調査隊結成編

斬られ役達、聴き込む


 23-①


「おおー、ここが……」

「はい、シューゼン・ウインゴです!!」


 インサン=マリートを退けた武光一行は、ようやく当初の目的地、シューゼン・ウインゴに到着した。

 この街へ向かう途中で行方知れずとなっていた王家の姫君が到着したのを知ると、この街の代官と守備軍の司令官はすっ飛んで来て平伏へいふくした。


「こ、これはミト姫様!!」

「よくぞご無事で!!」


 ミトは平伏する二人に声をかけた。


「出迎えご苦労様です」

「本当に良かった。それにしても……今まで何処におられたのです!? 目撃証言があった北西の森を守備軍総出で捜索していたのですが……」

「北西の森……ですか?」


 ミトの問いに司令官は答えた。


「ハッ!! 数日前、『ミト姫様の御一行が北西の森で影魔獣に襲撃されている!!』と訴えてきた者がおりまして、大至急救援部隊を編成し向かわせたのですが……」

「全然見当違いの方向じゃない!!」

「えっ!? そ、そうなのですか!?」


 困惑する司令官に、今度は武光が質問した。


「すいません、もしかして目撃情報をくれた人って……女性ですか?」

「ん? ああ……」

「二十代くらいの?」

「ああ……」

「も、もしかして……髪の色、銀色でした?」

「う、うむ……」


「う、うん子やーーーーーーーーー!!」


「は? 何です? うん……?」

「……武光様、いくら敵とはいえ女性にそのアダ名はやめましょう!!」

「お、おう。そ……それでその女は何処に!?」

「分からぬ、姫様の捜索でそれどころではなかったからな……」

「あかん……あのアホ、絶対に何か企んどる!!」


 それを聞いたミトはすぐさま司令官と代官に命じた。


「すぐにその女の行方と、この街で何をしていたのか調査させなさい!!」

「ハッ!! 直ちに!!」

「それと……この街の西の街道に私の護衛を務めていた兵士達の遺体があるはずです……皆、命懸けで私を逃してくれた勇士達です。遺体を回収し、手厚く葬りなさい」

「……はい。それと姫様の護衛と思しき大男がこの街に辿り着いております。重傷を負っており、街に辿り着いた途端に倒れてしまい……一命は取り留めたものの、昏睡状態です」


 それを聞いたミトはホッとした表情を浮かべた。


「良かった……!! ベン……生きていたのね!! ナジミさん!!」

「ハイ!! ベンさんの治療は任せてください!!」

「お願いします!! それと代官」

「は、はい!!」

「私の仲間達に宿を用意しなさい」

「この街一番の宿をすぐに用意させます、それでは失礼致します!!」


 ミトの命令を受け、司令官と代官はミトに深々と一礼すると、大慌てで走り去った。

 一連の流れを見ていた武光は思わず感嘆の声をもらした。


「凄いな、ミト」

「フフン、当然よ!!」

「まるでお姫様みたいやったわ!!」

「お姫様よっ!! とりあえず、今日はナジミさんにベンの治療をしてもらって、もう休みましょう……疲れたわ、凄く」

「せやな……」


 一行は街の診療所に行き、ナジミにベンの治療をしてもらった後、代官が用意してくれた宿で一夜を過ごした。


 23-②


 それから数日の間、武光、ナジミ、フリードの三人は街の人々に聞き込みをして回ったが一向に情報は集まっていなかった。

 今日も今日とて街を歩き回って情報収集を終えた三人は集合場所に集まっていた。


「あっ武光様、どうでした?」

「いやー、さっぱりやわ。フリード、お前は?」

「ダメだったよ……アニキ」


 フリードは今までの気取った言葉遣いや口調をやめて、すっかり本来の自分を出すようになっていた……生命の危機を共に乗り切った二人は今や互いに義兄弟と呼ぶほど仲良くなっている。


 ……ちなみに、二人が乗り越えた『生命の危機』とは、宿屋自慢の露天風呂でナジミが入浴していた際に、二人して男湯のへいから顔を出して女湯を覗こうとしていた所を見つかり、彼女から受けた《地獄の制裁》の事である。


 犯行直前に、唐観武光とフリード=ティンダルスの両名は『我ら、生まれた時は違えど……死ぬ時は同年同月同日に死なーーーんッッッ!!』と素っ裸で誓い合ったと聞いて、ナジミは呆れまくった……全く、バカじゃないのか!?

 すっかり仲良くなった武光とフリードを見て、喜んで良いものやら呆れたものやら……ナジミは複雑な気持ちのこもった溜め息を吐いた。


ねえさんの方はどうだった?」

「成果はありませんね……どういうわけか、皆さん『怪しい人を見かけませんでしたか?』って聞いても全然答えてくれませんし……」

「どうもこうも……お前のその格好が怪し過ぎるんやって……主にそのキツネ面が」

「キツネじゃなくてネコちゃんですし!! 怪しくないですし……可愛いですし!!」

「いや、お前魔王との戦いでそこそこ有名になったんやから、顔見せたったら、皆、協力してくれるやろが!?」

「絶対に嫌です!!」

「何でやねんな!?」

「だって……武光様の国ではどうか知りませんけど、この国では人前で口付けするなんて結婚式とか特別な時だけなんです!! 人前どころか国中の人が見てる前で口付けしてる所を見られて……私、絶対痴女だと思われちゃってます!!」


 それは、ナジミの被害妄想も入ってはいたものの、確かにこの国では、いかに夫婦や恋人同士であろうと、結婚式でもないのに人前でキスなんぞしようものなら、少なくとも、現代日本の2倍……いや、10倍くらいは白眼視されてしまうのだ。


「大体、武光様とフリード君だって怪しまれてるんじゃないですか!?」

「うっ……」

「それは……」


 ナジミの言う通りだった。この国では黒い髪や銀色の髪の人間はかなり珍しい。

 武光とフリードもこの街の住人達からすれば、十分すぎる程に『胡散うさん臭い余所よそ者がコソコソと街の様子をぎ回っている』のである。警戒されて中々口を開いてくれないのもむべなるかなといったところである。


 頭を抱える三人の前に、クレナ、ミナハ、キクチナの三人と怪力無双の護衛隊長ベン=エルノマエを引き連れて、ミトがやってきた。



「武光……貴方に話があります」

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