このお話、とても読み口が不思議で、一話が一番緊張感があるんです。
二話以降は答え合わせというか、行くべき場所へと向かっていく物語になるので、緊張感というよりも「よーし、そうだ、いけー、いけー、そのままいけー」という感じになるのですね。
一話の話に戻りますが、なぜ緊張感があるかというと、恋物語であることは分かっていて、お互いの好意も十分に高い二人が、ものすごい鍔迫り合いをしているからです。どちらが言うのか、言わせるのか、言わずに引っ張るのか、踏み込めば付き合うところまで行くだろう二人が、微妙な距離感を保って言葉を交わしている雰囲気にどことなくえろさがあるのですね。
初稿は十年前に書かれたものということで、スマホもない。携帯電話はあるけれど気軽に電話をするには重いツールだった頃です。
二話で出てくる「手紙」という連絡手法が、この物語の「会うことができなくなる距離感」をとてもよく表していて、懐かしさを感じました。