝ち目がほとんど無いと分かっていてもなお、策を使わず、拳で戦いを挑んで来た。これを『男の意地』と言わずして何と言おうか。


 もしお前がとんでもないバカだったとしても、それだけで合格に値すると影光は語った。


「わ、訳が分からない……さっきからお前は何を言っているんだ!?」


 先程から困惑しっぱなしのキサイは、ガロウとレムのすけの方を見たが、視線を向けられた両者は苦笑しながら言った。


「諦めろ。実を言うとな、俺達も未だによく分かっていないんだ。お前程の頭脳の持ち主が理解出来ない事が、俺達に理解できるものか」

「グォグォッ!!」

「ただ……コイツと一緒にいると、面白い事が起きそうだ」

「ゴァッ!!」

「お前は一体何なんだ……?」


 キサイの問いに、影光は自信満々に答えた。


「俺の名は影光、一緒に来い……天下を奪りに行くぞ!!」

「て、天下を奪るだと……バカじゃないのか!?」

「そこを何とかするのが四天王その3、『知将枠』のお前の仕事だろうが……なっ?」


 そう言って、笑顔で差し出された手をキサイは思わず握っていた。


 幼少の頃から爪弾つまはじきにされ続け、他人に対する警戒心が人一倍強い自分が、である。

 頭で考えれば、『天下を奪る!!』などとんでもなく馬鹿げた目標である。少しでも知恵のある者ならまず言わない戯言ざれごとだが、『何が智略だ、何が智謀だ』と言ったのは他ならぬ自分自身である。どうせオーガの世界では生きてはいけないのだ、この際……馬鹿になるのも良いかもしれない。



「……フッ、良いでしょう。僕は貴方に付いて行きますよ、影光さん」

「おう!! よろしくな、キサイ!!」



 キサイが 仲間に加わった!

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