聖女、名乗る


 6-①


「うおおおおおっ!!」


 武光は超聖剣イットー・リョーダンを八双はっそうに構えると、雄叫び上げて突撃した。


「ふん……死になさい!!」


 聖女は黒刃の槍を武光の心臓目掛けて繰り出した……だが!!


「遅ーいっっっ!!」


 武光は半身になって刺突を躱すと同時にイットー・リョーダンを袈裟懸けに振り下ろし、杖の先を “すん!!” と切り落とした。


「なっ!? せ、聖杖が……」


 杖の先端を切り落とされた聖女は後方に跳び退いて間合いを取ろうとした……だが!!


「逃がすかぁぁぁっ!! ……そいやっ!!」

「うぶっ!?」


 聖女がバックステップで距離を取ろうとするよりも速く、武光はジャンプしながら空中で身体を反転させ、越◯詩郎ばりのヒップアタックを聖女の顔面に叩き込んだ。

 ヒップアタックの直撃を受けてふっ飛ばされた聖女がドサリと地面に倒れ込む。


「シャッッッ、ふざけんなバカヤローコノヤロー!! やってやるって!!」


 顔面に尻をブチ当てられるという、女性にとってかなり屈辱的な攻撃を受けた聖女は越◯詩郎……もとい、武光を “キッ!!” と睨みつけた。


「ぐうっ……こ、この私に……!!」


 聖女を見下ろし、武光がニヤリと笑う。


「女で良かったなぁ……この唐観武光……女を斬る剣を持ち合わせてはおらん!!」

〔いや、だからって女性の顔面に尻を叩き込むのはどうかと思うぞ、武光〕

〔ご主人様、カッコイイ!!〕


 別にカッコイイ事をしているワケでもないのに、カッコ良さげな台詞を吐いてドヤ顔を決めている武光にツッコむイットー・リョーダンと、相変わらず武光に心酔している魔穿鉄剣であった。


「さぁて、お前もフリティン共々……神妙にお縄を頂戴しろーーーぃ!! って、おわーーーーーっ!?」


 武光は倒れている聖女を取っ捕まえようと、聖女に近付いたが、聖女の足下の影から突如として影で形成された真っ黒な突撃槍ランスが突き出された。

 武光は咄嗟に上半身を後方にらす事で足元からの奇襲をギリギリで回避した。


「あ、危なぁぁぁっ!?」


 武光がひるんでいるすきに聖女は体勢を立て直し、武光と距離を取っていた。


「唐観武光……その顔と名、確かに覚えましたよ……!!」


 聖女は地面に向かって手をかざし、漆黒の穴を生み出した。異界渡りをする時に出現する穴に似ている……きっとあの穴は敵のアジトに繋がっているに違いない。

 穴に飛び込んで逃げる素振そぶりを見せた聖女に武光が叫ぶ。


「ま……待てコラァ!! 尻尾巻いて逃げる前に名前くらい名乗らんかい!!」

「……貴方に指図されるいわれはありません。我々の組織に繋がる情報を簡単に喋るとでも?」


 聖女の言葉を聞いて、武光は悪党感満載の笑みを浮かべた。


「ほう……? そうかそうか、ほんならお前の名前は……『ゲロカス=うん子』な!! そう名乗ってたってあちこちで触れ回ったるからなあっ!!」

「なっ……」


 数秒の間の後、聖女は苦々しげに言った。


「……シルエッタよ、シルエッタ=シャード……覚えておきなさい」


「それがお前の名前か……まぁ、本名を名乗ったところで『ゲロカス=うん子』で吹聴ふいちょうしたるけどな!!」

「なんと下衆げすな……!!」

「鏡見てから言えブス!!」

「唐観武光……いずれ貴方には天罰を下します、覚悟しておきなさい!!」


 そう言い残すと、《影の聖女》シルエッタ=シャードは穴に飛び込み……姿を消した。


 シルエッタは にげだした!

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