第15話 女子高校生 ときめく
「これから、どうする……?」
大神の言った言葉が理解できず、私は聞き返した。彼はナイフでステーキになった謎の肉を切ると、フォークで刺して口へと運ぶ。
「そうだ。九条がぐっすりと寝ている間に、村人からそこそこのお金をお礼金として貰った。調べてみると、一か月は二人で楽に生活できる金だ。節約すれば二か月もいけるだろう」
「あ、だからご飯を食べられるのか」
何処から出たお金かと思っていたけど、村人がくれたのか。良かったこれで金銭の悩みは解決した。
「で、貰った金だが。俺と九条の山分けでいいな?」
「え、なんでッ!? いや嬉しいけど、なんでくれるのっ!?」
私は身を乗り出して食い気味で答えた。
「当然だ。盗賊を倒したのは俺だが、そもそも村人を助けようと言ったのは九条だ。それに、お前の職業が無ければ俺も盗賊を倒す事が出来なかった」
「……たしか『痴漢魔導士』の能力って『痴漢をした相手の能力をコピーする』だっけ?」
「おそらく」
私が気絶していた間の出来事は、荷馬車に乗っている時に教えてもらった。大神は私に痴漢したことによって、私と全く同じ職業の力を得たらしい。実際に私は目撃していないけど、嘘をつく必要もないから本当の事なんだと思う。
「俺は九条の命令に従っただけだ。そうなると、このお金はお前にも受け取る理由がある」
「……まぁ、そういう事になるけど……」
――なんだか釈然としない。有り難いだけど。悪い奴がいきなり優しくしていたら調子狂うみたいな。
大神はエロい奴だけど、意外とそこまで悪い奴じゃないのが……むぅ。怒れないっていうか。困る。
お金の件だって、そもそも秘密にしていれば全額大神の懐に入ったというのに。変に律儀な奴だ。
「さぁ、お前は金を手に入れた。一人でだって生きていこうと思えば生きていける。それでも――俺と一緒に行動するか?」
「……あ。どうする? ってそういう意味……」
詰まる所、大神は『俺と一緒に行動するか? それとも二人で行動するか?』を私に選択させているのだ。
確かに言われてみれば、大神と一緒に行動する理由はない。縁があって今は一緒にいるけど、お金が手に入った今は一人で生きていく選択肢も存在しているのだ。
「…………………………」
――どうだろう? 私は並べられた料理を眺めながらしばし思いを巡らせる。
私は男が嫌いだ。出来ることなら関わりたくないと思う。だって力が強いから勝てないし、エロいし。私の頭の中で理不尽を凝縮させた存在が『男』という概念であった。
――しかし、それは偏見だ。いい男だっていると思うし、盗賊のような悪もいれば大神のようなよく分からない人もいる。
だからこの男に対する苦手意識は、私がよく知っている男が『父親』しかいない故の錯覚みたいなものだと思う。男性経験が少なすぎて、男が理解不能な化け物にしか見えないだけだと私は自分の感情を整理した。
……で、あれば。どうしよう?
痴漢されるのは嫌だけど、これから一人で生きるのは――。
「…………ひとまず保留とか駄目?」
「駄目だ。今答えろ」
「………………うぅ」
正直を言うと、本音を言うと、心の奥底の気持ちを言語化すると、
何か悔しくてムカついてムシャクシャしてモヤモヤして顔が熱くなるけど――
「…………一緒にいたい」
私は言った。そっぽ向きながら言った。
「……ち、違うからね!? 別に大神が好きとかじゃなくって……そ、そうっ! 前みたいに騙されるかもしれないから一緒にいたいだけあって! これは仕方がなくだからねっ!?」
何言ってるんだ私はっ!? 言い訳し過ぎて漫画とかでたびたび出るツンデレ女子みたいになってるんですけどっ!?
ちらり、と私は大神の様子を伺う。べ、別に彼が喜んでいるか気になったとかじゃないんだからねっ!
「そうか。それは助かる」
大神は――笑っていた。
まるで大魔王かと思うような邪悪な笑みを。
…………え。
「九条は約束したのを覚えているか? ――盗賊を倒したらなんでもいう事を聞くと」
「私、言った!? 言ってないと思うんですけど!」
檻の中に捕まった時に、村人を救ってもいいがそれ相応の対価を体で支払えとは言われたけど!
盛ってるよ! 明らかに盛ってるって!
「――俺は悩んだ。『同じ女性を痴漢しない』というのは俺のポリシーだったが、据え膳食わぬは男の恥という言葉もある。……ふむ。悩ましいな」
「悩ましくないよっ! だって私言ってないもんそんなことっ! って言うか、私のセクハラする願い前提なのっ!?」
「当たり前だろう。俺は『痴漢王』だぞ? 据え乳食わぬは男の恥というだろ?」
「ねぇよっ! 勝手に作ってドヤ顔で言うなぁああああッ!」
「俺の要求はただ一つだ。――お前が欲しい」
「………………っ!?」
最悪な奴の最悪な言葉なのに――何故か私の心はキュンっと高鳴った。
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