少女(青)、反発する


 26-①


 武光は頭を抱えていた。


 武光は暗黒教団特別調査隊……《天照武刃団》の隊長に就任したものの、さっそく隊員の一人であるミナハ=ブルシャークに反発されまくっていた。


「先程は姫様がおられたので、ご心配をお掛けせぬように振舞っていたが……唐観殿、私は貴殿には従わぬ!!」

「へっ!?」


 王都に向けて出発したミト達を見送った直後、ミナハが突如として発した言葉に一同は唖然とした。


「ちょっとミーナ!?」

「ミナハさん!?」


 突然の事に一同が呆気あっけに取られている中、ミナハは再び言い放った。


「もう一度言う、貴殿のような……武人の風上にも置けぬような者の命令には従えぬ!!」

「ど、どういう事やねんな『風上にも置かれへん』って!?」

「先のインサン=マリートとの闘いの時、貴殿は敵に砂を投げて目潰しをしたな?」

「お、おう……」

「我々と戦った時も、クレナを盾にして攻撃を防ごうとしたな?」

「うん……した」

「悔しいが、貴殿の武力は認めざるを得ない……だが、戦い方が卑怯過ぎる!! 武人にあるまじき振る舞いだ!!」

「それは……まぁ」

「それに何より……!!」

「えぇ……まだ何かあるんかいな!?」

「先の大戦の折、貴殿は姫様と共に旅をしていたのだろう?」

「そ、そうや……」


 たじろぐ武光に対し、ミナハは厳しく言い放った。


「ならば……姫様が魔王シンと闘っていた時……貴殿はどこで何をしていた!!」

「うっ……そ、それはやな……」

「三年前のあの日……私は空に映し出された魔王と勇者様達の決戦を見ていた……姫様が魔王に痛めつけられていた時……アスタトの巫女様が倒れた時……光の勇者様達が魔王と闘っておられた時……貴殿はどこで何をしていた!! 全てが終わった後にノコノコと出てきて……巫女様の唇を奪っただけではないか!!」


「「びゃーーーーー!?」」


 武光とナジミは、こっ恥ずかしさのあまり両手で顔を覆ってしまった。


「……どうせ姫様達が傷つけられている間もどこかに隠れて震えていたのだろう?」


 ミナハの辛辣しんらつな物言いに、流石のナジミもムッとした顔をした。


「ミナハちゃん、それは違います!! 武光様はあの時──」

「待てや!!」


 武光は、真実を話そうとしたナジミの言葉を制し、ただ一言、『言うな』とだけ言った。


「でも……」

「ええから…………言うな」

「フン……図星だから言えぬのだろう。やましい事がないのなら堂々と話せるはずだ!!」


「……」


「とにかく、姫様の御命令があるので貴殿の旅に同行はするが、間違っても私を部下だなどと思わないで頂きたい!! 卑怯者の一味になるなど……我がブルシャーク家の恥だ!!」

「ちょっ、ミーナ!? 私、呼び戻してきます!!」

「す、すみません隊長さん!! わ、私も行きます!!」


 そう吐き捨てると、ミナハは物凄い勢いで駆け出し、その後をクレナとキクチナが慌てて追った。


「武光様、追わなくて良いんですか……って、ちょっと涙目になってるー!?」

「だってお前……あんな……けっちょんけっちょんのめったくそに言わんでもええやんけ……」

「もー、だったらミナハちゃんに真実を教えてあげたら良いじゃないですか!?」

「いや、絶対にそれは出来ん!!」

「どうしてですか!?」


 長い沈黙のあと、武光はポツリと答えた。


「…………ミトに騙されてたって知ったら、あの子らショック受けてまうやろが。ミトの為にも、あの子らの為にも……それだけは出来ん!!」

「武光様……」

〔フッ……君らしいね〕

「ねぇアニキ、ナジミ姐さんのいう『真実』って何なの……?」


「ゴホン…………さぁ!! ミナハを追いかけるぞーーー!!」


「ちょっと、アニキーーー!?」



 武光は宿を飛び出した!!

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